身も心も無防備になりやすい癒しの空間での災害が増えている身も心も無防備になりやすい癒しの空間での災害が増えている
自然志向の高まりに乗ってブームが過熱するサウナやグランピング。一方で、物理的な熱まで高まりすぎたのか、火災事故も続発。当局による規制で、ブームに水が差される事態も危惧されている。

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■池袋のラブホ繁華街で火災

去る1月30日の池袋駅西口の繁華街。周囲の飲食店のネオンが明かりを灯し始めた午後5時半ごろ、「ホテルシロ」の屋上部分から出火した。現場近くの居酒屋の従業員が振り返る。

「外から焦げ臭い匂いがしたので出てみると、屋上の方から黒煙が立ち込めていました。ラブホテルなどの密集エリアなので、延焼したらうちの店もヤバいと心配しましたが、数時間で消し止められたし、けが人もいなかったようなのでホッとしました」

HPなどによれば、ホテルシロは2020年の開業で、最上階のペントハウスに滞在すると、屋上のグランピング施設が使用できる。バーベキュー装置やジャグジー、ベッドの置かれたテントなどが用意され、都会にいながらキャンプ体験を楽しめるのがセールスポイントだった。

「都内の繁華街でバーベキューができて、ジャグジーでお風呂にも入れるということで20~30代の若者を中心に、仲間内のパーティー利用で人気を呼んでいました。火を使うので火災のリスクはあったと思うのですが、まさか本当に起きるとは...」(観光関係者)

■世界最大級の薪(まき)サウナも焼失

火災はサウナでも起きている。2022年が幕を閉じようとする12月31日午後8時50分ごろ、佐賀県武雄市の御船山楽園ホテルのサウナ棟から出火。翌日未明にかけての年越しの火災だったため、客も少なくけが人は出なかったものの、サウナ棟約45平方メートルが全焼した。報道によれば、サウナのストーブが火元の可能性があるという。利用経験がある北関東在住のサウナーが語る。

「このサウナ棟は世界最大級という触れ込みの薪ストーブが設置され、地場産のほうじ茶をサウナストーンにかけてロウリュウができるのが特長。電気やガスの熱とは異なる、薪独特の柔らか味がある"自然"の熱が楽しめました。とはいえ、サウナ室内で熱さでもうろうとする中、薪が火種となって火災が起きてしまった場合、お年寄りなどがちゃんと避難できるのかと心配にはなりますね」

■天然水かけ流しが仇となり集団感染

自然感覚の追求によって付きまとう火災リスク。観光ジャーナリストが打ち明ける。

「サウナやグランピングはブームに乗って近年、新規施設が開設されていますが、コロナによって想定よりも売り上げが確保できず、また物価高が追い打ちになってどこも経営はカツカツ。一部の宿泊施設では人手不足によって、十分な管理が確保できていない事情があります。

昨年秋に、グランピング施設の不衛生ぶりがネットで炎上した『サウナ錦糸町』は、11月に系列施設のサウナでボヤ騒ぎが起き、一時営業を中止する事態となりました。幸い、これまでに死亡事故はおきていませんが、死者が出るようになれば警察・消防によって厳しい規制が入り、対応できない施設は閉業といった事態も予想されます」

サウナで火災に見舞われた際の避難経路を確認している利用客が何人いるだろうか......サウナで火災に見舞われた際の避難経路を確認している利用客が何人いるだろうか......
また、火災以外にはこんなトラブルも。

「東海地方に"サウナの聖地"と称されるサウナ施設があり、100%天然水かけ流しを売りにしていますが、2019年にアデノウイルスが原因とみられる集団結膜炎が発生しました。消毒用の塩素を入れていないために、利用客の体内のウイルスが水風呂に混入し、繁殖してしまったのです。

常連客は2週間ほど、朝に起床すると目ヤニで目が開けられなくなったそうです。この施設は、対策として夕方に水風呂の水を入れ替えるようになりましたが、抜本的な解決にはなりません。自然の雰囲気を追い求めると、様々なリスクが伴うのです」(前出ジャーナリスト)

いまや、現代人の癒しのツールとなっているサウナとグランピング。ただ、突然巻き起こったブームの一方で、安全基準や災害対策の見直しは十分とは言いがたい状況だ。都会のオアシスのその陰では、重大な健康被害や生命の危険性が寄り添っていることを、利用客も自覚しておかねばならない。

●大木健一 
全国紙記者、ネットメディア編集者を経て独立。「事件は1課より2課」が口癖で、経済事件や金融ネタに強い