中国が台湾に軍事行動を起こすとしたら日本も無関係ではいられない中国が台湾に軍事行動を起こすとしたら日本も無関係ではいられない
3年続いたコロナ禍に昨年のロシアによるウクライナ侵攻と、予測困難な事象が立てつづけに発生している昨今。経営戦略コンサルタントの鈴木貴博氏によると、2023年もサプライズの時代は続くという。一体何が起きるのか......。

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「これまで20年間続いてきた人生は21年目も同じように続くはず」。コロナ禍前の日本人はそんな風に考えて生きてきた。

生まれてこの方ずっと百均に行けば何でも100円で買え、欲しいものはコンビニでほぼほぼ手に入り、マクドナルドに行けば食事には困らず、スマホさえ持っていれば普通に生活ができる。そんな日々が若者にとってはあたりまえの日常だった。

それが2020年にコロナ禍が起き、2022年にウクライナ侵攻と値上げラッシュが起きたことで国民の意識が変わり始めている。「サプライズが起きることでこれまでの生活と前提がまるっきり変わることがありうるんだ」と言う意識が否が応でも高まってきている。

若者よりもずっと長く生きている者からみると、むしろそれが世の中の真理だったりする。これまでの20年間、パッとしない代わりにおかしなことも起きない時代が長く続いたことのほうがむしろ珍しかった。

そして未来予測を専門にする私の立場では、2022年のウクライナ侵攻をきっかけに世界は、1960年代から70年代がそうだったような「サプライズが急増する時代」に突入したと捉えている。

難しい言葉で説明すると、2021年までは自由貿易を中心命題に、グローバルに各国が協調することがお互いにメリットをもたらすという考え方が世界の中心思想だった。

ところが2022年以降、考え方の違うブロックに世界が分裂したことで、対立してでも自国の利益を押し通すほうがいい局面があることに世界各国が気づきはじめた。

だから2023年も、2022年と同じようにサプライズが起こる可能性がある。それはこの先、ずっとそうかもしれない。

近年、北朝鮮が活発化させている軍事的挑発も、日本にとってはリスクのひとつ近年、北朝鮮が活発化させている軍事的挑発も、日本にとってはリスクのひとつ
私は経営戦略コンサルタントが主な仕事だ。その立場では日本の大企業トップが想定しているサプライズシナリオについても熟知している。対外的にはそんなことを口にはしない大企業のトップが「それが起きる可能性を常に考慮しておこう」と考えていることが「日本の戦争」である。

実際、いつそれが起きてもおかしくない危機が目の前にふたつある。まず北朝鮮の軍事挑発が暴走するというシナリオ。それが意図的か偶発的かにかかわらず北朝鮮が発射したミサイルが日本の領土内に落ちたとき、日本の政治や経済には大混乱が起きるはずだ。

ただこのシナリオならその先の事態収拾は外交手段で収束できるかもしれない。それよりもずっとやっかいなシナリオが中国による台湾侵攻だ。

日本人が北方領土を日本の固有の領土だと考えているのと同じで、中国は台湾を中国の一部だと考えており、その統一を悲願だと考えている。

第三期目の習近平政権は2027年まで続くが、その終わりまでの5年間のどこかのタイミングで、中国は台湾との統一の動きに出る可能性は常にある。それは一般の日本人が想像するよりはずっと、本当に起きる可能性が高い未来なのだ。

問題はそれが起きるとすれば、中国にとっては「軍事進攻」しかオプションがないということだ。

そしてそれがどう起きるかは、過去の歴史から類推することができる。これまで台湾海峡危機は3度起きている。中国が軍事的に狙うのはどの場合もまず台湾の離島だ。いきなり台湾本土に手をかけるのではなく、紛争を既成事実にするような手を打ってくるわけだ。

「欲しいモノが欲しい時に手に入る」そんなこれまでの当たり前は、過去のものとなってしまうかもしれない「欲しいモノが欲しい時に手に入る」そんなこれまでの当たり前は、過去のものとなってしまうかもしれない
総合商社や半導体大手など、グローバルビジネスを展開する巨大企業のトップが、その台湾侵攻のリスクが急速に高まっていると捉えている。最大の根拠が昨年末、日本政府が安保3文書という非常に重要な軍事政策の変更を、国会の議論なしに閣議決定したことだ。

これは明らかにおかしな話で、野党が反発するように明確な国会軽視にあたる。ただ、おかしなことが起きるときには往々にして説明できない裏がある。

実は昨年、アメリカの戦略国際問題研究所というシンクタンクが台湾侵攻に関するシミュレーションを行った。

今年になって発表されたレポートでは、ほとんどの想定ケースでアメリカは台湾の防衛に成功するのだが、その結論に書かれていた一文が重要で「在日米軍基地の使用が米軍には不可欠になる」のである。背景には、近年の中国海軍の戦力が米国の戦力を上回っているという事実がある。

それと呼応する形で日本の防衛政策の根幹が、きわめて短期間に国会審議を経ることなく変更されたことが重要なシグナルなのだ。あるインフラ企業でリスクマネジメントに関わる幹部が私に、「国民に明かされない何かが起きていることは間違いない」と言ったことが印象に残っている。

明日、コンビニの棚からすべての商品が消え去ってしまう未来は、2023年のいつ起きるかもしれない。現実的にやれることは少ないが、備蓄用の食料品は今のうちに少し多めに入手しておいたほうがいいだろう。あと今年は円高が予測されているが、外貨預金は売らずにそのままにしておいたほうがいいとも思う。

もちろん、そうならないためにあらゆる政治努力をすることが日本にも求められるわけなのだが、肝に銘じておきたいことは、「そういうサプライズも起きかねない時代に世界が突入したこと」。それを忘れないで生きていきたい。

●鈴木貴博
経営戦略コンサルタント、百年コンサルティング株式会社代表。東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループなどを経て2003年に独立。未来予測を専門とするフューチャリストとしても活動。近著に『日本経済 復活の書 ―2040年、世界一になる未来を予言する』 (PHPビジネス新書)