ホームレスといえば路上生活をイメージする人が多いと思われるが、昨今はネットカフェを転々としたり、スマホを駆使していたり、いわゆる一般的な社会人と見分けがつかないことも珍しくない。
そうしたホームレスの実態にスポットを当てるYouTubeチャンネルも増えており、そのなかのひとつ『アットホームチャンネル』では、空き缶拾いなどで生活する者から、トー横キッズと呼ばれる未成年まで、都内を中心に幅広いホームレスにインタビューを行っている。
チャンネルを運営する青柳貴哉(あおやぎ・たかや)は、元よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属の芸人で『ギチ』のコンビ名で活動。常にホームレスに敬意を持って接する姿が印象的だが、社会復帰を望む者に対しては、家探しの手伝いや金銭のサポートを行うなど、一歩踏み込んだ支援も行っている。
青柳は何を考えホームレスと向き合っているのか。先入観にとらわれてしまいがちなホームレスの実態や、価値観が完全に壊れたという"幸せ"について、チャンネル運営を通して感じたことを語ってもらった。
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現在10万人の登録者数を持つ『アットホームチャンネル』は、2020年4月のスタート以来、50人以上のホームレスへのインタビューを公開している。元芸人だった青柳が、なぜホームレスを撮影しようと思ったのだろうか。
「芸人時代はいろんなアルバイトをしたんですけど、お金持ちの運転手をやっていたときに、ゴミ捨て場を漁っているホームレスのかたを見かけて。たまたまチョコレートを持っていたので、『食べるかな?』と思って渡したら、ものすごい剣幕(けんまく)でキレられたんです。
今思えば『なめんなよ』みたいなことだったと思うんですけど、何を言っているのか聞き取れず、怒った理由がわからなくて。そこからホームレスについて知りたいと思うようになったんです」
芸人を辞めて一般企業で働くようになってからも、この出来事が「ずっと根っこにあった」という青柳だったが、コロナ禍で時間に余裕ができたことをきっかけに、直接ホームレスに取材することを決意。『アットホームチャンネル』を開設した。
「素直に『知りたい』という気持ちだけ。この国に一石を投じたいとか、ホームレスのかたを救いたいとか、正直まったくなかったです。それでカメラを買って、ホームレスが多いと聞いた上野公園に行きました」
撮影初日は2人に声をかけ、断られることなくインタビューに成功。「意外と撮影させてくれるものなんだな」と感じたそうだが、たまたま運がよかっただけだった。
「やっぱり訳ありのかたが多くて、基本的には断られます。いまは10人にお声がけして、撮影させてくれるのは1人か2人ですね」
彼らがホームレスになった理由は様々だ。ギャンブルやアルコール依存、身体的事情、職場での人間関係......。小さな歯車が狂った結果、ホームレスに行き着いた者も少なくない。しかし、青柳は彼らを「ただホームレスなだけ」と表現する。
「いま思うと失礼ですけど、最初は普通の会話はできないと思っていたんです。ところが話してみたら、普通に学校を出て、いろいろあって、いまホームレスをしているというだけ。僕のなかではタワーマンションに住んでいる人も、公務員をやっている人も、住んでいる場所が違うだけで、『ただの人間だよな』という意味で同じ感覚だったんです」
覆された先入観は、これだけではない。青柳は50人以上に取材してきた所感として、彼らはホームレスという"生き方を選択した"のだと話す。
「チョコレートを渡したときの僕は、はっきり言って『ホームレス=かわいそう』と思っていました。でも5人くらい撮影した時点で、そんなことはないと気づかされたんです。過去に不幸なことがあったり、いまもお金や食べ物に困っていたりはするけど、ホームレスしていること自体を不幸に感じている人は、ほとんどいなかった。
時々、うらやましいとさえ思うんです。全員とは言わないですけど、好きな時間に起きて、好きな時間を過ごして、日々楽しそうにしていて。普通に社会復帰できそうなかたもたくさんいましたけど、『社会復帰したほうがいい』は社会の人たちの意見で、社会にいなくても生きることはできるし、社会にいる必要もないのかもしれない。生き方のひとつとしてホームレスという選択があるんだなと思いました」
