岸田文雄首相が自民党総裁選の公約にも掲げていた、新型コロナウイルスの感染を調べる抗原検査キットの「ネット販売解禁」が、なぜか見送りとなってしまった。
抗原検査キットは、自分で鼻に綿棒を差し込み検体を採取すれば、15~30分程度で検査結果を判定できる。日本では以前から、厚生労働省の承認を受けていない"未承認"の製品が主にネット通販で販売されていた。
一方、承認済みのキットは医療機関でしか取り扱うことができなかったが、今年9月末、厚労省はようやく薬局や薬剤師がいる一部のドラッグストアでの販売を条件付きで解禁。しかし、この「条件」があまりにも煩雑だった。医療専門誌の記者が言う。
「購入者は薬剤師から使用手順などの説明を聞き、内容を理解したことを示す厚労省指定の同意書に氏名・年齢を記入し、店側に渡す必要がある。これではキットを買うだけで5分以上かかります。店側からも、感染疑いのある人が来店する可能性について懸念の声が上がっていました」
こうした問題を解消できるネット販売解禁は、第6波に向けた検査拡充策の目玉となるはずだったという。
「岸田政権発足後もこの問題は政府の規制改革推進会議で前向きに検討が進められ、経済対策の原案にも盛り込まれました。
ところが、11月19日に閣議決定された『コロナ克服・新時代開拓のための経済対策』では、関連の記述が丸ごと削除されていたのです。この改革に露骨に反対していた日本医師会に政府も配慮せざるをえなかったのでしょう」(医療専門誌記者)
検査拡充のための改革案に、なぜ医師会が反対するのか? ナビタスクリニックの久住(くすみ)英二医師はこう語る。
「抗原検査は『偽陰性』が出る恐れがある、というのが医師会の見解です。確かに、抗原検査はPCR検査に比べれば感度が弱い。特に、鼻腔(びくう)に付着しているウイルスの量が少ない場合は試薬が反応せず、本当は陽性なのに陰性と出る恐れはあります。
とはいえ、偽陰性はそう頻繁に出るものではなく、出たとしてもその人が持つウイルスが微量であるケースに限られるため、たとえ本当は陽性でも『他人に感染させる可能性は低い』と解釈するのが一般的。
諸外国ではすでにネット販売していますし、飲食店などへの入店時の陰性証明手段として抗原検査キットの使用を認めている国も多い。そして、厚労省も複数の抗原検査キットを承認しています。全否定しているのは医師会くらいじゃないでしょうか」
抗原検査キットを扱う卸会社の幹部もこう指摘する。
「医師会は開業医が主体となって成り立っている組織。彼らが運営する診療所では、症状がなく全額自己負担となる場合のPCR検査料は1回1万から3万円ほどかかり、さらに陰性証明書の発行に5000円から1万円程度を徴収できる"おいしい仕事"になっています。
一方、承認済みの抗原検査キットの相場は数百円から1000円台で、病院に行かずとも自宅や外出先ですぐに結果が出る。そのネット販売が公的に認められ、開業医の"権益"が脅かされるのを阻止したい......というのが医師会の本音だと思います」
ただ、前出の久住氏は「医師会には"政治力"がある」と言う。
「日本医師会の事務局長は厚労省の重要な天下りポストです。また、自民党は日本医師会から毎年4億円以上の政治献金を受け取り、自民議員の地元の後援会長が医師会会員であるケースも多い。自民党も厚労省も、医師会に"忖度(そんたく)"する理由があるのです」
来年には参院選もあるし、それなら仕方ないか......とは、国民の立場では思えない。