ケンタウロス、ケルベロス、グリフォン、クラーケンなどオミクロン系統の変異株を退ける、新たな変異株(通称ドラゴン?)は現れるのか......!? ケンタウロス、ケルベロス、グリフォン、クラーケンなどオミクロン系統の変異株を退ける、新たな変異株(通称ドラゴン?)は現れるのか......!?

中国で出現した従来株から、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、オミクロン株と、この3年の間に原因不明の「大進化」と呼ばれるダイナミックな変異を何度も繰り返した謎多き新型コロナウイルス。

今、研究者の間で最も懸念されているのが、人口14億人を抱える中国での新たな変異株の出現だ。最新状況をもとに緊急検証する!!

■今の中国は変異株を生み出す〝ゆりかご〟

徹底的な感染対策で、新型コロナの封じ込めを続けてきた「ゼロコロナ政策」を昨年12月に解除して以来、爆発的な感染拡大が止まらない中国。

政府による政策の転換後はPCR検査数も大幅に減り、事実上、新規感染者の全数把握は行なわれていないため、正確な数はわからないが、少なく見積もっても、この1ヵ月余りで「億単位」の感染者が出たといわれている。

中国政府は、昨年12月8日から今年1月12日までの間に6万人近くが新型コロナによって死亡したと1月14日に明らかにしたが、それでも「ウィズコロナ」の流れを変えようとする動きは見られない。

人口14億1000万人を抱える中国での爆発的流行ともなると感染拡大の規模も桁違いだが、そこで懸念されているのが「中国発の変異株」が出現する可能性だ。

「こうした大規模な感染拡大は、新たな変異株出現の温床となる可能性が十分にある」

そう警鐘を鳴らすのは、東京大学医科学研究所システムウイルス学分野教授で、新型コロナウイルスの変異株の研究で世界からも注目される研究者グループ「G2P-Japan」を主宰する佐藤佳(さとう・けい)氏だ。

ウイルスの「変異」とは、どのように起きるのか?

「それはウイルスが増殖する過程で起きる、一種の『コピーミス』だと考えればいいでしょう。

実際のコピー機で何度もコピーを繰り返すと、少しずつオリジナルとのズレが広がるように、ウイルスの遺伝情報も増殖の過程で何度もコピーを繰り返すと小さな変化を繰り返し、元のウイルスとは異なる性質を持った変異株が生まれることがあります。

これが『抗原ドリフト』と呼ばれる変異のメカニズムのひとつで、こうしたウイルスの変異はランダムに起きます。そして生き残りに有利な性質を偶然獲得したウイルスが、既存のウイルスとの生存競争に打ち勝つことで広がっていくのです」(佐藤氏)

感染拡大の規模が大きいほどウイルスの増殖に伴うコピー回数が増え、ウイルスが変異する確率も可能性もどんどん高くなる。

そう考えると、14億を超える人口を抱え、ゼロコロナ解除で爆発的な感染拡大が続く今の中国が、こうした新たな変異株を生み出す〝ゆりかご〟となっているのは間違いなさそうだ。

昨年12月、ゼロコロナ政策の解除に踏み切った中国。爆発的な感染の広がりは習近平主席にとっても予想外の展開か。中国は当初、「人民第一、生命第一」のスローガンを掲げていたが、ゼロコロナ解除で一転、「自分の健康は自分が最大の責任者」というスローガンに 昨年12月、ゼロコロナ政策の解除に踏み切った中国。爆発的な感染の広がりは習近平主席にとっても予想外の展開か。中国は当初、「人民第一、生命第一」のスローガンを掲げていたが、ゼロコロナ解除で一転、「自分の健康は自分が最大の責任者」というスローガンに

■「人民第一」から百八十度転換!

では、その中国の現状はどうなっているのか?