もちろん青柳は、すべてのホームレスを見てきたわけではない。チャンネルには顔出しできるホームレスしか出演していないのだから、それを差し引いて考える必要はある。しかし、青柳はホームレスという生きかたを決して否定しないと同時に、社会復帰を望むホームレスに対して積極的な支援もしている。
「本人が望むなら、すぐにでも社会復帰したほうがいいと思うので、抜け出したいという人には協力しています。動画にしていないところでも、家探しの手伝いをしていて、いままで5~6回はホームレスを卒業したいという人と一緒に不動産屋をまわりました」
さらに青柳は、絵が得意なホームレスの個展を開催したり、ボクシングの元日本チャンピオンにトレーナーの仕事を見つけてきたり、1対1の付き合いをしているからこその一歩踏み込んだ支援も行っており、その過程は動画でも公開されている。
また、出演したホームレスには謝礼を払っているが、それとは別に動画の内外で「これは"貸し"ですからね」と、たびたびお金も貸している。なぜここまで肩入れするのか。その理由のひとつとして、YouTubeを収益化していることが挙げられる。
「もともとお金のために始めたことではないですけど、YouTube=収益化というイメージはあったので、そこは素直に欲しいと思っていました。ただ、実際に収益が出るようになると、『自分のために使っていいのかな?』という疑問が出てきて。撮影も編集も全部ひとりでやっているので、もらっていい理由になるとは思っているんですけど、まだ気持ちよくお金を使うことはできないんです。
みんながお風呂に入れたり、服を持って帰れたり、ホームレスのためのフェスみたいなものを開くことも考えたんですけど、正直まだ答えは出ていないです。だから、いまはいろいろ試している状態で、撮影させていただいたかたが困っているなら、お金を貸すくらいの責任はあるんじゃないかと思っています」
最近は視聴者から「お金を貸してほしい」というメッセージが頻繁に届くそうで、「さすがに会ったこともない人に貸せるほど、できた人間じゃないです」と苦笑する青柳。しかし、ホームレスを扱うチャンネルを運営することで、自然と意識は変わってきたという。
「芸人時代はふざけて生きてましたけど、いまはビシッとしなければというか。彼らを撮影するのに相応しい人間でないといけないという感覚が不思議とついてきました。これが『ハイ、どーも! 青柳チャンネルでーす!』みたいなYouTuberだったら、まったく違ったんでしょうね(笑)」
チャンネル開設から2年が過ぎた現在でも、なにが正解かはわからず、悩むことばかりだという。「その生きかたが不正解だとは誰にも言えない」と、撮影中は自分の価値観を押し付けないと強く意識しているそうだが――「幸せ」とは何か? 青柳自身、どう考えているのだろうか。
「芸人をやっていたときは、ずっとお金がなくて、お金を稼げば稼ぐほど幸せになれると思っていたんです。いまも生きていくうえでお金は大事だと思うんですけど、僕が運転手をしていたお金持ちよりも、明らかに幸せそうにしているホームレスの人たちがいる。そう思ったときに、自分のなかの幸せ=お金の構図は完全に壊れました。
でも、ホームレスと芸人は似ているなと思ったんです。芸人をやっていたときは、全然お金がないのに、毎日が楽しくて幸せだった。ひとつ明らかに違うのは、芸人時代はお金がなくても楽しいのに、その事実には目を向けず、お金のことばかり考えていたんです。現状『これが幸せです』と明言できるものはないですけど、そこは大きな気づきでしたね」
●青柳貴哉(あおやぎ・たかや)
1981年6月21日生まれ 福岡県田川市出身
2010年に中学校の同級生、樋口聖典とお笑いコンビ『ギチ』を結成。元よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2020年よりホームレスに焦点を当て、そこに至る経緯、その生活で得た知識から学びを得ることを目的とした、YouTube『アットホームチャンネル』を開始。現在はYouTuberとして活動中。6月12日(日)にはPachetartにて、2回目となる『代々木ホームレス エノビさんの個展』を開催。入場無料、詳細は公式Twitterより。
公式Twitter【@AoyagiTakaya】
公式Instagram【@aoyagitakaya】