中国のECでは毎年恒例の"独身の日"こと11月11日の大セール。ここ数年は総取引額が20兆円を超えるスコアを記録してきたが、今年はその爆買いモードが激変しているとか!? 実は、ひそかに日本でも開催されている中国EC大セールのトピックス、そして中国国民の最新買い物事情を紹介です!
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■もはやオワコン!? 中国EC大セール
中国で毎年恒例となっているネット通販やネットショップなどEC各社による大セール。このセールが開催される毎年11月11日は、日本円で20兆円を超える総取引額を記録するほど、中国全国民が爆買いモードに突入。
しかし、今年は様子が変わってきているという。その実情から、中国人のセールとの賢い付き合い方までを、中国経済に精通するジャーナリストの高口康太さんに解説してもらいますっ!
――まずは11月11日の〝独身の日セール〟とは、どんなイベントなんでしょうか?
高口 日本でも知られる中国EC大手のアリババやSHEIN(シーイン)、京東(ジンドン)グループはもちろん、TikTokを運営するバイトダンスなど、ショート動画を配信するインフルエンサーからライブコマースを行なっている企業まで参加するセールイベントです。
中国では「1」が4つ並ぶ11月11日が「独身の日」とされており、2009年からアリババが中心となって行なうようになりました。このセールでは食品や日用品から、貴金属や車まで販売されています。
――そんなセールイベントに今年は異変があったとか?
高口 まずEC各社の総取引額が非公開となりました。これまで独身の日セールでは、前日の10日からカウントダウンのライブ配信を行ない、そこで取引額を発表していました。日本でいう夏の24時間テレビに、通販要素をミックスしたライブ配信になります。
昨年からはこのライブ配信、そしてリアルタイムでの総取引額の発表が中止となり、さらに今年は総取引額の発表そのものが中止になりました。
――なんでそんなことに?
高口 中国では習近平政権によるIT企業への規制が厳しくなっており、それはアリババやバイトダンスといった超大手であっても例外ではありません。特にEC各社はアルゴリズムによる過剰なレコメンドが中国政府から目をつけられており、それを回避するために自主規制として総取引額の発表を控えています。
――そんな中、独身の日セールでのトピックスとして気になったのが、【セール時期の宅配便の発送が5億件減】という報道。売り上げが激減ってことですか?
高口 宅配便は昨年同時期の47億7600万件から約5億件減の42億7200万件となり、約1割減少しています。また、EC各社から総取引額は公開されていませんが、リサーチ企業の報告書によると、売り上げは前年と同じか微減だったとみられています。
昨年は大手ECだけで約16兆円、ほかを合わせると約20兆円の総取引額がありました。なので、1割の減少とすれば、今年も18兆円前後の総取引額があったと考えられています。
――確かに売り上げは減少していますけど、収益も宅配数もトンデモな数値をキープしているじゃないですか!
高口 そうですが、独身の日セールというお祭りイベントを14年間続けてきて、初の減収というのはインパクトが大きく、国際的にもトピックスとなりました。
――世界的なトピックスだと、【これまでアメリカ企業が独占していたハイスペックゲーム用のGPU(画像処理に特化したプロセッサー)を中国が独自開発。独身の日に発売!】と各国のテック系メディアやSNSで話題になってましたけど、これはどんな評価だったんですか?
それこそゲームだけでなく、AIをはじめとするIT分野の開発を激変させるような話もありますよね。
高口 まだ実機の使用レビューはありませんが、前の機種が期待外れだったこともあって叩かれまくってます。
――どんな内容なんですか?
高口 【このGPU、なんかパワポで設計したらしいよ】【で、マインスイーパーは動くの?】などと散々なレビューになっています(笑)。
――海外の報道と、中国との落差がありすぎ!
高口 ちゃんとした評価は海外からの実機レビュー待ちですが、このように話題の商品をデビューさせて、ブランドや新技術をアピールするのも、独身の日セールの特徴ですね。
――中国ECの主力になりつつあるというインフルエンサーが実演販売を行なうライブコマースで新たな動きは?
