世界各国の大麻事情をリサーチする、危険地帯ジャーナリストの丸山ゴンザレス氏世界各国の大麻事情をリサーチする、危険地帯ジャーナリストの丸山ゴンザレス氏

今年6月にタイで大麻草の家庭栽培が解禁されるなど、現在、世界中で"グリーンラッシュ"が巻き起こっている。中でも2018年の完全合法化以来、大麻ビジネスを牽引しているのがアメリカ・カリフォルニア州だ。

世界各国の大麻事情をリサーチする危険地帯ジャーナリスト、丸山ゴンザレスが現地の実態をえぐり出す!

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■最新トレンドは顧客重視のブランディング

手前が大麻活動家のマリ姐ことBlue Dreamz Eijuさん。筆者を挟んだ後ろが実業家の堀金建吾さん手前が大麻活動家のマリ姐ことBlue Dreamz Eijuさん。筆者を挟んだ後ろが実業家の堀金建吾さん

世界の裏ビジネスを取材し続けるジャーナリスト――。それが筆者の肩書である。

過去にはアメリカ・カリフォルニアのグリーン(大麻)ビジネスを取材していたが、コロナ禍で海外取材が中断してしまい、最新事情を探るのに単独で動くのはいささか不安が残る。

そこで協力を求めたのが、カリフォルニア在住の〝マリ姐〟こと、Blue Dreamz Eijuさん。SNSやYouTubeで日夜、精力的に最新情報を発信しているので、ご存じの方も多いだろう。

彼女は日本生まれの日本人だったが、大麻の啓蒙活動家として日本の法律に縛られないようにアメリカ国籍を取得している。案内役としては適任である。

まず初めに彼女と共に向かったのは「THE ARTIST TREE」。オシャレな街として知られるウェストハリウッドに位置するディスペンサリー(マリファナ販売ライセンスを持つ特殊な薬局)である。

大麻販売ライセンスを持つディスペンサリー「THE ARTIST TREE」。スタイリッシュな店内ではまるでジョークグッズのような十字架状のジョイントが売られていた大麻販売ライセンスを持つディスペンサリー「THE ARTIST TREE」。スタイリッシュな店内ではまるでジョークグッズのような十字架状のジョイントが売られていた

マリ姐を通じて、この店のマネジャーであるホアキンさんを紹介してもらった。まず聞いたのは大麻市場の現状について。

「コロナ禍で最初はみんな大麻を買っていたけど、今は買わなくなったよ。ほかにお金を使うものがあるんだろうね」

実際問題、「現在は儲かる商売なのか?」も気になるところだ。

「大麻にかかる税金が高いっていうお客さんは多いね。州ごとにばらつきはあるけど、おおむね34~35%が税金なんだよ。そこを差し引いても販売する側の利益率は高いよ。だから、儲かる商売だと思う」

商売をしていれば、どうしてもうまくいくところと、そうじゃないところがあるはず。大麻業界で勝ち負けを分けたものはなんなのだろうか。

「クライアントを自らつくっていったお店が勝った感じがするよ。コロナ後はみんな財布のひもがキツくなったから、スタッフも経験がある人を雇ってお客さんの心をつかむ。

うちはこだわりのある小規模メーカーの質の良い商品を並べたり、アートを販売したりして特色を出しつつ、お客さんの心をつかむスタンスを徹底してブランディングしていったよ」

大麻販売ライセンスを持つ有名ディスペンサリー「Dr.Greenthumb's」。マネジャーのヴィさんはさまざまなブランドの運営も手がける大麻業界のトッププレイヤー大麻販売ライセンスを持つ有名ディスペンサリー「Dr.Greenthumb's」。マネジャーのヴィさんはさまざまなブランドの運営も手がける大麻業界のトッププレイヤー

続いて訪れたのは「Dr.Greenthumb's」。こちらはダウンタウンにある有名店。対応してくれたマネジャーのヴィさんは、さまざまなブランドの運営も手がける大麻業界のトッププレイヤーでもある。彼の目に、現在の大麻市場はどう映っているのだろうか。

「今のカリフォルニアで大麻ビジネスをするのは難しいよ。競争相手が多すぎるんだ。それでも、カリフォルニアで勝つことができたら、それ以外の地域でも当然勝つことができる。だから、この場所で勝負することに意味があるんだよね」

さらに続けて、「価格破壊が起きているから、市場としては下降線にあると思うよ」とのこと。店舗にもよるが、だいたい1g15ドル(2100円)程度で販売されている。

合法化前に比べれば30~50%程度の下落。消費者側からすればありがたいことではあるが、すでに市場としての魅力は失われつつあるのだろうか。

「儲けは出ているから、投資マネーは流れ込んできているよ。だけど、投資家はお店の数字しか見ない。むしろ、これから合法化する州やエリアに投資したほうがいいと思って、そっちにシフトしている人が多い印象だね。でも、大麻ってそれ(数字)だけじゃないだろ」

