ネット上に投稿されたコメントや画像など、一度公開されたデータを完全に消すのはほぼ不可能なため、それらの情報は"デジタルタトゥー"と呼ばれる。リベンジポルノや逮捕歴など深刻なものが多いのかと思いきや、何げない投稿が命取りになることも......。あなたは、消したいけど消せない自分の情報がネット上にありますか?

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■相談が多いのは若い女性とエラい男性

時間が経過しても、一度インターネット上に公開されてしまった逮捕記事や個人情報などが残り続けてしまうことを〝デジタルタトゥー〟と呼ぶ。IT問題に強いモノリス法律事務所の河瀬 季代表弁護士は「何げないSNSの投稿などもデジタルタトゥーになる可能性がある」と話す。

「ネットの普及とともに、デジタルタトゥーの問題は増えています。実際にあった相談には『前に一緒に写真を撮った人が、暴力団関係者だったので消してほしい』というものも。一枚の画像がその後の社会生活に悪影響を及ぼすこともあるのです」

具体的にはどんな影響?

「交際や婚約が破棄になったり、賃貸物件が借りられないケースも。特に大きいのは就職や転職への影響でしょう。以前は履歴書に載っている情報で判断されていましたが、今は企業の人事担当者が個人名をネットで検索するなんてことも珍しくありません」

そこで週プレは、世代別、男女別400人にアンケートを実施。デジタルタトゥー事情を調査した。

まずは「あなたの名前をネット検索したら、あなたの情報が出てきますか?」という質問。「出てくる」と答えた人は400人中68人。およそ6人にひとりはヒットするという結果に。そして出てくる自分の情報には、うれしくないものも少なくないようだ。

「小学校で行なわれた水泳大会の名簿が出てきます。別に生活に支障はありませんが、名前が知られるだけで通っていた小学校や地域がバレるのはいい気分ではないです」(20代女性・メーカー)

「高校生のときに使っていたSNSアカウントが出てきます。しかも、パスワードがわからなくなっちゃったので削除することができず......。当時付き合っていた彼女ののろけ話とかもしてるし、消滅してほしいって常に思ってます」(30代男性・人材)

「学生時代に金髪にしてはっちゃけている自分の顔写真がヒットします。クライアントに検索されてそんなの見られたらと思うと......」(30代男性・営業)

こうした悩みは30代以下のデジタルネイティブ世代特有のものかと思いきや、意外とそうともいえないようだ。世代別に結果を見ると、20代や30代よりも40代のほうが割合は大きい。

「デジタルネイティブ世代ではない40代の割合が比較的高いのは、年次が上がれば会社のホームページなどに載ることも多くなるからでしょう。全体的に女性より男性のほうがヒットする割合が高いのも、現代の日本では男性のほうが社会活動をしていることが多いからだと考えられます。

実際、デジタルタトゥー関連のご相談に来られる方に多いのは、若い女性と年齢の高い男性です。若年層の女性は、結婚する前に相手方の親族に知られたくない情報を消してほしいといった相談などが多い。年齢の高い男性は、会社での立場も高い方が多いため、ひとつの情報が致命的な問題になる可能性がある。そんなリスクヘッジのためのご相談が多い印象です」(河瀬氏)

週プレの行なったアンケートでも「ネット上に、消せない自分の情報はありますか?」という質問に、「ある(消したい)」と回答した人が多かったのは20代の女性と40代の男性であった。実際に、結婚前に法律事務所に削除依頼をしたという20代女性はこう話す。

「私は、親がとある宗教の信者だったので、生まれたときから教会に行ったりしていたのですが、10代の頃の私がガッツリ写っている式典の写真がネット上に上がっていて。今はもう信者ではないのですが、婚約者の親族にネガティブに思われるのがコワくて、知られる前に消しておきたいと思って依頼しました」

デジタルタトゥーになりえるのは画像だけではない。逮捕歴や前科もまさにそれだ。

「逮捕されても不起訴になれば有罪にならないので前科もつきません。しかし、そうした場合でも逮捕のニュースで名前が出て拡散されることがあります。前科に関しても、その後に罪を償っていれば、その人は『更生を妨げられない権利』を有しているはずなのですが......」(河瀬氏)

