最後の昭和とも言えるテレビ業界がアップデートするときが来たのかも 最後の昭和とも言えるテレビ業界がアップデートするときが来たのかも

先月、コメディアンの志村けんさんが新型コロナウイルスによる肺炎で死去。芸能界でも多数の感染者が出たことで複数の局が報道部門以外の番組収録を見合わせることを発表し、テレワーク出演などの導入に踏み切っている。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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接触感染と飛沫(ひまつ)感染を避けること、人と人との間を2m空けましょう、無自覚に感染を広げないよう、マスク着用をと、どの番組でも呼びかけていますよね。しかしこの新型コロナウイルス流行のただ中にあって、テレビの現場には接触と飛沫があふれています。

画面で見ればおわかりのように、テレビのスタジオには人が密集しており、マスクなしで声を張ってしゃべります。セットは消毒されておらず、マイクにはたくさんの人の飛沫がついています。ピンマイクを胸につけるときには音声さんと30cmほどの距離で向き合います。ヘアメイクさんは出演者の顔に触れなくてはなりません。

スタジオは外の音が入らない密閉空間で、画面に映っていない場所にはカメラマンやADさんなど大勢の人が立っています。バラエティの収録は数時間に及ぶことも。ドラマは密接な接触や会話の場面があり、長丁場。つまり、感染拡大の温床になる要素であふれているのです。

一気に感染が広がった欧米では、テレビ画面の中でも措置が取られました。英BBCでは、キャスターが自分でヘアメイクをしてスタジオにひとりで座り、ほかの出演者は全部中継にしたり、街頭インタビューも2m空けて、ブームマイクで離れた所から音を拾ったりしています。

米CNNでは出演者全員が違う場所から画面をつないで討論し、画面上はオンライン会議中のパソコン画面のような状態に。毎日見ていると割とすぐ慣れてしまいます。

日本でも複数のテレビ局内で感染者が出たことをきっかけに取り組みが進み、キャスターが別の場所から出演したり、バラエティでも自宅からオンラインで出演するようになってきました。放送局の入り口にサーモグラフィーが設置されるなど、現場の対策も急ピッチで進んでいます。

おそらくこれを機に、従来のテレビの形が変わるでしょう。ベニヤで組んだセットにタレントがずらりと並ぶ「体を集めてやる」方式から、リモートで出演するのが当たり前になるのではないかと思います。テレビという箱に人を詰め込むのではなく、テレビが世界中から人が集まる広場に変わるということ。

結果として、従来のトークの演出法や情報の見せ方が変わらざるをえず、新しい表現や企画がたくさん生まれるのではないかと思います。出演者はある程度デジタル技術を使えることが条件となってくるでしょう。打ち合わせはオンラインで済ませ、スラックでやりとりするなど、これまでかなりアナログに運営されていた現場が変わっていくはずです。

体力勝負で長時間残業が武勇伝となるような働き方も少しずつ変わってきています。最後の昭和とも言えるテレビ業界がアップデートするときが来たのかも。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。共著『女の七つの大罪』(角川文庫)が好評発売中

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