日本は5G時代が来る前にそろそろファクスとハンコをやめようかと言っているありさまです

新型コロナウイルスによって図らずも「IT後進国・日本」の図式が明らかに。その一端ともいわれるハンコ文化からの脱却を叫ぶ著名人も多い。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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爆速でコロナ情報サイトを立ち上げた東京都。さすが副知事が元ヤフー社長!と話題になったのに、データのやりとりがファクスだったため集計ミスが発覚。衝撃のニュースでした。

医療機関から保健所へ、保健所から都へ、という情報のリレーで、保健所はファクスを使っていたんですね。送信ミスや職員の読み間違いにより、感染者数の報告漏れが111人も。集計はファクスに加えて電話やメールで職員がやりとりして進めていたそうで、この痛恨のミスでようやくデータベース化することにしたそうです。

今、自宅にファクスありますか? 私は80代の親との連絡でごくたまに必要になるのでファクス付き電話を設置していますが、使うのは年に一度あるかないか。いまだに日常的にファクスを使っているのはおじいちゃん、おばあちゃんだけだと思っていたのに、まさか公的機関での情報のやりとりに普通に使われていたとは。

今回のコロナ危機では、30年前には「電子立国日本」と自称していた日本がとてつもないアナログ国であることが露呈しました。そんな気はしていましたよね。

ネット銀行なのに紙にハンコで書類提出しなくちゃいけないとか、何をするにもやたら提出物が多いとか、コロナのもろもろの給付の申請でも指摘されているように、とにかく日本の手続きは「手間暇かけてお伺いを立ててようやくお許しいただく」構造になっているので、とてつもなく効率が悪いのです。

"ハンコ文化"もそうですね。あれは儀式。「ハンコをいただくためにわざわざ足を運んで参りました」「どんなに頑張ってもハンコをいただけないと身動きが取れません」という状況をつくり出し、相手の自由を制約するための儀式です。

私の友人も外出自粛中に上司のハンコをもらうためだけに出社しました。権限のある者が、そうでない人たちに膨大な手間暇というコストを強いることで成り立っているハンコ支配。これが染みついた日本の組織で、IT化が進むはずがありません。エラい人が下々に苦行を強いる儀式は多いほどいいのです。

6年前に家族の拠点をオーストラリアに移して驚いたのは、いろんな分野でIT化が日本よりも進んでいたこと。中学生以上はPC持参で通学しサイトにログインして学習を進めるし、銀行や行政の手続きはオンラインで済むし、電子決済は当たり前。コロナ危機でも、保健省が感染者との濃厚接触歴追跡アプリを導入しました。

これは豪州が進んでいるというより、日本が遅れているんだよなと実感。今やアジアでは中・韓・台などは時代の先端を行くのに、日本は5G時代が来る前にそろそろファクスとハンコをやめようかと言っているありさまです。"お伺い文化"が変わらない限り、アナログ日本は健在かも。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。佐藤愛子との往復書簡集『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか 女二人の手紙のやりとり』(小学館)が好評発売中

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