しかし、一度名前が出てしまうとなかなか厳しい。

「逮捕者が出るとネット上の〝特定班〟と呼ばれる人々が名前以外の個人情報を調べ上げて拡散することもよくあります」(河瀬氏)

また、実名ではなく、匿名でSNSなどを運用している人も多いだろうが、河瀬弁護士によれば、匿名でのSNS利用でも個人を特定することはさほど難しくないという。

「〝特定班〟は写真に上がった服の袖とかを見て個人を突き止めたりするんです。その人とSNSが結びついてしまうと、大量の情報が吸い取られてしまいます。

例えば、とある女性がバイト先で名札をつけていたら、そのお店で働く○○さんということがわかります。その時点では顔と名前とバイト先しか知られていないので危険性はあまりありませんが、SNSとひもづけば交友関係、経歴、趣味などもわかってしまうんです」

■根絶することはほとんど不可能

では、こうしたデジタルタトゥーは消せないのか? あらためて「ネット上に、消せない自分の情報はありますか?」という質問の回答を見ると、「ある(消したい)」と答えた人は42人、つまり全体の10%以上が、消したい情報を持っていた。そして、実際に消してもらった人も。

「大学でボランティアサークルとイベントサークルをかけ持ちしていたんですが、就職活動に向けて心証をよくしたいと思い、イベントサークルのSNS上にアップされていたプロフィールや写真は削除してもらいました」(20代女性・大学生)

この女性のように、誰がどこに情報をアップしているかが明確にわかっていれば、削除を依頼することもできるだろう。しかし、そういう情報ばかりではない。

例えば、デジタルタトゥーの代表例であるリベンジポルノは元交際相手がアダルトサイトにアップロードするケースがほとんど。そういった、「自分ではどうすることもできないデータ」はどうすればいい?

「〝情報〟とひと言で言っても、それはとあるサーバーの、とあるサイトの、とあるアカウントがアップしたもの。われわれ弁護士はまず、その階層の中で最もアプローチしやすい部分を見極めます。ただ『お願いします』と言って削除をしてもらえるのならいいですが、強制力のある法的措置を取らないと実行されないこともあります」(河瀬氏)

ひとつの情報を削除して事が終わるのであればいいが、たいていはそうはいかない。

「違法にマンガをアップロードしていた『漫画村』(2018年閉鎖)がいい例です。あんなにも明らかに違法だったサイトでも、消すには大手出版社が束になる必要がありました。あれは契約者情報を秘匿する海外プロバイダーを経由するなどしていたためです。『漫画村』は国際裁判を経て、やっと閉鎖に追い込まれたのです。

アダルトサイトもその典型。海外サーバーを介しているので、リベンジポルノを削除するのはかなり難しいんです。そういう場合は、検索エンジン側に依頼をして、検索結果にそのページが出てこないようにする......といった措置を取ることはできます。でも検索結果から出てこなくなったからといって、そのサイトからは消えない。

また、大手アダルトサイトがリベンジポルノをサイト内から消していったとしても、一度アップロードされた動画は他サイトに転載されていることが大半。しかも誰かが保存していたらそのデータは残り続けてしまう。タトゥーという言葉どおり、完全に消すことはかなり難しいんです」

では、今後自分のデジタルタトゥーを残さないために注意すべきことは?

「一度公開した情報は半永久的に残ることを肝に銘じ、むやみやたらに上げないことです。例えば、ネット上に公開する情報の範囲を明確に設定することは効果的です。自分の働いているエリアの情報は公開するけど、住んでいるエリア近くの写真は掲載しないとか。

そういった線引きをしないで情報をどんどんアップしてしまうと、いつかは自分の社会生活に影響を及ぼすデジタルタトゥーになってしまう可能性があります」

ネットと切っても切れない現代社会。個人情報の取り扱いにはご注意を。