「中国政府が突如、ゼロコロナ政策を転換したときに『これはすごい数の感染者が出るだろうな』と予想はしていたのですが、その私も、まさかこんな勢いで感染が広がるとは思わなかったし、政府のトップも考えていなかったんじゃないでしょうか」

と驚きを隠さないのは、中国事情に詳しいジャーナリストの高口康太(たかぐち・こうた)氏だ。

「これまでは、習近平政権が中国共産党の掲げた『人民第一、生命第一』というスローガンの下、ひとりの感染者も出すなというぐらいの勢いで、徹底したコロナの封じ込めを優先してきましたし、地方政府の役人も過剰なぐらいにその指示を守ってきたんですね。

ところが、そうした習政権の方針が突然百八十度ひっくり返って、『自分の健康は自分が最大の責任者』みたいなスローガンに切り替わったものだから、地方政府も一斉に『社会を回せ、ガンガンいこうぜっ!』という空気になっちゃった(苦笑)。

こうなると、リスクコミュニケーションも何もなくて、『コロナはただの風邪だ』とか『後遺症なんてほとんど起きてない』みたいな発信が目立つようになり、一部の自治体では『コロナ陽性でも普通に出勤していい』みたいな話になっているといいます」(高口氏)

一方、こうした政府や自治体の〝ちゃぶ台返し〟とも取れる政策転換や、それに伴う中国国内の急激な感染拡大に対し、国民の側にも、ある種の「開き直り」に近い反応が広がっているようだ。

「政府のゼロコロナ政策が転換した直後は感染におびえていた人もいましたが、その後、都市部で爆発的に感染が広がると、『感染は回避不能だから、あとはお祈りするしかない』とか『もう早く感染しちゃったほうがいい』みたいな雰囲気になっていて、北京や上海などの大都市部では人口の8割から9割ぐらいが感染したといわれています。

もちろん、その結果、火葬場はいっぱいで、深刻な医療崩壊が起きているのも事実ですけれど、それでも社会を回していこうという流れはそのままに、会社のオフィスにいる人は陽性者ばかりで、逆に感染してない人を別室に隔離するという状況まで起きているという話です。

これまで中国が採ってきたゼロコロナ政策は、社会の中にいる、ごく一部の感染者や濃厚接触者を隔離施設に閉じ込めて、それ以外の人たちが『コロナのない清らかな世界』で暮らすという感じだったのですが、これが一気に逆転して『コロナのある世界』になり、まだ感染してない人と感染したら死ぬかもしれない人が、恐怖を感じながら暮らすということになっています」(高口氏)

春節の大移動は1月7日頃から2月15日頃まで続くとされる。中国交通運輸省の発表によれば、この期間に延べ20億9500万人が国内移動する。地方への感染拡大が懸念されている 春節の大移動は1月7日頃から2月15日頃まで続くとされる。中国交通運輸省の発表によれば、この期間に延べ20億9500万人が国内移動する。地方への感染拡大が懸念されている

■コロナの「大進化」は中国で起きる?

このように、もはや〝野放し状態〟の中国の感染拡大。これだけでも十分、新変異株出現のリスクが高まっているように思えるが、心配な点はこれだけではない。

大きな懸念材料のひとつは、1月22日に「春節」(旧暦の正月)を迎えた中国で起きている「民族大移動」だ。

すでに都市部での急激な感染拡大はピークを越えたとする見方もあるが、春節の前後に大量の帰省客が都市部から地方に移動すれば、当然、都市部の感染拡大は地方へと広がることになる。

厳しい感染対策がなくなり海外旅行も解禁された今年の春節は、この3年間、帰省や旅行を我慢してきた人たちにとって待ちに待ったシーズンの到来。多くの人が一斉に移動するとみられ、地方にも感染を拡大させてしまう可能性が高いのだ。

「春節の大移動は1月7日頃から始まるのですが、中国交通運輸省の発表によると、1月7日から2月15日までの特別輸送期間には延べ20億9500万人の移動が予想されていて、2019年比で70%程度まで回復するとしています。 

