「今までの成功パターンを維持し、次世代にも強要させる高齢者が増えていく。ルールが変われば、自分も新人選手になってしまうので、おのずと保守化するんです」と語る河合雅司氏

新型コロナウイルスの影響で、今年1~7月に受理された妊娠届の件数が前年比で5.1%減、5~7月に限定すると11.4%の落ち幅に(厚生労働省)。このペースが続くと、単純計算で2021年の出生数は70万人台半ばまで落ち込む可能性もある。

先の見えない人口減少・少子高齢化問題に対し、警鐘を鳴らすのが『未来を見る力 人口減少に負けない思考法』を上梓した作家・河合雅司(かわい・まさし)氏。人口減少・少子高齢化を「慢性疾患」にたとえる氏は、「コロナという急性疾患が加わったことで、対策への残り時間がかなり奪われた」と強い危機感を募らせる。

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――9月に誕生した菅政権は不妊治療への医療保険適用など、少子化対策を打ち出していますが、どう評価していますか?

河合 まだ見えないですね。というのも、菅政権の掲げている政策は、特定の目詰まりを解消しようとするものが多く、全体として人口問題をどう解決しようとしているのかわからない。

もちろん個別に目詰まりを解消する姿勢は大切です。例えば、体外受精による出生数は年間5万人以上となっているわけで、不妊治療に光を当てていくことは間違ってはいない。ただ、それだけで少子化の流れが止まるわけではない。

一方で、その間も高齢者は増加し、地方では社会の担い手が減っていく。大きな方向性を打ち出してくれれば、間違っていたとしても評価のしようがありますが、そこにすら至っていません。

――確かに地方の人口減は深刻で、2040年に自治体の半数が消滅の危機を迎える(日本創成会議)とされています。

河合 少子高齢化の問題点は人口構成のグラデーションが高齢のほうに濃くなり、若い人ほど絶対数が減ることです。つまり、既存の枠から外れた新しいことをやるチャレンジャーが必然的に減ってしまうことこそ、一番の問題なのです。

一方、なるべく今までの成功パターンを維持し、次の世代にも強要させようとする中高年が増えていく。ルールが変われば、自分も新人選手になってしまうので、おのずと保守化するんです。少子高齢化が進むと社会全体が老化、硬直化してしまいます。

――確かに若者が社会を変えようとしても、数の論理で押しつぶされてしまうように感じます。

河合 若者は遠慮なくやればいいんですよ。例えば、「若い人だけが集う町をつくろう」といった試みは、若手起業家ならいくらでもできるはず。そういう呼びかけに応えて数千人、数万人の若者が移住する町をつくったっていい。昔の人間がつくった成功パターンに従って、そのなかで無理にモノを考える必要は全然ないんですよ。

――起業家はそうかもしれませんが、会社員という立場ではなかなか難しい気もします。

河合 若者が減ると、新入社員が即戦力として期待されるようになります。そういう状況に置かれたら、若者も一番失敗しにくい保守的な方法を取ろうとするのは自然なこと。結果として、イノベーションが起こりづらくなってしまいます。

これまでは企業側も「10年は使い物にならない」という前提で新卒を採用していたが、今はそうではない。だからこそ、若い人がトライアンドエラーできる環境を各企業は意図的につくっていく必要があるんです。

誤解してほしくないのですが、私は若者と中高年の分断を推奨しているわけではありません。むしろ、今までの成功者を否定してはいけない。彼らも若い頃、その時代に合ったやり方でトライアンドエラーを重ねてきたんですから。

だからこそ、今もなお過去の成功パターンを引きずる大人たちには、「せめて若い人のチャレンジを邪魔するな」と言いたいです。

――では、もう若者とはいえない40代はどう振る舞えば?

河合 前提として、「考え方の若さ」が大事なのであって、年齢は関係ない。40代が次の時代の価値観をつくり上げることもあるし、そうなったら自分たちが主体的に引っ張っていけばいい。それができなくとも、誰かがつくってくれた新しい世界のなかで主役を演じることもできると思います。

――少子化のなか、エリート教育の重要性が増していると著書では訴えられています。

河合 数が多いと、面白い人も出てきやすい。しかし、第1次ベビーブーム世代の1949年生まれが成人に達した1970年が246万人だったのに対し、2020年の新成人は122万人と半減しています(総務省)。そもそも国内だけで切磋琢磨(せっさたくま)するのが難しくなってきているのです。

同時に、産業の多い日本では人材が分散しがちです。少子化で競争が弱くなってしまわないよう成長分野を絞り、若い人がしっかりトライアンドエラーできる状況を国家全体でつくり上げていくべきです。

そこで重要になるのがエリート教育なんです。出生数がここまで減った以上、たまに出てくる藤井聡太さんのような天才を、各分野が待っているわけにはいきません。

――教育業界もコロナの影響が甚大です。小・中・高校の休校期間が長期にわたり、1年間の授業をすべてオンラインで行なう大学も多いですが、どのように感じていますか?

河合 私は大学経営にも携わっていますが、コロナに対して最もまずい対応をしたのが大学でしょう。学生をキャンパスに入れないようオンライン授業に熱心に力を入れましたが、学生にとって大学がどのような存在なのか、本質的に理解していない大学関係者が多すぎるんです。

学窓という言葉があるように、大学とは友達や恩師と出会って体験を共有し、生涯にわたる関係が生まれる場でもある。多くの人との交流にこそ、大学の意義はあると私は思います。

だからこそ、「キャンパスの中こそ安全」といえるようにすべき、と多くの大学関係者に訴えてきました。例えば、キャンパスの入り口にゲートキーパーを置いて、そこを通れた人はマスクを外し、青春を謳歌(おうか)できるような措置を取るべきなんです。

大学関係者は「学生の健康を守る」と言っていますが、キャンパスの外ではアルバイトをしたり、繁華街で遊んだりしている学生もいますよね? キャンパス外の学生の行動には無関心ならば、大学が守ってきたのは学生ではなく自分たちの体面にほかならない。

感染抑止の徹底は大切ですが、学生生活は一般的に4年という限られた時間です。一番多感な時期を過ごすことの重要性を考え、若い世代を育てる意味をあらためて考えるべきです。

●河合雅司(かわい・まさし)
1963年生まれ、愛知県名古屋市出身。作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長。中央大学卒業後、産経新聞社に入社し、論説委員などを歴任。高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員、厚労省をはじめ政府の各有識者会議委員なども務める。「ファイザー医学記事賞」大賞ほか受賞多数。主な著書に『未来の年表』『未来の年表2』『未来の地図帳』(以上、講談社現代新書)、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)などがある

■『未来を見る力 人口減少に負けない思考法』
(PHP新書 880円+税)
2040年までに総人口が1525万人も減ると予想されるなど、年々深刻さを増す人口減少・少子高齢化問題。マーケットが縮小し、企業も自治体も人材不足に陥るなど、さまざまな問題が浮上するなかで必要なのは戦略的に縮むこと。そう訴えるのが、大ヒットした『未来の年表』シリーズで知られる著者だ。都市や地方のさまざまな「現場」で対話を繰り返してきた専門家による、人口減少時代を希望に変えるための書

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