走行しているパトカーから電柱などにレーザーを照射するという不正な使用方法で、スピード違反をでっち上げていた

ふざけんな!とドライバーがブチ切れる警察官の不祥事が発覚した。なんとスピード違反の記録をねつ造し、反則切符を切っていたのだ。

不正に使われたレーザー式取り締まり装置とは? ねつ造の手口と、警察官が犯行に及んだ背景にある警察の実績主義の問題にも迫る!

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■想定外の使い方で速度違反をねつ造!

こりゃ、いくらなんでもヒドすぎる......(絶句)。

パトカーに搭載されたレーザー式の速度計測装置を不正に利用してスピード違反をねつ造し、虚偽の反則切符を交付したなどとして、北海道警察は10月12日、証拠偽造と虚偽有印公文書作成・同行使の疑いで、道警交通機動隊の警部補、吉本潤容疑者(58歳)を逮捕。容疑者の同僚が上司に報告したことで事件が発覚した。同行していた部下3名も取り調べを受けたという。

昨年8月から今年5月まで、この不正な取り締まりでねつ造されたスピード違反の件数は47件! 北海道警は「被害者」に対して違反点数の抹消や反則金の返還を進めているというが、警察が偽の証拠で取り締まるなんて、あきれて開いた口がふさがらない。

今回の「スピード違反」はどのような方法ででっち上げられたのか?

「道警のパトカーに搭載されていたのはTKK(東京航空計器)のLSM-100と呼ばれる速度違反取り締まり装置で、これが不正に使われました」

と語るのは、交通取り締まりなどの問題に詳しいジャーナリストの今井亮一氏だ。

この装置を積んだパトカーは北海道や沖縄県などに配備され、北海道警は2015年4月から導入。現在48台を保有し、装置は一式あたり540万円(税込)するという。

速度取り締まり装置のLSM-100を搭載したパトカー。装置にはカメラがついている。本来の使い方は、停車した状態から違反車両に向けてレーザーを照射する

「LSM-100はレーザーを対象車両に照射して速度を測定する仕組みで、本来は道端に停車したパトカーから違反車両にレーザーを照射して測定します。しかし、これを走行中のパトカーから電柱や看板などの静止物に照射すると、パトカー自体の走行速度が測定されるのです。

それを悪用したのが今回の事件で、スピードを出している車両をパトカーが速度超過状態で追いかけながら、その車両ではなく、電柱などにレーザーを当てて、スピード違反の証拠をでっち上げたのです」

こうして虚偽の違反速度を測定したら、追尾している車両を停車させドライバーをパトカーに乗せる。そして目の前で速度を記録した用紙をプリントアウト、反則切符にサインさせれば「でっち上げスピード違反」が一丁上がりというわけだ(怒)。

「走りながらのレーダーやレーザーでの測定は、裁判になった場合に測定方法をめぐって厄介な議論になるので、全国の警察でも運用を避けることになっているはず。

そのため、覆面パトカーによる取り締まりも、レーダーやレーザーではなく、対象車両と等間隔、等速度で走り、ストップメーターを作動させて違反速度を測定するやり方が一般的ですから、そもそも『追尾しながら照射』というのは想定外の使い方です」

今井氏は今回の違法取り締まりの背景に、レーザー式装置の性能に関する問題があるのではないかとみている。

「新型オービスとして全国で配備が進む速度取り締まり装置に同じTKK製のLSM-300があり、こちらも初のレーザー式オービスなのですが性能面に問題があり、取り締まりにはほとんど使えないようです。

そうなると、同じレーザー式であるLSM-100も、取り締まりの現場で十分に力を発揮していない可能性がある。

しかし、いくら使えないといっても購入した以上はある程度の実績を上げなければならないため、スピード違反の偽造に及んだという可能性もあるのではないでしょうか?」

■法律を守らない警察のいきすぎた「実績主義」

ちなみに、逮捕された吉本警部補は取り調べに対して「実績を上げたかった」と語っているという。だが、法を守る立場の警察官が、それも高価な最新式の装備を悪用してまで、「実績」のために違反をねつ造するという感覚は常識では理解できない。

果たして、これは個人的な犯行なのか? それとも北海道警だけでなく、全国の警察でも横行している不正な取り締まりの「氷山の一角」にすぎないのか?

