2020年4月の自殺者数は前年同期比で大幅に減少したものの、厚生労働省の人口動態統計によれば日本の自殺死亡率は依然G7のなかでもワーストワン。
タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。
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悩み事の相談窓口が混雑しているそうです。コロナ危機による健康と経済の不安に加え、つらい気持ちになる出来事が続いています。
コロナで亡くなった方々のニュース、そして5月、7月と著名人が命を絶ち、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の嘱託殺人事件、神奈川県相模原市の津久井やまゆり園で45人が殺傷された事件から4年たつなど、生きる意味や命の価値について語られることが増えました。各地で水害による犠牲者や大きな被害も出ています。感染予防で気軽に外出もできず、鬱々(うつうつ)としている人も多いのでは。
パンデミック発生以降、電話やネットなどでの悩み相談の件数が激増し、なかには10分の1ほどしか対応できない機関もあるとのこと。長年自殺防止に携わる専門家らは、今後は経済的な苦境に陥るケースが増えることを強く懸念しています。
テレビなどで見慣れている人が亡くなると、心理的に大きな影響を受けるともいわれています。木村 花さんや三浦春馬さんに関する報道のなかには、WHOの自殺予防のガイドラインを守っていないものもあり、問題視されました。
センセーショナルに繰り返さない、遺書や具体的な自死の方法を報じない、悩んでいる人の相談窓口を明記するなど、自殺に関する報道にはやってはならないこととやるべきことがあります。ガイドラインを守っている記事でも、ツイッターやニュースサイトに並べば、同じ話題を繰り返し目にしてしまうことに。
気持ちがふさいだときには、身近な人と話してみるといいかもしれません。死や命について語ることをタブー視せず、不安な気持ちやモヤモヤを言葉にできる場所を持つことが大切です。「今は不安な気持ちになるのも無理はないよね、つらいよね」といたわり合ったり、一緒に過ごしたりするだけでも気持ちが和らぎます。
ネットには亡くなった方の動機を勝手に分析している記事やツイートもあるけれど、当人にしかわからないことや、当人にもわからないこともたくさんあるはず。勝手な詮索は亡くなった方の尊厳を傷つける行為です。
私は、亡くなった人を思うときは、悲しみを否定せず、同時に、幸せそうにしていたときのことも思い出すようにしています。あのときは心から楽しそうに笑っていたな、うれしそうに話していたなと。
心を休ませるために、ニュースから距離を置くのもいいかもしれません。目の前の家事をこなしたり景色に目を凝らしたりしていると、だんだん自分の体と心の感触が戻ってきます。今この瞬間に集中することで、少し落ち着きを取り戻せるかも。
●小島慶子(こじま・けいこ)
タレント、エッセイスト。『曼荼羅家族「もしかしてVERY失格!?」完結編』(光文社)が好評発売中
※つらいときには。「いのちと暮らしの相談ナビ」
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