ウハウハするどころかトラブル続出の全国旅行支援。現場では――? ウハウハするどころかトラブル続出の全国旅行支援。現場では――?

10月11日から観光需要喚起策として、旅行代金が割引される「全国旅行支援」がスタート。これで観光業界もウハウハかと思われたが、客側からもホテル・旅館側からも不満が続出! 現場ではいったい何が起こっているのか?

■現場に向かうしわ寄せ

コロナ禍で大きく減少した旅行需要の喚起策「全国旅行支援」が10月11日より開始。ひとり1泊当たりの最大補助額が1万1000円で、制度の導入が発表されて以降、ホテルや旅館には予約が殺到し続けていて、盛り上がりを見せている。消費者にとってはうれしい制度だけど、現場で働く人々はどうなの?

都内のホテルで働く20代女性はこうこぼす。

「制度やら手続きやらが複雑すぎて......。会社単位でいえば支援の恩恵を受けられるのかもしれないけど、現場は疲弊しています。普段より確認作業などの負担がめちゃくちゃ増えるのに、特別に手当がつくワケでもないし。ただただ体力と精神が削られていますよ」

なぜそのような声が上がるのか。ホテル評論家の瀧澤信秋氏はこう語る。

「観光業界は慢性的な人手不足が続いています。コロナ禍で人員削減傾向も強く、宿泊施設によっては7割の部屋しか稼働させずに、業務量を抑えているところもあるほどです。

そのような状況で、ただでさえひとり当たりの仕事量が多いのに、全国旅行支援で煩雑な事務作業が増えますから、そりゃ現場はパニックですよ。お客さんが増えるのはもちろん、制度に関する施設への問い合わせもやまない。現場の負担は計り知れません」

制度への対応が固められずに苦労する施設も多い。YouTubeチャンネル『旅行コンサル「タイガ&まよ」』を運営し、宿泊施設へのコンサルティングを行なうタイガ氏はこう語る。

「その理由はシンプルで、宿泊施設側にも情報がまったく届いてないんです。施設側に事前連絡も一切ないので、テレビを見て制度の情報を知るホテルだってあるくらい。メディアと同じか、なんならそれ以下の情報しか持っていない。

詳細を問い合わせようにも、制度の事務局が開始直前まで立ち上がっていない地域もありました。そんな状態なので、制度に関するマニュアルがないまま現場の人たちは働いているんです」

取りまとめている事務局に聞けば解決する。そう思った九州のホテル勤務の女性は肩透かしを食らった。

「制度に参加するにあたって、宿泊施設向けの説明会があったので参加したんです。これで疑問は解消されると思ったのですが、事務局ですら参加者からの質問に満足な回答ができていませんでした」

現場のスタッフだけでなく、事務局といった"川上"まで大パニック。この原因を、航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏はこう分析する。

「今回の全国旅行支援では、Go To トラベルとは異なり、47都道府県ごとに事務局が立ち上げられました。柔軟な対応を可能にするというもくろみで、例えば感染者数が増えた地域だけ制度を停止するといった措置が可能になります。この制度設計自体は良いと思うんですが、地域ごとのルールに違いが生まれるデメリットもあり、混乱の原因になっているんです」

■重すぎるシステム障害

一部の地域ではこんな話も。宿泊施設が全国旅行支援に参加するためには、指定されたシステムの導入を強制されているというのだ。前出のタイガ氏はこう話す。

「自社サイト予約、もしくは電話対応のお客さまへ割引クーポンを発行するためには『STAY NAVI』というシステムが必要だったんです。それを今回導入した宿泊施設は、岸田文雄首相の発表から制度開始までの短い期間でもろもろの申請をこなさなければならず、大慌てでした。

以前からSTAY NAVIを導入していたとしても、仕様変更のせいで振り回された施設もあります。例えば、制度開始の直前に『不備があるので登録情報を修正しないと全国旅行支援に参加できない』という通知を受けた施設がありました。

しかも、その連絡が来たのはキャンペーンが始まる11日(火)の前週の7日(金)の18時頃。STAY NAVIのサポートセンターは平日の17時までしかやっておらず、その間の土、日、月曜が3連休だったので、制度開始日まで事実上放置される格好に。

