秘密結社フリーメイソンのシンボルマーク「プロビデンスの目」 秘密結社フリーメイソンのシンボルマーク「プロビデンスの目」

今もじわりと世界を侵食し続けている陰謀論ムーブメント。今回はビジネスという観点でトンデモ理論が広がる構造を考えてみたい。そして、2023年にはやりそうな陰謀論は? 新鋭気鋭のウオッチャーにガッツリ聞いた!

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■7300万円にも達した寄付

【有名すしチェーン店Kの皿の表側に描かれている三角形の図形は、秘密結社『フリーメイソン』をかたどる『プロビデンスの目』と同じ。Kはフリーメイソンのすし店で〝闇の勢力〟に属する企業なのだ】

【女性は金属ワイヤー入りのブラジャーの着用は絶対に避けたほうがいい! ブラジャーの金属ワイヤーは平行に入っていて、電波の水平偏波を受信しやすく、電波を乳房の付近で受信すると乳がんのリスクが増すからだ】

これは、『あなたを陰謀論者にする言葉』(フォレスト2545新書)の著者でオカルト・スピリチュアル・悪徳商法研究家の雨宮 純氏が、「最近ツイッターで見つけた」という陰謀論・トンデモ科学だ。

「ツッコミどころ満載で、ちょっと面白いですよね。ただ、陰謀論やトンデモ科学は身近なあらゆるものにひもづけられますが、特に健康につなげて不安をあおるのは邪悪です。

『健康になりたい』という気持ちは誰でも持っていますから、それを利用して絡もうとしてくるんです」(雨宮氏)

ある事件や事故などを「なんらかの組織が意図的に仕組んだ陰謀」であると説くことを陰謀論という。ただ、「K店フリーメイソン説」を見てもわかるように、たいていの陰謀論は荒唐無稽でバカバカしいので、そんな話を信じる人はいないだろうと、一笑に付す人は多いかもしれない。

しかし、2022年はアメリカの陰謀論集団「Qアノン」を源流とする反ワクチン団体「神真都Q(やまとキュー)」が新型コロナのワクチン接種会場で妨害行為を行なうなど無視できない有害さを発揮した。

この事件で起訴された神真都Q元幹部の倉岡宏行被告、通称「岡本一兵衛(いちべえ)」の初公判が同年9月に行なわれると(12月22日に有罪判決)、翌々月の11月には同代表理事の村井大介容疑者は生活保護費の不正受給で逮捕された。

不正受給と見なされたのは村井容疑者が多額の寄付金を受けていたからだ。金額は昨年7月までに7300万円にも達していたというから、その影響力はバカにできない。

陰謀論がこれほど大きな影響力を持つようになった背景にSNSの存在があるのは言うまでもないだろう。

SNSのビジネスモデルを支えるターゲット広告の仕組みは、センセーショナルで人目を引く話題性のあるコンテンツを優先的に表示するように設計されている。

ある意味「目立ったモノ勝ち」ともいえるこのシステムが、陰謀論を含むフェイクニュースや誤情報を瞬時に世界へと拡散してしまうだけでなく、こうした陰謀論の発信者に巨額の広告費収入をもたらすことで、陰謀論を「有力なコンテンツビジネス」として成立させてしまうのだ。

これに、コロナ禍による人々の不安が重なったことも、ここ数年、陰謀論が影響力を増すことにつながっている。

昨年12月、「神真都Q会」本部の家宅捜索に入る静岡県警の捜査員 昨年12月、「神真都Q会」本部の家宅捜索に入る静岡県警の捜査員

ちなみに、雨宮氏によると、陰謀論にはこうしたSNSの広告費以外にもさまざまな形の「収入源」があるという。

「逮捕された神真都Qの村井のように直接寄付を募って収入を得る方法もありますし、陰謀論には一種の人気商売みたいな面があるので、知名度が上がってくればセミナーやオンラインサロン、講演会や書籍の出版などで多額の収入を得られるケースも多いですね。

あとは物販も有力。『実は塩を傷口に塗ると治りが早いし、大量に飲むと高血圧も治ってしまう。もともと製薬会社が隠していたんだけど、こっそり聞いたから教えてあげる』とか、『200万円ぐらいするコンクリートの缶を買ったら歯が治る、髪が伸びる』みたいな陰謀論的ストーリーを植えつけた上で、関連商品を売るというやり方で、これも陰謀論のビジネス化を大きく支えています」

例えば、12年にアメリカのコネティカット州の小学校で起きた銃乱射事件をでっち上げと主張するなど、アメリカを代表する陰謀論者として知られるアレックス・ジョーンズは、毎月1000万回以上のビューを誇る陰謀論サイト『インフォウォーズ』の運営だけでも、年間2000万ドル(約26億円)を超える収益を上げていたといわれている。

