芸能界屈指のギャンブラーとして知られるインスタントジョンソン・じゃいが、6月5日に自身のYouTubeチャンネルで「破産」を告白し、大きな話題となった。週プレNEWSの連載でもおなじみのじゃいが、世間を騒がせた「当たり馬券課税事件」の真相を語った。

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「これまでの当たり馬券に対して、税務署から追徴課税されました」

スポーツ紙で競馬予想を担当するなど、競馬界でも大きな影響力を持つじゃい。これまで当てた馬券は数知れず。一昨年には6400万円の大型配当を手にしたことでも話題になったが、数ヶ月前に税務署員が自宅を訪れたという。

「すべての収入を申告してましたし、きちんと納税していたつもりでしたから、突然自宅に税務署員が来たときも、やましい気持ちはひとつもありませんでした」

競馬などの公営ギャンブルで得た収入は「一時所得」で申請する、とされている。50万円までは控除されるが、それ以上の収入は課税対象となる。

この制度のキモは、「当たった金額に対して課税される」ことだ。極端な例になるが、2000万円分の馬券を買って、その中の100円の馬券が1900万円に化けたとする。現実では100万円のマイナスだが、制度上は1900万円の収入があったとして課税される(当たった馬券の100円は経費となるが、それ以外のハズレ馬券は経費とならない)。

競馬で得た所得は当然申告することが義務づけられているが、多くの人はそれを無視しているのが現状だ。競馬場で馬券を買って高額配当を受け取った人が、その収入を申告しているとは考えづらい。公営ギャンブルで当たった1000万円以上の高額払戻金について、約8割が税務申告されていないという数字もある。

じゃいは競馬で得た所得については、7年前までは一時所得として申告していたという。だが、スポーツ新聞をはじめとする予想など、競馬に関連する仕事が増えたことで「馬券購入は経費に当たる可能性がある」として、「雑所得」で申告するようになった。雑所得は収入から経費を引いた差額に対して課税されるのだが、これが引っかかった。

「税務署の人は僕のYouTubeのチャンネルを登録していると言ってました(苦笑)」

税務署はかねてじゃいの動画に目をつけていたらしい。家を訪れた税務署職員は、通帳や確定申告に関する書類、さらにインターネットの馬券購入システム「PAT」も閲覧して購入金額と払戻金額の出入金をメモしていった。じゃいは言われるままにすべてを開示したという。

「税務署は何回も来たから、やがて世間話もするようになりました。『追徴課税されたら裁判すると思います』と伝えたら、びっくりした顔をしてましたね。『いくら請求されたら裁判されますか』『年収以上かな』とかそんなやりとりもしました」

過去には、購入した馬券が経費として認められた判例がある。「定めた購入パターンに従って、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するなど、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら多数の馬券を購入」(国税庁HPより抜粋)したケースでは雑所得として認定され、購入した馬券は経費として認められた。だが、その裁判は判決まで6年かかっている。

「その判例はもちろん頭にありました。YouTubeやスポーツ新聞で予想を仕事にしているのに認められないのはおかしいんじゃないかという思いはあった。でも国と戦うとなると、弁護士や税理士をふくめて数千万円の費用がかかることが予想されます。長い時間とお金をかけて(裁判で)負けたら失うだけ。すぐに切り替えました」

じゃいは修正申告に応じることに同意した。気になる金額だが......。

「郊外の広めのマンションが買えるくらいかな。もちろん年収以上なので、貯金をはたいて、足りない分は身内から借りて払いました。自己破産したと誤解している方がいるようですが、借金生活になったというだけです」

途中で税務署の担当者の家族に不幸があり3ヶ月ほど調査が中断したが、その間の延滞料も請求されたのは納得いかなかったと苦笑する。

「当然、文句を言ったけどね。『決まりなんで』の一点張り。担当者への香典だと思って諦めることにしました」

馬券購入費が経費として認められないのは、「落ちている馬券を拾って経費として申請する」という不届き者への懸念が発端らしい。だが、現在ではネット投票がほとんどで、管理することは難しくないと思うのだが。

「個人的には今回の件は仕方ないと思っています。法の理解が足りなかった自分が悪い。だから素直に従いました」

では今回、自身のYouTubeでなぜ声を上げたのか。じゃいが声を大にして言いたいのは、馬券の「二重課税構造」だという。

馬券には10%の税金がかかっていて、国に納められている。馬券が当たるとそこにさらに税金がかかる。ちなみに宝くじも購入時に40%が自治体などに納付されるが、当選金は非課税だ。公営ギャンブルだけが二重課税されるのはおかしいという声は昔からあった。

「大口の的中者をやり玉に上げても、萎縮させるだけですよね。当たるのが怖いって変な話。負けてもマイナス、勝ってもマイナス。そうなったら、果たして誰が競馬をやるのでしょう」

その結果、ノミ屋の利用が増えたり、紙の馬券で当たりを申告しないなど、抜け穴を使う人が増えて税収も下がるのではないかとじゃいは懸念する。

「今回の件を公表したところ、もう競馬をやめるという人がいた。でも、僕は競馬ファンだから、それを望んでいない。競馬が盛り上がってほしいという気持ちのほうが強いんです」

たとえ裁判に勝ったとしても、それはじゃいのケースの判例となるだけ。それよりも望むのは法制度の改正だ。

「コロナでも競馬が中止にならなかったのは、競馬の税金収入が大きいからでしょう。だったら、もっと競馬を盛り上げれば税収も増えると思う。今回の件で、競馬に夢を託している人たちが幻滅したような気がするんです」

無税にすることで、競馬人気はさらに高まると前を向くじゃい。今後はどうするのか。

「しばらく馬券は買いません。でも予想は続けるつもりです。やっぱり競馬が大好きなんでね」