数字だけじゃない――。先ほどのホアキンさんも同じ指摘をしていた。今回インタビューに対応してくれたふたりに限らず、大麻ビジネスに関わる人はみんな同様のことを言っていた。

もうひとつ気になるのは、消費者側のことである。かつて大麻が非合法な時期に取材をしていた頃、「大麻が合法になったら、ハードドラッグに手を出すやつが減るよ」という言葉をよく耳にしていた。実際、どうなっているのか。

「統計的な数値はわからないけど、大麻でアルコール中毒を脱することができた、という人が身の回りにいるよ。だから、個人的にはハードドラッグの中毒から脱することにもつながっていると思う。

実際に更生施設でTHC(大麻に含まれる「テトラヒドロカンナビノール」の略。強い精神活性作用をもたらす成分)の入った飲み物を提供するようなプログラムも始まっているんだよ」

いい方向での広がりもあるようだ。そこに少し安堵(あんど)したところで大麻ビジネスの闇にも迫ってみようと思う。

■合法化されたのに違法の〝闇大麻〟が取引される理由

闇大麻を扱うウィンさん。顔出しNG。机の上には特殊な喫煙具がズラリ闇大麻を扱うウィンさん。顔出しNG。机の上には特殊な喫煙具がズラリ

不思議な話だが、大麻が完全合法化されたカリフォルニアには、違法な〝闇大麻〟が存在している。主に正規のルートを通さずに流通している、海外からの密輸品やライセンスのないファームで作られたものを指す。

現在、この闇大麻が流通していることは、取材した正規店の人たちからの情報で間違いないのだが、誰も気にするそぶりはなかった。というのも、値崩れが起きているのは正規店だけでなく、闇大麻業界も同じでいずれ淘汰(とうた)されるだろう、とみているからだという。

いったい裏のルートでは何が起きているのか。当事者の声を聞いてみたいところだ。そこで、マリ姐のロサンゼルスでの人脈をフル活用することで、闇大麻を扱うウィンさんにたどり着くことができた。

ロス郊外にある彼の自宅で、顔出しをしないことを条件にインタビューすることができた。早速、「そもそもウィンさんが扱っている闇大麻とはどういうものなのか?」と直球で質問してみた。

「イリーガル(違法)じゃなくてトラディショナルマーケット(伝統的な市場)なんだよ。大麻はもともと裏で作っていたんだから、今のリーガル(合法)のほうこそ、アントラディショナルマーケット(非伝統的な市場)なんだよ」

返答から、この人も独自の大麻哲学があるタイプの人ということはわかった。とはいえ、気になるのはビジネス面。いったいどこから仕入れているのだろうか。

「お店で売られるはずのものを売っているんだよ。ライセンスを持っているちゃんとした業者からの横流し品。表でやっている連中だって、もともとは裏だった。そういうやり方には免疫があるんだよ」

袋の中にあるのは無数の乾燥大麻。業者から横流しされた正規品だという袋の中にあるのは無数の乾燥大麻。業者から横流しされた正規品だという

では、肝心の値崩れを起こしているという販売価格はどうなのか。影響は出ていないのだろうか。

「俺の客は常連が多いけど、基本的には相手の足元を見るよ。相手が相場を知っているようならそれなりに。知らないようなら相応の値段に。

例えば、カリフォルニアで1ポンド(約453g)売るとしたら700~800ドル(9万8000~11万2000円)にするけど、需要はあるのに供給量の少ないテキサスで売るとしたら1600ドル(22万4000円)でも余裕で売れる。

ただ、君が言うように大麻市場は全体的に値下がり傾向だね。客は安い大麻を求めてるから、俺のような安い大麻を扱う裏のバイヤーにも出番があるってことなんだよ。何せ税金がかかっていない分、安いからね」

つまり、裏のバイヤーとしてまだまだ儲けの出る市場のようだ。続けて、ウィンさんから見た裏と表の大麻の違いについて聞くと、「値段だけかな」とのことだった。供給元が同じなのだから、確かにそのとおりなのだろう。

■カリフォルニアで日本人が大麻ビジネスに参入できるのか?