「本来、警察は法の執行機関であるはずなのに、最近、警察がいろいろな面で法律を無視する傾向が強くなっています。法律の根拠がない、あるいは法律を拡大解釈するようなグレーな手法が常態化しつつあるなかで、ついにここまで来たかという印象です」

と語るのは、元北海道警察警視長で『警察捜査の正体』(講談社現代新書)の著書がある原田宏二氏だ。

「道警では2015年にもシートベルトやチャイルドシートの装着義務違反で20代の巡査長が虚偽の違反切符を32枚もねつ造するという不祥事が起きていますが、今回はその反省が生かされていないだけでなく、警察組織の中で中間幹部といわれる『警部補』が不当な取り締まりを主導していたわけですから、問題はより深刻です。

先日も、愛知県警で微量の覚醒剤をあらかじめ知人ふたりに所持させた上で職務質問して摘発し、事件をでっち上げたとして男性巡査部長が書類送検される事件が起きましたが、交通違反でも、違法薬物でも、取り締まり本来の目的を見失い、法律すら無視してしまうような感覚が警察組織の中に広まりつつあることが、今回の事件の背景にもあると思います」

一方、交通問題に詳しい高山俊吉弁護士は警察内部のいきすぎた「実績主義」が問題の根底にあると指摘する。

「1970年代、交通事故による死者が年1万6000人を超えて『交通戦争』と呼ばれた時代に、警察は交通違反の取り締まりを強化しました。

この時期に警察内に生まれたのが実績主義や成績追求主義という文化で、『ノルマ』を設定し、切磋琢磨(せっさたくま)と言いながらお互いに取り締まり件数を競わせるなかで、いつしか『実績』という数字だけが評価の中心になってしまった。

もちろん、スピード違反のねつ造というのは論外で、絶対にあってはならないことですが、私は今回の不祥事の根っこにあるのは、こうした警察のいきすぎた実績主義だと思います」

■記録紙だけでなく写真の確認もせよ!

今回逮捕された警察官は、パトカーで法定速度を超えるスピードを出し不正に速度を計測。その速度を記録した用紙を示して反則切符を切っていたのだから、ドライバーはたまったもんじゃない

前出の北海道警OB、原田氏も取り締まりの「ノルマ」の存在を認めつつ、実績の名の下、数字で評価されがちな警察組織の実情を改めない限り、こうした不祥事は繰り返される可能性があるという。

「交通違反の取り締まりに限らず、警察業務の多くに管理目標や努力目標と呼ばれる『ノルマ』があるのは事実で、業務によっては本部長名の通達で出てくることもあれば、本部の主管課長や課長補佐などから口頭で、現場の尻を叩くこともあります。

組織の目的を達するためには、ある程度数字で管理する必要があることは全否定しません。ただし、そうした目標の数字の出し方に合理的な根拠があるかというと、必ずしもそうではなくて『過去5年間の検挙件数の平均+5%』みたいな出し方をする。これをずーっと続けると、右肩上がりになり続けて実現不可能な数字になってしまいます。

そもそも警察官の仕事というのは数字だけで評価できないものもたくさんあるのに、数字に表せるような基準だけで実績が評価され、それが昇進や待遇に影響するのでは、現場の警察官はやりやすい仕事だけに目を奪われ、時には文書を偽造してまで数字をでっち上げるようになります。

今回の事件を『警部補』が主導したことや、47件もの不正な取り締まりに上層部が気づけなかったことも、組織全体の劣化を反映している気がしてなりません。北海道警以外のことはなんとも言えませんが、警察組織の抱える問題は基本的に同じですから、今回の事件も氷山の一角だと考えてもいいかもしれません」

今井亮一氏が入手した資料によれば、この速度計測装置の概要について「走行している車両に対してレーザーを照射」という記述がある。今回の事件は、その機能を逆手に取って不正にスピード違反をねつ造したのだ

最後に、こうした不正なスピード違反取り締まりの「被害者」にならないためにはどうすればいいのか? 前出の今井氏に聞いてみた。

「今回、明るみに出た不正と同じような取り締まりが、ほかの地域でも行なわれている可能性はあると思います。

ただし、LSM-100にはカメラがついていて取り締まり車両を撮影する仕組みなので、今回のように不正に使用した場合、レーザーを照射した電柱などが映っているはず。速度の記録紙だけで違反を認めずに、警察官に写真の確認を求めることがひとつ。

もうひとつはドライブレコーダーをつけること。録画した動画を解析すれば走行速度もわかるし、車両後部が録画できる機種なら、追尾したパトカーの挙動もわかります。ドライバーが『ドライブレコーダーの映像がある』と言えば、警察もそうそう不正はできなくなるはずです」

それにしても、法の番人であるはずの警察の「違法行為」から身を守らなきゃいけないとは、なんともトホホな世の中ですなぁ。