高口 ライブコマースに関してはアリババグループの〝口紅王子〟ことコスメ販売のインフルエンサー・オースティンが今年も売り上げのトップを記録しましたが、総合ではTikTokのバイトダンスのほうが圧倒的に強いです。
バイトダンスは産直野菜から高価な貴金属まで、中堅どころのインフルエンサーをそろえて売り上げを伸ばしました。
――このオースティンさん、10時間ぐらい延々としゃべり続けるすさまじいトークモンスターですよね。これは体力的にしんどいはず!
高口 そんなインフルエンサーの代役として登場したのが、バーチャルヒューマンです。
――これVTuber的なやつですか?
高口 違います。VTuberは〝中の人〟が存在しますが、バーチャルヒューマンはAlexaやSiriのようなAIに、アニメ風のキャラをかぶせたものになります。なので多少の会話もできます。
バーチャルヒューマンが単独でライブコマースを行ないつつ、インフルエンサーとコンビを組んで、インフルエンサーを休憩させるという用途でも利用されています。
最近は人型のバーチャルヒューマンも登場しており、近々彼らもライブコマースに投入されるでしょうね。
――この人型バーチャルヒューマン、トークもしぐさもPCやスマホの画面上だと違和感ナシのレベル!
高口 それに、インフルエンサーは独身の日セールでバズった後に不倫や脱税などで一発退場になることが多い。バーチャルヒューマンは中の人すら存在しないので、運営側はそういったリスクを回避できるのも魅力です(笑)。
■中国人の買い物スタイルも激変!
では、実際に現地の人は独身の日セールでどういった商品を買い物しているのか? 中国・上海でエンジニアとして働く、アラサー男子の徐さんの買い物は?
徐 お気に入りのおつまみセットとペットフードの乾燥さんまを定期購入で契約しました。独身の日セールで定期購入を契約すると通常より10%ほど安くなるんですよ。
――なんか、これまでの爆買いってイメージとは程遠い地味なやつじゃないですか。
徐 同年代の女性だと衣料品のまとめ買いをしますけど、それもユニクロのヒートテックですね。40、50代だとちょっと高級なお酒とか。
――高口さん、これは爆買いそのものが終焉(しゅうえん)なんですか?
高口 爆買いの終焉というか、消費者が賢くなったんです。独身の日セールは、ひとつの高額商品を狙うよりも【まとめ買い】や【定期購入】のほうが割引率が高く設定されていますから。
そして、前出の宅配便件数の減少も、この【まとめ買い】と【定期購入】の普及が影響していると考えられます。
徐 それにスマホや高額の家電製品などのフラッグシップモデルは、独身の日セールよりもメーカー直販の予約販売の【早期購入者特典】で買ったほうが割引率が高く、特典グッズ付きでお得なんです。
――なるほど!
高口 大手ECやメーカーは、すでに独身の日セールに頼らない販売方式に切り替えているんです。今年の始めから【まとめ買い】や【定期購入】を利用するユーザーを優遇する方式に切り替わっています。
また、中国の食料品や日用品などのメーカー各社は通常価格を盛っているため、こちらも【まとめ買い】や【定期購入】のほうが圧倒的にお得になるシステムなんです。
逆に独身の日セールに新規で参入した日本企業や海外企業は、通常価格を盛っていないため、セール時に大赤字になっていますね。
徐 しかもセールは毎月あって、独身の日セールで買うのとそんなに変わらないんです。これまではライブ配信とかであおられて、高額商品を買っていましたけど、ライブ配信がなくなり、無計画な爆買いも減りましたよ。
――そんなよく訓練された消費者に人気だった製品とは?
高口 衣料品だとユニクロが首位、ガジェット系だとAppleです。このあたりは海外メーカーが強いです。一方、今年急速にブームになっているのがキャンプとペット用品です。これは海外勢よりも国産ブランドが台頭しています。
――転換期を迎えた感じの独身の日セールですが、これはもうオワコンなんですかね。
高口 確かに中国では転換期です。一方、これまで中国でやってきた独身の日セールの販売システムを海外展開しはじめています。
中国系の越境ECのSHEIN、アリババ系のアリエクスプレスは、日本やアメリカでも独身の日セールを開催しました。今後はほかのECも海外市場で独身の日セールを展開するでしょう。
――これは日本でも、【定期購入】や【早期購入者特典】など、中国的な賢い買い物テクのマスターが必須かと!