もし、自分の家にごく近い場所で陥没事故が起きたらどんな事態になるのか?
10月18日、東京・調布市の住宅街で道路陥没が発生し、11月にはその近くの地下2ヵ所で、幅約30mの巨大な「空洞」が見つかった。この住宅街の地下約47m地点で東京外環道のトンネル工事を実施しているNEXCO東日本は現在、事故との関連性について調査を進めている。
陥没現場の近隣に住む主婦はこう憤る。
「平穏な暮らしを返してほしい。自宅の下に大きな穴があると思ったら不安で夜も眠れないんです。このままだと引っ越しを考えないと......」
現場周辺では、陥没事故や空洞の発見が「家の資産価値」に与える影響を不安視する声も多かった。地元の不動産会社の担当者が明かす。
「もともと陥没現場周辺の地価は1㎡当たり38万円ほどで、築10年の戸建て中古物件で3500万円程度が相場です。今はどうなったか? ......正直、予測がつきません」
『ようこそ、2050年の東京へ――生き残る不動産・廃墟になる不動産』(イースト・プレス)の著者で、不動産ジャーナリストの榊 淳司(さかき・あつし)氏は次のように話す。
「またいつ道路が陥没するかわからない危険なエリアと見られている状況で、現場周辺で家を買おうとする人はいないでしょう。資産価値がどれだけ下がったかというレベルの話ではなく、家を売却したくても値がつかない、取引が成立しない、というのが現状だと思います」
そんな状況下でも無理に家を売ろうとしたら、どうなるのか? 不動産コンサルタントの長嶋 修氏はこう見る。
「可能性は低いですが、『とにかく一刻も早く売却して引っ越したい』という売り手側と、『リスク大の物件でも、とにかく家を安く購入したい』という買い手側の思惑が一致すれば、"投げ売り価格"で売買が成立することは考えられます。
その場合、自殺や孤独死が発生した"事故物件"と同様、周辺相場の半値程度まで価格が下がるのではないでしょうか」
家を手放したくても売れず、運よく買い手が見つかっても事故物件同然......。まさに災難だ。
しかし、「それは一時的な影響にとどまる公算が大きい」と前出の榊氏は言う。
「昨年10月の台風19号で浸水被害を受け、停電や断水が続いた神奈川県の武蔵小杉エリアのタワーマンションの場合、被災直後から半年以上、1件も売買が成立しない状況が続きました。
ただ、最近は成約件数が上向きになり、価格も回復傾向で被災前の水準に近づいてきています。調布の場合も、今後何も起きなければ人々の記憶は薄れ、半年程度で値は戻るでしょう」
ただ、それも陥没事故の原因に関するNEXCO東日本の調査結果次第だ。
「事故原因が解明され、今後は十全な対策がなされるという内容であれば、いずれマーケットは通常の状態に戻るでしょう。しかし逆に、もし調査結果が施工主の"責任逃れ"をにおわせるような内容で、世間の疑心暗鬼を招いてしまうようなら、いつまでたっても値がつかないということにもなりかねません」(前出・長嶋氏)
都内の不動産会社の社長もこううなずく。
「仮に事故原因があやふやなまま外環道のトンネル工事が再開され、また別の場所で陥没が起きるような事態となれば、おそらく『地下でトンネル工事をやっているエリアの物件には手を出すな!』という不文律が不動産業界全体に生まれ、その影響は全国に飛び火するでしょう。
すでに一部エリアで着工されているリニア計画では、東京の田園調布や町田市、神奈川の川崎市など、首都圏の住宅街の真下で外環道と同様の地下トンネル工事が実施されます。つまり、田園調布や川崎など、リニア工事のルート上でも資産価値暴落のリスクがあるということです」
果たして、どんな調査結果が発表されるのか?