厳しいコロナ規制が続けられた中国で、日本への移住熱が過去になく高まっているという 厳しいコロナ規制が続けられた中国で、日本への移住熱が過去になく高まっているという
ゼロコロナ政策が事実上崩壊し、現在大幅な規制緩和が行なわれている中国。すでに感染爆発が発生していると見られ、現在も経済復調の兆しは不透明となっています。そんな中国で密かに流行語となっている言葉があります。それが「潤」です。

中国語で「潤」の発音表記は「run」となり、英語では「走る、逃げる」という意味になります。中国では、厳しいコロナ規制をきっかけに、中国を捨てて海外へ脱出することを希望する人々が増え、「潤」という言葉が一気に普及しました。

実際に中国のインターネットの検索ワードランキングでは今年3月、「移民」というキーワードが急上昇し、これまでの24倍となる約5000万回以上検索されてきたのです。

■中でも人気移住先は日本

中国ではこれまで主にアメリカやヨーロッパ、カナダ、オーストラリアが移住先として人気でしたが、政治的問題から各国で中国人へのビザ審査が厳格化されていることや、コロナの影響でビザ延長申請やビザ変更申請などの業務が増加し、各国の移民局では新規のビザ審査業務に大幅な遅れが出ていることが指摘されています。

こうした中、新たな移住先の候補として日本が人気となっています。

理由としては地理的、文化的な近さもありますが、何より大きいのが日本への移住のハードルの低さです。中国のビザ取得仲介業者のサイトも、「日本は世界の中で最も暮らしやすい国家のひとつである。日本への移民には経営管理ビザの取得が最も効果的で便利である」と紹介しています。

さらに、医療保険制度や社会保障制度など福利厚生が優れていることも、日本への移住の利点として挙げられています。

■現実には厳しい日本移民のハードル

移民志向が高まっている中国で注目される日本への移住ですが、現実的には様々なハードルもあります。

経営管理ビザの申請の際には、最低500万円の会社資本金を有することの他、会社運営を行なう不動産物件を確保することや詳細な事業計画書の作成、さらに会社運営に掛かる人員の確保なども同時に行なう必要があり、一般の中国人が日本での投資経営ビザを取得することは非常に難しい現実があるのです。

また現在、中国政府は中国国内からの資本流出を防ぐため、個人の年間海外持ち出し金額の限度額を年間5万ドル(約700万円)としているため、中国に十分な資金がある人も、日本に持ち込めるかどうかはまた別問題になってきます。

とはいえ、中国のウィーチャット(中国版LINE)では、「経営投資ビザ取得可能」と銘打った広告が数多く散見されます。中には、営業実態のある飲食店や整体院の経営権が仲介業者によって売買されているという現実もあり、実際に200万円ほどの報酬を支払い、ビザを取得している人も多く存在しています。

資金の移動についても地下銀行業者が暗躍しており、関連広告などが数多く発信されています。ただ、現実的にはビザ更新の際に、業者から法外な報酬を提示されトラブルになることも多く、こうした業者を利用することは非常に大きなリスクも伴うと共に、日本社会にとっても歓迎される状況ではありません。

中国にまとまった資産があったとしても、海外への持ち出しが規制されているため、移住先での資産確保は容易ではない 中国にまとまった資産があったとしても、海外への持ち出しが規制されているため、移住先での資産確保は容易ではない
その他にも日本への移住方法として、特定技能である「調理師」や「介護」の分野で在留資格を取得する方法や、専門知識や技術を持つ人を受け入れる「高度専門職」によるビザ取得なども、中国のネット上では紹介されていますが、日本語能力や職務経験、学歴や資格がなければ在留許可が認められることはなく、そのハードルは決して低くないのです。

近年では、中国人男性が日本で配偶者ビザを取得するため、日本人女性と結婚するパターンが増えていますが、それも中国で一定の成功を収め経済的余裕のある人に限られています。

というわけで、一定の資産を持たない人や専門的技術がない人にとって、日本への移住は夢物語に近い話であるというのが現実です。一生働かずに暮らせる資金を用意できる人は別として、経済成長の落ち込みが顕著となっている日本で、生活を続けるだけの収入を維持することも以前に増して難しくなってきています。

日本で生活して30余年の私から、日本への「潤」を夢見る中国人に言えることはひとつ。日本で生活していくことは決して楽ではない!

●周来友

ジャーナリスト
1963年、中国浙江省紹興市生まれ。1987年に私費留学生として来日し、司法通訳人を経て現職。翻訳・通訳派遣会社も経営している