コロナ前と比べれば、少し減ったとはいえ、20億人が移動するわけです。しかも、その多くは高齢化が進み、医療体制の貧弱な地方への帰省客なのですから恐ろしい話ですよね」(高口氏)

ほかにも、専門家の間で強く懸念されていることがある。中国の感染拡大の過程で、これまでとは別系統の変異株が生まれてしまう可能性だ。前出の佐藤教授が語る。

「コロナの変異を振り返ると、すでに述べた遺伝子のコピーミスが少しずつ積み重なって変化する抗原ドリフトによる変異以外に、今、アメリカで感染が広がっている『XBB.1.5』(通称クラーケン)の元となったオミクロン系統のXBBのように、複数のウイルスに同時に感染した人の体内でウイルスの遺伝子が混ざり合って生まれる『組み換え体』という変異株もあるのですが、実はそのどちらでも説明できない『大進化』と呼ばれる大きな変異が、2019年に中国で最初の従来株が現れてから、わずか3年の間で5回も起きています。

これまでWHO(世界保健機関)が懸念すべき変異株に指定した、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、オミクロン株の5つは、すべてこの『大進化』の産物で、中でもアルファ、デルタ、オミクロンの3つは世界的に感染が広がりました」

こうしたウイルスの「大進化」がなぜ起こるのか? その理由はまだ解明されていないが、ひとつの仮説として考えられているのが、エイズ患者などに見られる免疫が正常に働かない「免疫不全」との関係だという。

免疫不全の症状を持つ人の体内では、ウイルスが数ヵ月以上という長期間にわたってとどまり続ける場合があり、その間に小さな変異が蓄積されて『大進化』につながっているのではないかというのだ。 

ゼロコロナ政策の解除で、特に中国の地方に広がっているといわれるエイズ患者へのコロナ感染リスクが高まっているのも大きな気がかりだ。

わずか3年の間に「大進化」と呼ばれる変異を何度も繰り返した新型コロナウイルス。中国の感染爆発でオミクロン系統とは別の変異株は出現するのか? イラスト/ピクスタ わずか3年の間に「大進化」と呼ばれる変異を何度も繰り返した新型コロナウイルス。中国の感染爆発でオミクロン系統とは別の変異株は出現するのか? イラスト/ピクスタ

■〝狂暴な龍〟でないことを祈るしかない!

佐藤教授が続ける。

「中国の感染拡大は、現在、流行の主流となっているオミクロン株の新たな変異を進める可能性が高いだけでなく、『大進化』によってまったく別系統の変異株を生み出してもおかしくありません。

仮にそれが起きた場合、アルファ株やデルタ株が出現したときのように、それ以前のウイルスと比べて、感染性だけでなく病原性(毒性)が強まったというケースもありますから、十分に注意する必要があると思います」

そこで心配なのは、中国で〝未知の変異株〟が出現しても、その情報が世界にきちんと開示されるとは限らないことだ。

「中国政府には、コロナの『中国起源論』で世界中から叩かれたときのトラウマがあるので、変異株に関しても非常にセンシティブになっています。

昨年12月には、民間の遺伝子解析を行なう企業に対し『勝手にゲノム解析をするな』と通達を出したと報じられました。仮に中国発の変異株が現れても、そのウイルスがほかの国や地域で広がるまではシラを切るかもしれない。

そう考えると、日本や韓国が中国からの水際対策を強化して、ゲノム解析で新しい変異株がないかチェックをすることに対して、中国政府が強く反発するのもわかるような気がします」(高口氏)

中国・武漢からコロナが世界中に広がって3年余り。変異を続けるコロナとの闘いが続く中、中国発の新変異株(通称はドラゴン?)は現れてしまうのか......?

もはやウイルスの変異は誰にも止められないが、せめて〝狂暴な龍〟が現れないことを祈らずにはいられない。