取材の道中で、カリフォルニアの最新事情を追いかけているマリ姐の意見も聞いてみることにした。

「裏と表で共通しているのはお客さんのニーズを見ていること。ライフスタイルに直結したサポートができるお店が勝ち残っていて、そこには裏も表も関係なく大麻に対して哲学がある人たちが残ってるんじゃないでしょうか」

まさにそのとおり。しかも、闇大麻業者ですら飽和状態になっている、と指摘するほど値崩れを起こしつつあるのが現状だ。こうなると、これから参入する人たちにマリファナドリームをつかむ余地は残されていないのだろうか。

大麻ファームを運営する堀金建吾さん。徳島県で不動産・建築業を起こして上場を成し遂げた後、2018年からカリフォルニアへ。現在は日本食レストランも手がけている大麻ファームを運営する堀金建吾さん。徳島県で不動産・建築業を起こして上場を成し遂げた後、2018年からカリフォルニアへ。現在は日本食レストランも手がけている

実際に参入している日本人に生の声を聞いてみよう。リトルトーキョーのこじゃれたうどん屋で待ち合わせたのは堀金建吾さん。徳島県で不動産・建築事業をスタートして上場を成し遂げた後、海外でグリーンビジネスにチャンスを見いだし、2018年からカリフォルニアに乗り込み、現在は日本食のレストランも手がけている実業家である。

堀金さんの案内で、彼が運営するカリフォルニア某所のファームにお邪魔することになった。すでに複数回の強盗被害に遭っているため、詳細な場所を明かすことはできないという。かなりの広さのある建物で、学校の体育館よりも大きいサイズなのだが、これでも業界的には中規模程度だという。

堀金さんが運営する大麻ファーム内の様子。学校の体育館よりも大きいサイズなのだが、これでも業界的には中規模程度だという堀金さんが運営する大麻ファーム内の様子。学校の体育館よりも大きいサイズなのだが、これでも業界的には中規模程度だという

では、ここからは「日本人で大麻ビジネスに成功しているけど、なんか質問ある?」的なノリでいろいろと気になることを聞いてみようと思う。まず気になるのは、堀金さんがこのビジネスに参入した理由だ。

「世界中で大麻解禁の流れが起きていて、グリーンラッシュに日本人としてどうやったら乗ることができるのか考えた結果、アメリカ、それもこの分野でトップを走っているカリフォルニアに来ました。

僕は運よく日系アメリカ人のパートナーとの出会いがありましたが、独力だったら資金があっても難しかったですね。大麻作りって農業なんで、ノウハウがないと作れるものじゃないですから」

とはいえ、堀金氏は日本国籍を持っており、アメリカでも日本の法律が適用される。そもそも日本人として参入することに問題はないのだろうか。

「そこなんですよ。法律的なことをクリアするために何ヵ月もリサーチが必要でした。弁護士を入れたリーガルチェックにはかなりの予算と手間が必要になります。

そうやってようやくこの業界に入ることができました。ですから、本当に簡単なビジネスではありません。もちろんアメリカ国籍を取得することができれば別ですけどね。

私の場合、自分が直接、大麻に触れるようなことはしません。あくまで投資として、ビジネスとしての関わり方になるよう気をつけています。リーガルチェックは本当に大事なんです」

そんな堀金さんが最も高いハードルだと感じたことはなんだったのだろうか。

「ランニングコストですね。ライセンスの申告をするためには工場の住所が必要です。政府のチェックを受けて合格をもらうまで、稼働してない工場の家賃、器具の購入、光熱費、人件費なんかもありますから。これまでに投資したのは今のレートだと5億円ぐらいですね」

それほどの投資をしても回収が可能だと思っているのだろうか。

「可能ですね。今は1ヵ月に300~400ポンド(約136~181㎏)、50万~60万ドル(7000万~8400万円)は売り上げる感じですから、増産体制の整ってきたこの先であれば、投資コストは数年で回収できるとみています」

最後に将来の展望を日本人ビジネスマンとして、どうみているのかを聞いた。

「簡単に参入・運営できるビジネスではなく、ある種、守られている産業。だからこそ、ちゃんと経営できれば明るい業界だと思っています。

僕自身のことで言えば、日本人が作ることが売りになるとは思っていないんですよ。最初から日本人マーケットを狙っていませんし、狙っていたらここでやっていません。むしろ、もっと大きな市場を見ています」

すでに勃興期から成熟期に入りつつある大麻産業。扱う商品が大麻ということで失念してしまいがちだが、勝ち抜くために必要なのはビジネスマンとしての才覚であり巨額の資金である。そこにマリファナを扱う者としての哲学まで求められるのだから簡単ではない。

そんな現状を踏まえても、カリフォルニアを追いかけるように合法化の動きを見せているアジア地域を含めた世界各地が、この先どうなっていくのか目が離せないところだ。

●丸山ゴンザレス 
1977年生まれ、宮城県出身。考古学者崩れのジャーナリスト。國學院大學学術資料センター共同研究員。『クレイジージャーニー』(TBS)に危険地帯ジャーナリストとして出演し、人気を博す。最新刊は村田らむ氏とのコミックエッセー『危険地帯潜入調査報告書』(全2冊、竹書房)