10月11日から観光需要の喚起策として始まった「全国旅行支援」。東京都でも10月20日から適用を開始し、旅行者はおトクな旅に大満足! そしてホテルマンからもうれしい悲鳴が。......ん? これガチの悲鳴か?
■都道府県によってルールが異なる
予約が開始するやいなや、ホテルや旅館、旅行会社が大混乱した全国旅行支援。あれから1ヵ月がたつけど、そろそろ現場は落ち着いてきた?
「いやいや、まだまだそんなことないっすよ......」
都内シティホテルに勤務する20代男性は長いため息をつきながら話す。
「開始当初、急増した予約の処理でアップアップしていたのが、多くの旅行サイトが支援額を使い切ったからか、予約の波は落ち着きました。ただ、今はその予約した人たちが宿泊しに来始めたことで、毎日お客さまでごった返していて、ゲスト対応に目が回っちゃっている状況です」
混乱の元凶はやはり、都道府県ごとに異なる制度だ。長野県のリゾートホテルで働く30代の女性はこう話す。
「全国旅行支援を適用するためには、『身分証明書』と『3回以上のワクチン予防接種証明書』ないし『陰性証明書』が原則必要なのですが、それが原本じゃなきゃいけないのか、コピーや写真でもいいのかは都道府県によって違うようで、厳しさに差があるみたいなんです。
一度、接種証明書を忘れたお客さまに『群馬県ではワクチン4回目接種の予約完了メールでも適用してくれましたよ?』とゴネられたことがありました。そもそも県が違うので、とお断りしましたが、証明書の確認はホテルマンの目視だけなので、『見逃してくださいよ』ってお願いされることはしばしばあります」
しっかり調べていなかったり、ゴネたりする宿泊客への説明や対応に時間がかかり、チェックインの列も延びてしまいがちに。
「ご案内時間が少しでも短縮できるよう、事前にクーポンに日付印のスタンプを押しています。すべての業務を終えた後、夜中3時まで数千枚のクーポンにスタンプを押し続けた日もありましたよ。普段の仕事だけでも忙しいのに余計な仕事を増やさないでほしい......」(長野県リゾートホテル、30代女性)
■予約情報は手入力
そんな業務に追われるホテルマンたちが口をそろえて言うのは、「諸悪の根源はクーポンだ」ということ。
「クーポンを渡す際には、宿泊者情報を入力しなくちゃいけないんです。県から配布されたエクセルデータに宿泊日、予約者名、対象宿泊数、対象人数、予約総額、割引額、支払い総額、クーポンの券番を手入力し、県に提出する必要があって。
割引額は人数や宿泊数などで変動するので、その計算を毎回するんですけど。普段のチェックインの業務に追加でその作業が増えたので、当たり前ですがゲストひとりに要する時間は延びてしまっています」(新潟県リゾートホテル、20代女性)
そしてそのクーポンを発行するシステムの使い勝手が悪すぎるという。
「旅行グループに支援適用対象外の人がひとりでもいたら、全員分のクーポンを一度キャンセルし、ひとり抜いた人数で再び計算し直して再発行しなきゃいけなくなったんです。
例えば、2名が支援対象で宿泊予約していたとします。われわれはその予約時の申し込み情報を基に2名分の割引額を計算して、2名分のクーポンをまとめて発行しておくんです。
しかし、チェックイン時にそのうちのひとりの書類がそろってなくて、支援対象から外れたってなったとき、発行していた2名分のクーポンの1名分だけキャンセルすることができなくて、2名分ともキャンセルし、1名分だけのクーポンをもう1回予約サイトの管理画面を見て金額計算して、計算した額をクーポン発行システムに入力してって手順を踏む必要があるんです。
普段よりも忙しいのに、この前なんか週末のチェックイン大行列のときにこれをやられましたよ......」(東京都シティホテル、20代女性)
クーポンの金額は全国で統一されているが、渡し方は都道府県によって異なる。東京、神奈川、静岡、大阪は電子クーポンとして地域通貨アプリ『リージョンペイ』でも配布している。神奈川県のシティホテルに勤務する20代女性はこう話す。
「リージョンペイは、旅行会社やホテルが発行したQRコードを読み取ってチャージします。そのQRコードを印字するには、宿泊者の情報を入力する必要があって。で、これ、入力情報を1項目でも間違えていたら修正し印刷し直す必要があるんです。
あとあと事務局が確認したときに、齟齬(そご)がないようにってことなのかなって思うんですけど、大量のクーポン情報を全部チェックするのか疑問です。
また、紙と電子のどちらを使ってもいい、という建前なんですけど、紙のクーポンは使えないけど、リージョンペイは使えるっていうお店がかなり多くて。正直、紙のクーポンを配る意味がないんですよね。GoToの地域共通クーポンもまだ在庫残っているし、資源の無駄だな~って思います」
■正直、支援はいらなかった
ここまで問題ばかりだけど、結局は全国旅行支援で観光業界はうれしいんだよね?
「実際はそんなことないんですよ。Go Toのときはコロナへの不安感も強く、旅行需要が少なかったため、支援によって顧客獲得につながったので助かりましたが、そもそも今は旅行需要も回復しているので、支援してもらわなくても獲得できるんです。全国旅行支援でうれしいのは利用者側だけですよ」(北海道リゾートホテル、20代男性)
むしろ今はタイミングとしては最悪だという指摘も。
「コロナ禍でアルバイトや従業員を減らしてきて、やっとお客さまが戻ってきたところだったので、まだ人員の補充が間に合っていないんですよ。そんな中で全国旅行支援が始まり、同時に海外のお客さまも戻ってきて、普通に人手が足りていない状況。
なので、稼働をコントロールするために価格を跳ね上げざるをえず、そうなると宿泊者にとってもおいしくないし、本当に誰のための制度なんだろうって感じです」(神奈川県シティホテル、20代女性)
「人手が足りていないのに、業務量が増えたことで、アンケートに『受け入れ態勢が整っていないように見える』と書かれていました。整ってるワケないでしょ!」(長野県リゾートホテル、30代女性)
ホテルマンたちが疲弊しきってしまう前に早く終わってくれ、全国旅行支援!