「働く側にとっても入管の仕事は過酷で、離職率が高いらしいです。職員がよく辞めていくから、人手が足りていないという問題も大きい」と語る織田朝日氏

出入国在留管理庁、通称「入管」。

日本における在留管理、外国人材の受け入れ、難民認定などを管轄する法務省の外局だが、その入管が管理する外国人収容施設では毎年のように死亡者が出るなど、さまざまな問題が噴出している。

3月6日には、在留資格のない外国人を収容する名古屋出入国在留管理局で33歳のスリランカ人女性が死亡した。女性は精神的ストレスや体調不良で食事も歩行もできないほど衰弱。

昨年12月に仮放免を求めた申請理由書の写しには、ローマ字で「病院に行って点滴を打ちたいですが、入管は連れて行ってくれません」と書いてあったという(朝日新聞デジタル、3月13日)。

明るみに出ない入管のリアルとは? 『ある日の入管』の著者で、外国人支援団体を率い、入管での面会活動や収容者の家族の支援に長年取り組んできた織田朝日氏に聞いた。

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――入管の実情がマンガでわかりやすく、そして克明に描かれていて衝撃を受けました。「仮放免が認められず、絶望のあまり自殺を決意して鉛筆削りの刃物で全身を切るも、『首は硬くてなかなか切れない』と語る被収容者」「『日本人の税金をあなたたち(被収容者)に使うのはもったいない』という理由で薬を減らす医者」など、織田さんだからこそ知り得たエピソードが多いですよね。

織田 私が入管を訪れるようになったのは2004年頃なのですが、少なくともその頃にはすでに人権侵害のような行為が行なわれていました。13年に東京五輪開催が決定したことで締めつけがさらに厳しくなり始め、18年2月に、当時の和田雅樹入国管理局長が「送還の見込みがなくても、原則、送還が可能となるまで収容を継続する」ことを全国の各地方入管に指示してから長期収容化が進み、仮放免された人たちも厳しく監視されるようになったのです。

――今年2月には入管収容施設では初となるクラスターが東京入管で発生しました。3月9日までに同局の全被収容者の4割以上に当たる58人が感染したと公表されています。3密回避を目的に、昨年から被収容者が解放されていったようですが、これに関してはどう見られていますか?

織田 このこと自体は解放された人にとっては喜ばしいことで、例えば昨年4月30日時点では東京入管の被収容者は280名でしたが、今年2月時点で約130名ほどの数に減っています。特に昨年4月には仮放免が一気に増えました。ただ、現実としては「ちゃんと対策しているよ」というポーズだと感じますし、一定数は確保したいという態度が見受けられます。

しかも重要なのは、解放の基準がすごくバラバラであるということ。そもそも仮放免の許可要件は入管法で定められておらず、その基準は曖昧なんです。ただ、それでも「300万円以下の保証金の納付」や「住居及び行動範囲の制限」「呼び出しに対する出頭の義務」「身元保証人の存在」などの条件は存在し、逃亡の恐れがないと判断されなければならないんです。

しかし、昨年4月にはオーバーステイの人たちを保証人なしで解放したといわれています。これに怒ったのが、子供がいる女性収容者や難民の女性収容者。彼女たちは家族が日本にいて、家もあって、よっぽど逃亡する恐れがないのに、その後も収容され続けたんですよ。

――収容されている人の中には日本人と結婚している人もいると思いますが、そういう場合、夫に当たる日本人男性は声を上げないんですか?

織田 そういう方は生活するだけで精いっぱいという事情があったりして、むしろ入管に逆らわないようにしていたり......。本来であれば、そういう当事者の方の働きかけもほしいんですが、無理は言えないので。

――本書は入管職員との交流がたくさん描かれているのも特徴ですが、率直にどのような方が多い印象ですか?

織田 それが、いたって普通の人たちで。特に若い人は素直な人が多くて、こちらが心を開けばけっこうしゃべってくれたりするんですよ。職員とコミュニケーションをとっていくなかでわかったのは、彼らが目の前の仕事をこなすだけで、入管の歴史や置かれている状況をよく知らないということ。

若い職員は特にそうで、「国連から声明が出たね」「ペルー人の親子、裁判負けちゃったね」という話をしても、「なんですか、それ?」と首をかしげるばかり。

私が若い職員によく言うのは「自分で考える力をなくさないで」ということ。上に言われたから、仕事だから仕方なくやるんじゃなく、しっかりと自分の頭で考える力をなくさないでほしいって伝えています。でも、世代が上になるといやな職員も多くて......。

トルコ人とクルド人など、敵対する民族や宗派を、わざとなのか配慮がないのかわかりませんが、本人たちがいやがっているのに同室に入れる、みたいな露骨ないやがらせをするような人もいるという話も聞きます。

――この先、入管を取り巻くさまざまな状況は変わっていくのでしょうか?

織田 そうでありたいと信じています。入管という仕組みや運営に限界が来ているのは事実でしょう。

働く側にとっても入管の仕事は過酷で、離職率が高いらしいです。職員がよく辞めていくから、人手が足りていないという問題も大きいと思います。実際に私も、若い職員から「こんな仕事辞めてやる」と愚痴をこぼされたこともありました。

そんな状況なのに、コロナのクラスターが発生して、ますます手に負えない状況になっているのが今なんです。職員もストレスがたまって余裕がなくなってきているようで、「鼻を殴られた」「腹を殴られた」という話を最近何名かの被収容者から聞きました。

基本的に昔から暴力はあったとされていますが、それでも制圧という名の下でした。もちろん収容者の発言だけでは真相はわかりませんが......。

また、運営的に無理が出ているのに加え、国際法の違反も注視すべき点です。昨年9月、国連の「恣意(しい)的拘禁作業部会」が、日本の入管収容制度における長期収容について、国際法違反で「恣意的」であるとし、日本政府に意見書を送付しています。強制力はないにせよ、国際法の影響力を無視することはできません。入管は、今まさに転機を迎えているのです。

●織田朝日(おだ・あさひ)
外国人支援団体「編む夢企画」主宰。SYI「収容者友人有志一同」メンバー。2004年より入管における外国人への虐待的な扱いを知り、面会活動などをしながら当事者の証言を通してSNS、雑誌やウェブメディアなどで状況を積極的に発表している。また、クルド人の子供たちの劇団「ウィンクス」の脚本・演出を担当、子供たちの体験をもとにした演劇を披露している。1児の母で、写真家として日本にいる難民たちを撮り続けており、個展も開催。著書に『となりの難民』(旬報社)、共著に『難民を追いつめる国』(緑風出版)、『日本を壊した安倍政権』(扶桑社)など

■『ある日の入管』
(扶桑社 1300円+税)
法務省の外局で、出入国に関する手続きのほか、外国人の在留許可の管理や難民認定手続きなどを請け負う出入国在留管理庁、通称「入管」。しかし、全国17ヵ所の収容施設では、外国人に対する暴行・暴言・医療放置など非人道的な処遇が横行しているとされる。そんな入管の実情をマンガで伝えるのが、2004年から外国人被収容者の支援を行なってきた織田朝日氏。いまだ謎の多い入管のリアルを、収容者やその家族、職員との交流を通じて描く

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