だが、それ以外の陰謀論サイトや全米100局以上でのラジオ出演を含めた彼の全収入の約3分の2は、怪しげな栄養補助食品や歯磨き粉、防弾チョッキなどの物販が占めていたという。

■「事実」でなければ都合が悪い

それにしても、一見、荒唐無稽で、バカバカしいようにも思える陰謀論を信じてしまう人、ハマってしまう人は、どんな心理なのだろうか? 雨宮氏はこんな見解を示す。

「YouTubeなどのSNSは素人が世間の耳目を集めるためのツールとなりましたが、目立ちたい人のほとんどは、そのための知識や芸を持っていません。

そんな人たちの一部にとっては、むちゃくちゃなことを言って目立っている陰謀論者と、自分が同一化するのが気持ちいいんですね。苦労なく、ネット上の情報のパッチワークで『みんなが知らないことを知っている自分は特別なんだ』と手軽に自己肯定感を得られるからです。

例えば反ワクチンの陰謀論にもその構造を見ることができます。『ワクチンは人々を苦しめるエスタブリッシュメント(支配階級)の象徴で、俺たちはそうした闇の勢力に戦いを挑んでいる』という陰謀論のストーリーがあると、その『物語』に乗ることで、自身を『闇と戦う光の戦士だ』と思える......という、ある種の快楽スイッチを押してくれる。これは理屈ではなく身体的な感覚の話だと思います」

ただ、どうしても考えてしまうのは「信者とされている人も、 ライブ感のあるネタ(フィクション)として陰謀論を楽しんでいるのであって、ガチで信じているのではないのではないか?」という疑惑だ。しかし、雨宮氏は言う。

「僕もそう疑うことはあるのですが、例えば実際に神真都Qに参加した人に話を聞いていると、想像以上にガチな人がけっこういる、と感じます。

もちろん村井代表の逮捕などによって、神真都Qを辞めていった人もたくさんいるのですが、そのうちのひとりは『神真都Qはとんでもない団体。(代表の)村井は悪どいやつで信用できない』と話した後、こんなことを語るんです。

『ワクチンの中には寄生虫の卵が入っていて、打ったら孵化(ふか)しちゃうんだよ』。

彼はすごく真剣な顔でした。面食らうとともに、陰謀論の根深さを感じましたね」

雨宮氏は陰謀論にハマる人の特徴をこう看破する。

「陰謀論にガチハマりするのは、むしろ『フィクションをフィクションとして楽しめない人たち』ではないかと思います。

彼らは『よくできた物語』がノンフィクション(事実)じゃないと面白がれない。『現実の中にとんでもない事実が隠されていて、俺はそれを知っている』のが気持ちいいので、フィクションだと萎(な)えてしまうんです」

しかも「ビジネス化した陰謀論」では、陰謀論を広める側も、その陰謀論を信じる側も双方で「お金」というリアルで切実な媒体を通じた関係が築かれてしまうので、その規模が大きくなるほど、双方にとって「フィクションでは都合が悪くなる」わけだ。

■あの3人が手を組み〝光の勢力〟をつくる?

では、今年の〝陰謀論トレンド〟はどんなものになるのだろうか?

「陰謀論のブームは突発的に起きた事件と連動することが多いため、今の段階で『これがはやる』と断定はできないのですが、やはり米実業家イーロン・マスク氏に関連するものは注目ですね。

彼がツイッター社を買収したことでトランプ米大統領のアカウントが復活しましたが、その立役者のイーロンの〝神格化〟は今年も進みそうです。陰謀論者はインテリ・リベラルが大嫌いなので、イーロンはそういった側のメディアをボコボコにしてくれる存在として期待されています」

すでにイーロン氏絡みの陰謀論は数多く広まっている。

「例えば昨年3月に、彼はウクライナにスターリンクシステムという独自の小型通信衛星網を使った通信ネットワークサービスを提供しましたが、陰謀論者の間では『22年6月には世界中のすべてのインターネットが終わって、すべての通信はスターリンクに切り替わる』という説が広がりました。

もちろん現実にはなりませんでしたが、そう指摘すると、『それは闇側の勢力の妨害によって実現しなかったんだ』などと検証しようがない反論をするわけです。

ちなみに、陰謀論界隈(かいわい)では金正恩が人気なんですが『イーロン・マスクと金正恩とトランプは光の勢力としてつながっていて、闇の勢力と戦っているんだ』という言説が今年その界隈ではやるかも(笑)」

一方で、実はウクライナ戦争関連の陰謀論はそれほど盛り上がっていないという。

「ウクライナ戦争が〝リアルすぎる〟からでしょう。国際政治をネタにして本格派の陰謀論を楽しむには、それなりに知識が必要だからです。現代の〝バズる陰謀論〟とは前提となる知識がなくても面白いものであることが条件なんですね」