勝ち組のステータスシンボルのようなタワマンだが、金利上昇によるローン返済額の増額で、手放さなければならなくなる住民も出てくるかもしれない(写真:晴海フラッグ公式HPより) 勝ち組のステータスシンボルのようなタワマンだが、金利上昇によるローン返済額の増額で、手放さなければならなくなる住民も出てくるかもしれない(写真:晴海フラッグ公式HPより)
円安や資源高騰のあおりを受け、日本でも日用品の値上げラッシュが続いている。しかしそれ以上に高騰しているのが都市部のマンション価格だ。

調査会社「不動産経済研究所」の10月期の集計によれば、東京23区の新築マンションの平均価格は昨年同月比で10.8%上昇し、9365万円だったという。しかし、そんな不動産バブルも「終焉が近い」と指摘するのが、住宅ジャーナリストの榊淳司氏だ。榊氏がその根拠を語る。

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中国と韓国では不動産バブルが崩壊した。

中国ではマンションの購入契約を済ませ、住宅ローンを払っているのに物件が引き渡されないケースが何十万件もあるという。デベロッパーが建設会社に工事費を払えず、建築がストップしているのだ。怒った購入契約者の一部は、建設工事が中断したマンションの中でテントを張って暮らしているというニュース記事をよく見かけた。

韓国では金利が急騰している。変動金利で住宅ローンを組んでいるマンション購入者の返済額も増えている。無理目なローンを組んだ場合、給料の大半が住宅ローンの返済に消えるので、日々の食事がインスタントラーメンになっている人もいるとか。

マンションを売却してローンを精算できればよいのだが、バブル崩壊でローン残高以下でしか売却できないケースも増えているようだ。

中国のバブル崩壊の遠因は、供給過多である。人口14億人の中国で、34億人分の住戸が建設されている、という記事も散見する。バブル崩壊は必然の道だろう。韓国のマンションバブルは低金利と前政権の失策が原因である。前政権時代の5年間で、ソウルの中心エリアではマンション価格が2倍になったという。

■マンションバブルの背景に日銀による異次元金融政策が

振り返って日本はどうだろうか。

2013年以来、首都圏のマンション価格は右肩上がりに上昇してきた。東京の港区や千代田区あたりでは、この10年間で概ねマンション価格は2倍になった。都心やその周辺エリアでマンションを購入した多くの人は、値上がりの含み益を抱えているか、あるいは売却して実際に譲渡益を享受したという。

この値上がりを支えたマンション需要には、やや問題がある。東京の都心や湾岸エリアのタワーマンションの多くは「住むため」ではなく「値上がり狙い」で買われたのだ。それこそ、一種のバブルである。

東京やその周辺のバブル的な不動産価格の上昇に大きな役割を果たしたのは、日本銀行の異次元金融政策である。その中身はまさに「異次元」。今の政策金利は0%とマイナス0.1%。日本の金融史上、これほどの低金利はかつてなかった。

ただ、来年の春以降はそんな流れが変わるかもしれない。金利が下がれば不動産価格が上昇するのは経済のセオリー。ただし、この史上最低金利を柱とする異次元金融緩和政策は、現日銀総裁の黒田東彦氏が旗振り役となってきた。彼の任期は来年4月までだ。

次期日銀総裁が誰になるか決まってはいない。しかし、誰になっても今よりも金利は上がることは、ほぼ確実。どれだけ上がるか、という程度の問題だ。

■予想される利上げ幅とその影響は?

アメリカは今年になって5回の利上げで政策金利を約4%引き揚げた。30年固定の住宅ローン金利は7%になったという。そのせいで、すっかり住宅が売れなくなっているようだ。

来年4月以降の日本が、そこまで急激な利上げをするとは思えないが、仮に年に1%の利上げでも、住宅ローンは1.5%から2%ほど上昇しそうだ。変動金利で住宅ローンを返済している人は、借入額にもよるが年に数十万円の負担増となる。

金利が上がると、マンションは売れなくなる。新築、中古とも市場の動きは急激に鈍るだろう。金利が戻る気配を見せなければ、やがてマンション価格は下がりだす。長らく続いた東京とその周辺の不動産バブルも、いよいよ終わりの時を迎える可能性がある。

「来たるべき金利上昇に備え、物件を売却する予定の人は早めの行動を」と榊氏 「来たるべき金利上昇に備え、物件を売却する予定の人は早めの行動を」と榊氏
日本でも韓国のように、住宅ローンの返済がきつくても価格が下がったので「売るに売れない」ケースが出てくるかもしれない。

しかし、日本は何事も緩やかに変化する国だ。住宅ローンの返済に困窮する人が目立ち始めるまでには、まだ少し時間がかかりそうな気がする。

最近、東京やその周辺の中古マンションの売買がやや鈍ってきた印象がある。ただ、いまだに高値は維持している。将来、売却するつもりの物件があるなら、早めに動くべきだろう。

●榊淳司
住宅ジャーナリスト
1962年京都府生まれ。同志社大学法学部および慶應義塾大学文学部卒業。バブル期以降、マンションの広告制作や販売戦略立案などに20年以上従事したのち、業界の裏側を伝える立場に転身。購入者側の視点に立ちながら日々取材を重ねている。『マンションは日本人を幸せにするか』(集英社新書)など著書多数。