日本オリンピックミュージアム(東京都新宿区)も新型コロナの影響で臨時休館中。再開のめどは立っていない

外出・イベント自粛のムードが続くなか、美術館が"業界ならではの事情"でいっそうの打撃を受けている。ある学芸員(国立系美術館勤務)が口を開く。

「国立系の施設は国の方針には従わざるをえず、議論する間もなくお休みとなりました。学芸員といえば薄給激務、さらに休みはわずかというグレーな職場ですので、お休みとなるのは最初は本当にうれしかったです。

しかし、閉館中でも固定費がかかるということで、減給や人員削減という噂も出始めたのです。有期の職員の中にはバイト先を探し始める人もちらほら出てきました」

自粛の波は国立系美術館にとどまらず、多くの私立の美術館も休館を余儀なくされている。ここで問題となるのが、美術館特有の「固定費」の大きさだ。アートテラーのとに~氏が解説する。

「ほかの美術館からたくさんの美術品を借りて実施する企画展には、作品を飛行機やトラックで運ぶための輸送費やレンタル先の美術館職員の滞在費など、莫大な費用が発生します。ほかにも、美術展を知ってもらうためにかける宣伝・広告費、警備費用などがありますが、一番お金がかかるといわれているのは美術品本体にかけられる保険金ではないでしょうか」

アート作品を借りること自体は、交換貸し出しや信頼関係により費用が発生しないのが慣例。だが、作品の盗難や破損に備えて高額の専用保険に加入する必要がある。会期や場所などにより異なるが、「目玉となるような作品には数千万円から数億円の保険金となるため、日割り換算でも数百万円になる」(とに~氏)と、そのコストはバカにならない。

こうした固定費が重くのしかかるなか、休館で入場者が絶たれてしまうと......。

「入場料収入がなくなることもさることながら、最近の企画展では図録やグッズ収入が入場料収入を上回ることもあります。しかし契約上、企画展が終わった後にグッズを再販することはできないので、販売を見越して生産したメーカーや美術館はすべて破棄しなければならないのではないでしょうか」(とに~氏)

例えば、東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムの「永遠のソール・ライター」(1月9日開始)や、東京国立博物館の「出雲と大和」(1月15日開始)は客の入りがいい大ヒット展示だった。

しかし、美術展の書き入れ時とされる会期のラスト1~2週間を待たずして、新型コロナの影響で会期終了となってしまったため、収入減は相当な規模になるはずだ。

さらに3月24日には、泣き面に蜂で東京五輪の延期が決まってしまった。

「昨年9月に東京・新宿にオープンした『日本オリンピックミュージアム』を筆頭に、今年は五輪によるインバウンド客増加を見込んで多くの美術館が大型の展示を予定していましたが、これらが空転してしまうことになります。この準備や調整には3~10年かかっているものもザラですが、来年の展示もすでに決まっている以上、今年の主力展示を五輪に合わせて延期するというわけにはいきません」(とに~氏)

関係者の苦悩は尽きない。