情報の修正もSTAY NAVIのサポートセンターでしかできないので、施設側が修正依頼したところでどうしようもないという間の悪さです」

そして状況はどんどん悪化していく。

「制度開始日の朝、修正を要請された施設からの問い合わせラッシュでサポートセンターはパンク(!)。結局、申請が間に合わずに開始日から制度に参加できない施設もありました」(タイガ氏)

システムまわりのトラブルはほかにも。制度開始直後に全国の宿泊施設で予約の日時がかぶる"オーバーブッキング"が大量発生していたのだ。

「宿泊施設の多くはサイトコントローラーという、部屋の在庫管理を担っているシステムを導入しています。

例えば、10部屋あるホテルに、3部屋分の予約が入ったとします。そしたら『在庫が7部屋に減った』という情報を、OTA(『楽天トラベル』『じゃらんnet』といった旅行予約サイト)をはじめとする、各種販売窓口に反映させてくれるんです。本来であれば20社以上あるOTAや各販売窓口に在庫の変動を伝える必要がありますが、その手間が省けるのです。

ですが、今回の全国旅行支援の開始日に、国内で最もメジャーなサイトコントローラー『TLリンカーン』にシステム障害が起きました。そのせいで、10部屋あるホテルに3部屋分の予約が入っても、ほかの販売窓口では10部屋在庫があるように表示されたままになってしまったんです」(タイガ氏)

HISは10月分の事前予約が割引の適用外になることを急遽発表したため、利用者からの批判を浴びた HISは10月分の事前予約が割引の適用外になることを急遽発表したため、利用者からの批判を浴びた

■システム障害の原因は?

「楽天トラベルやじゃらんなどが行なっていた、事前予約キャンペーンの影響です。Go To トラベルでは制度開始前の予約は、各自で割引を申請し、還付金を受け取るのがメインだったため、システムへの負荷は低かった。

でも今回は、制度開始後に楽天トラベルやじゃらん側がまとめて予約内容の割引修正をできるようになった。これにより、一斉に大量の予約変更情報がリンカーンに取り込まれ、その膨大な通信でシステム障害が起こったのです」

実際にリンカーンを導入していた宿泊施設は、依然オーバーブッキングの後処理に追われている。

「お客さまは部屋が取れていると思っているので、われわれが予約できていないということを電話で伝えなければならず......。仕方のないことですが、怒られることがほとんどです。今回の対応としては、近隣のホテルに部屋を用意してもらって、そちらに移動をお願いしています。

とはいっても、全国旅行支援に合わせてどの施設も価格が上がっているので、その差額は僕ら施設が負担します。当然のように、システム側からの補償はありません」(30代男性・長崎県のホテル従業員)

今回トラブルを起こしたリンカーンは、国内にいくつかあるサイトコントローラーの中でも、主に大型施設が導入するシステムだった。そのため、今回のリンカーン騒動に巻き込まれた箱根の人気旅館では、一日で300件(!)以上のオーバーブッキングが発生したという。

そんなてんやわんやの現場スタッフに追い打ちをかけるかのように起きているのが、「便乗値上げ」批判だ。これに対して、瀧澤氏はこう語る。

「皆さん『××円引き、クーポンもらえます』とテレビなどでお得感が喧伝(けんでん)されることで、全国旅行支援がお得なものだと思い込むんですけど、全国旅行支援はあくまで事業者救済の制度で、利用者が得をするとは保証されていません。

宿泊施設の多くは、需要に合わせて値段を上下させる"ダイナミックプライシング"という料金体系を採用しているので、今回のように需要が増えれば値段も上がりますし、むしろ相対的には損する可能性だって十分あるのです」

10月20日からは新たに東京都でも適用が開始され、全国的なスタートを迎えた全国旅行支援。同日には、観光庁の和田浩一長官から明るいニュースも発表された。一部の旅行会社では、全国旅行支援開始後、コロナ前の同時期よりも販売・予約実績が上がったという。

その一方で、10月17日時点で完全復旧のメドが立たない「リンカーン」など、不安の種はなくならない。とにかく、現場にこれ以上のトラブルがないことを願いたい。