大手家電量販店やショッピングモールでの週末セールの目玉アイテム、スマホの1円販売。MNPをするならかなりお得に端末を購入でき、ユーザー的には大歓迎のセールだったが......!? この販売方式を公正取引委員会や総務省が問題視している。その内容、そして今後スマホの1円販売はどうなるのかを解説です!
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■1円スマホを買うなら今しかありません!
ターミナル駅前やバイパス沿いの大手家電量販店の週末セールの大定番といえば、1円スマホ。NTTドコモ、au、ソフトバンクを取り扱うショップが「iPhone SE(第3世代)」、「Pixel 6a」といった人気モデルを【条件アリ】ながら、1円で販売して大人気。
しかし、その1円販売の雲行きが怪しくなってきている。公正取引委員会は定価を無視した安売りに強制調査をスタートし、総務省も1円で購入された端末の〝転売〟を問題視する緊急事態!
そして11月4日、ソフトバンクの宮川潤一社長は1円スマホについて、「社会現象としては良くないと思っている」と同社の決算会見でコメントし、販売方法を改めることを明言。
今後、スマホの1円販売はどうなるのか? そしてこれまでの経緯をITジャーナリストの法林岳之(ほうりん・たかゆき)さんに解説してもらいます!
――そもそも、なぜスマホの1円販売がこんなブームになってしまったのでしょうか?
法林 2019年10月に総務省の電気通信事業法の改正により、回線と端末をセットで販売する場合の割引上限が2万2000円に制限されました。それまでは端末が半額近くで販売されることもありましたが、この改正によって消滅したのです。
――確かに、19年以前は〝日本は世界一iPhoneが安い!〟といわれ、国際的な転売グループが爆買いするなんてこともありましたよね!
法林 しかし、法改正したことで10万円以上のフラッグシップ端末の売り上げが激減、キャリアの契約者獲得にも影響が出る結果となりました。
そんな中、昨年末ぐらいから全国の大手家電量販店に出現しはじめたのがスマホの1円販売です。型落ちのiPhone 12シリーズや、現行型のiPhone SE(第3世代)など、【MNP】やキャリアの【端末購入プログラム】の利用を条件に1円販売されるようになったのです。
――でも、au価格で7万935円のiPhone SE(第3世代)を1円で販売するって、改正電気通信事業法の上限2万2000円引きルール的にはアウトなのでは?
法林 合法です。キャリア分の割引額の上限2万2000円とは別に、【店舗限定割引】【機種限定割引】といった独自割引を追加し、1円販売を行なっています。
しかし、今年8月に公正取引委員会がこれを問題視し始めたのです。3キャリアなどに対して定価7万円前後であるiPhone SEなどを1円で販売することは、【独占禁止法違反の不当廉売】に当たる恐れがあるとして調査に乗り出しました。
――さらに総務省も、スマホ1円販売に怒っているとか?
法林 1円で販売される場合の【店舗限定割引】や【機種限定割引】【端末購入プログラム利用の有無】【MNPや回線契約の有無】などの各種条件の表示が、ユーザーに対してわかりづらいこと。
さらに、「安値販売が転売行為を助長している」との指摘があり、一般ユーザーよりも転売業者が得をしている可能性が高いことを問題視しています。
――これ、完全に1円スマホの消滅フラグ! この問題、キャリア的にはどう考えているのでしょうか?
法林 11月4日にソフトバンクの宮川潤一社長は「社会現象としては良くない」とコメントし、今後は是正することを明言しました。そして今年、NTTドコモの井伊基之社長をインタビューした際も、「回線契約がある人にお安く提供する形のほうが自然だと思う」と話していました。
――つまり、今後1円スマホはどういう方向に?
法林 回線契約が付随する場合のみ、2万2000円の割引上限を見直す。1円販売はなくなりますが、ユーザーも高額端末を買いやすい環境になります。実際、海外のキャリアではこのような販売方法が標準ですから。
――海外のキャリアは具体的にどんな割引システムを?
法林 例えばキャリアの【ギガ無制限プランA】という通信料金プランを契約して新型iPhoneを購入した場合は、【ギガ無制限プランA】の月額料金が大幅に値引きされるといった割引システムがあります。高額の通信料金プランを契約すれば、端末代金が割引になる場合もあります。
この方式は回線契約と端末の購入がひもづいており、既存のユーザーは【機種変】で得する要素が大きく、一方で強力なMNPキャンペーンを打ちやすいのも特徴ですね。
――日本も、それでいいじゃん! つーか、総務省が決めた上限2万2000円引きルールがすべての問題のトリガーな気がするんですけど......。
法林 実は、韓国は日本より先に割引上限ルールを設けました。しかし、日本の1円スマホのような安売りがゲリラ的に実施されて転売が増え、社会問題化したのです。
――で、韓国はどうなったのですか?
法林 韓国は14年に割引上限ルールを設けたのですが、すぐに上限額を見直すことになりました。
――お隣で前例があったのにスルーしちゃってたのかよ!
法林 はい(笑)。この韓国の事例は国内の法改正時にも話題になりましたが、あまり参考にされませんでしたね。
――ところで、ユーザー的に気になるのは1円スマホがいつまで存続するのかってこと。これは?
法林 法改正には時間がかりますが、政省令として【廉売禁止】【割引上限2万2000円の見直し】を出すことはすぐにでも可能です。
スマホの売れる時期は年末年始、そして新生活シーズンの3月。現在の公正取引委員会、総務省が共に問題視する状況だと、このタイミングで省令が出される可能性が高いでしょうね。
――現状、大手家電量販店ではAppleやGoogleの人気モデルが1円販売中。年末までが、1円スマホのラストチャンスかもしれませんよ!