事故物件について語ってくれた大島てる氏
ジャパニーズホラーの代名詞ともいえる『呪怨』シリーズ。2003年に公開された劇場版を皮切りにハリウッドでのリメイクやシリーズ化に発展し、世界に羽ばたくことに。

そんな『呪怨』シリーズの最新作『呪怨:呪いの家』が、日本発のNetflixオリジナルシリーズ初のホラー作品としてこの度、配信開始された。本作は、荒川良々演じる心霊研究家の小田島が心霊番組で共演したはるか(黒島結菜)が経験した怪奇現象に興味を持ったことをきっかけに物語が進んでいく。そんな中、接点のないさまざまな登場人物をつなぐ鍵として、事故物件である呪いの家が登場する。

今回、事故物件公示サイトを運営する大島てる氏に、本作の魅力やぜひ知っておきたい事故物件の恐怖についてお話を伺いました。

■怪奇現象が起こるだけじゃない事故物件の恐怖とは?

――『呪怨:呪いの家』の大きなテーマに事故物件があります。事故物件の専門家である大島てるさんから見た本作の印象を教えてください。

てる 『呪怨』シリーズを観るのは初めてだったのですが、配信中の全6話を一気に観てしまいました。ステイホーム期間があったこともあり、題材となっている家というものを身近に感じられるので、より怖いと思える作品だったと思います。

――ちなみに、作中に出てくる物件は『事故物件』の定義に当てはまるのでしょうか? 

てる 作中では物件内で殺人が起こっているので、当然事故物件に当たります。まぁ、実際には殺人や火事によって物件内で人が亡くなったとしても、必ずしも不可解な現象が起こるとは限らないですが。

――でも、どうしても気になっちゃいますよね......。実際、家を買ったり、借りるときに事故物件かはどのように判断したらよいのでしょうか?

てる その物件で殺人などがあったということ以外にも、構造に問題があるなどの場合には告知義務が不動産仲介業者には定められています。

しかし、お年寄りの孤独死などは業者によっては自然に起こり得るものとして、告知されずに扱われることもあって。

作中に事故物件として登場する家

――業者の判断次第なんですね! 知らぬ間に事故物件に住んでる可能性があるかと思うと、それこそホラー!!

てる 業者側が知っている事実を告知しないということにペナルティが課せられるのですが、事故から年月が経ってしまったりすると、事件の詳細を(業者が)そもそも知らないということもあります。ちなみに、『呪怨:呪いの家』でも作中で起こった事件がニュース番組として報道されていましたよね。

――はい、ありました。

てる 複数箇所を刺されて死亡したと報道された事件の裁判を傍聴して、よくよく確認してみると、実に100箇所以上刺されていたということも過去に存在しました。その報道自体はもちろん間違いではないのですが、複数箇所と聞くか100箇所以上と聞くかによって、だいぶ印象が変わってきます。

――たしかに。まったく別の事件に感じてしまいます。

てる 『呪怨:呪いの家』では犯行現場とニュース番組の両方を見られますが、現実では簡略化された報道のみを見ることがほとんどなので、事故物件なんて平気だと安易に思う人が増えてしまうのかなと。

――安いからと事故物件に引っ越してきた夫婦も、作中に登場していましたね。

てる 不動産仲介業者側としても悪質な業者を除けば、隠したり嘘をつこうとしているわけでもないですし、誰かしら住んでくれる人が見つからないと物件として死んでしまいますから。ですが、幽霊は信じないし家賃や値段が安いならという安易な理由で、その物件の実態を知らずに住んでしまう人も多いのだなと思ってしまいます。

――もちろん、何事もなければいいのですが......。

てる ですが、偶然でも事件に関わるようなことが起こってしまったら、人間というものはどうしても結びつけて考えてしまう。そこが怖いですね。事故物件であることを承知で住んだ結果、メンタルをやられて自殺してしまった人もいるんです。実際にWEBサイト「大島てる」にも載っている物件ですが、自殺に至った経緯の詳細も含めて亡くなってしまっているので確かめようがない。

――『呪怨:呪いの家』シーズン1の最終話も、そういう意味で怒涛の展開でした。

てる 妊婦の方がいるのに事故物件に引っ越してくるなんて、何を考えているんだとは思いましたね。追い詰められて流産をしてしまう可能性もありますし。気にしないと言いつつも、どうしても気になってしまうのが人間ですから。

――ちなみに、事故物件の情報が載っているWEBサイト「大島てる」の利用者は、格安物件を探す目的で使われることもあるのでしょうか?

てる そういう人もいますね。私としては中立の立場で、包丁を使って料理をすることもできれば人を刺すこともできるのと同じように、利用者の方に使い方は任せています。ですが、事故物件を探す上でもっとも気をつけなければならないのが、事件があったことを隠蔽して家賃も据え置きで貸し出そうとする悪徳業者なんです。そうされてしまうと、格安物件狙いで事故物件に住みたいというような人も住めなくなり――。

――何も知らない人が、普通の家だと思って事故物件に住んでしまう......。

てる そういうことです。そういう方が引っ越してきたあとに、(荒川良々演じる)小田島のように訪ねてきた心霊研究家などから事件があったことを知らされることもある。

――想像するだけで恐ろしいです......。

心霊研究家の小田島

■事故物件は建て直してもリセットできない?

――『呪怨:呪いの家』をはじめ、最近は映画やゲームなどで事故物件を題材にしたエンタメ作品が多いですね。

てる 私自身知っているものもあれば知らない作品もありますが、事故物件やホラーを題材にした作品を観て楽しんでも、根本的には自分の身に直接被害が及ぶわけではないですよね。そういった作品を楽しめるだけの余裕があるのではないかと思っています。

――なるほどー! 家で身近に楽しめますしね。

てる 身近という点では、この作品は1980年代後半から90年代が作中の舞台となっているので、モチーフになっているだろう事件や災害を、私自身がリアルタイムに見てきた世代というのも大きかったです。

――TVや小物類なども当時の空気感を再現していますよね。小田島が使うレコーダーがカセットテープだったり。

てる これが別世界の話だと、自分のことのようにリアルに怖いなと思えなかったでしょう。

――家で観ているとそういったリアルさもあって、怖すぎて電気をしっかり点けていないと観れなかったです(笑)。

てる しかし、物語の中核となる家は古すぎるのでさすがに取り壊してもいいかなと(笑)。

――(笑)。ちなみに、事故物件は取り壊して新たに建てた場合は事故物件ではなくなる?

てる 家を取り壊したとしても、事故物件であることがリセットされるわけではないです。それこそ、作中に出てくる家も建て直してどうにかなるレベルじゃないですね(笑)

過去には、木造アパートが火事で焼け落ちてしまい、鉄筋コンクリートのマンションを建て替たら、今度はそこで殺人事件が起きてしまったということも現実にありました。土地自体に問題があったと言えるでしょう。

――えぇ。改めて事故物件、恐ろしすぎます......。

てる 本当にそうなんです。だから安いからといって安易に事故物件に手を出すことはお勧めしません。想像以上の恐怖の出来事が起きたりするのが事故物件なんです。『呪怨:呪いの家』を観たら、その恐ろしさが少しでも追体験できるのではないでしょうか。

●大島てる
事故物件公示WEBサイト「大島てる」の管理人。WEBサイトと同名の個人名義にて、事故物件に関するメディア出演も多数行なっている。

■『呪怨:呪いの家』はNetflixにて絶賛配信中!