3月1日に別の窃盗事件で再逮捕された渡辺優樹容疑者と小島智信容疑者。彼らの黒幕と噂されるふたりの日本人はまだフィリピン国内にいるという3月1日に別の窃盗事件で再逮捕された渡辺優樹容疑者と小島智信容疑者。彼らの黒幕と噂されるふたりの日本人はまだフィリピン国内にいるという
巷で報じられている広域強盗事件は、フィリピンで拘束されていた首謀者4人組の日本への送還・逮捕や、実行犯の検挙も相次ぎ、捜査は着実に進んでいるかに見える。

一方で、東南アジアに巣食う"半グレ"は今も数多く生息し、元締めとなる黒幕の存在も指摘されている。半グレはなぜ、東南アジアを目指すのか。

とある暴力団関連の捜査関係者が語る。

「そもそも現役のヤクザは、組の仕事や定期的な会合の出席が求められるので、指名手配をされない限り日本国内を離れることはない。

ただ、組織に属していない半グレたちは日本にとどまる必要はない。借金などで日本にいられないケースも多いしね。電話さえあれば、オレオレ(詐欺)は外国にいたってできるという面もあるよ」

マニラの金融街・マカティ市。急速な経済発展と光の見えない貧困が混在するカオスなフィリピンは、スネに傷を持つ者たちにとっては居心地の良い場所だったマニラの金融街・マカティ市。急速な経済発展と光の見えない貧困が混在するカオスなフィリピンは、スネに傷を持つ者たちにとっては居心地の良い場所だった
金を稼げば当然、散財したくなるもの。そこでも、海外滞在のメリットが生きる。

「日本のキャバクラやラウンジで夜な夜な大金をはたいて飲み歩けば、すぐに噂になる。警察にチクりが入ったり、別の不良にタタキ(強盗)を食らったりする。

10年ほど前に関東連合関係者の振り込め詐欺のリーダー格が、すすきので豪遊しまくっていたのが端緒になってパクられたこともあった。東京だと悪目立ちするから地方で遊んでいたわけだが、今はリスクがある。

だから、気候が温暖で遊び場があり、警察を買収できる東南アジア、特にフィリピンに渡っていくのさ。六本木のクラブ襲撃事件でフィリピンに潜伏している見立真一容疑者のもとには、関東連合の人間が頻繁に金を運びに会いに行っている。

その際に、見立の仲間が現地の警察と揉めてショットガンを突きつけられるほどのトラブルに発展したことがあったそうだが、見立が逮捕されることはなかった。そのぐらい、警察上層部に食い込んでいるということさ」(前出捜査関係者)

日本の警察、同業者の目から逃れて、東南アジアから振り込め詐欺や強盗をリモートで指示する半グレたち。とめどなく横行する背景には、彼らを取りまとめる黒幕の存在が浮上している。

■黒幕として浮かぶふたりのY

全国紙社会部記者が打ち明ける。

「今回逮捕されたグループのバックとして警察当局が注目しているのが、マニラにいるYという50代の人物です。本人は暴力団には属していませんが、父親が山口組系の組織の幹部で、80年代の山一抗争では自宅を銃撃されたこともあります。

Yは、闘鶏のオンライン賭博でシノギを立てる一方で、日本からフィリピンに渡ってきた半グレたちのコーディネート役を務め、振り込め詐欺などをさせています。

Yのグループは"JPドラゴン"とも呼ばれていて、今回逮捕された今村磨人容疑者も一時加入して、詐欺の手口を習得したようです」

また、黒幕として別の人物の存在も浮かび上がっているという。

「フィリピンの闇社会で暗躍する別のYという男も、今回逮捕されたグループとの関与が指摘され、この事件に絡んで日本国内の関係先が家宅捜索されたという情報もあります。

彼らがフィリピンで日本に移送される際は、防弾チョッキを着込んで周囲を警察官らが囲む物々しい警備でしたが、こうした黒幕による口封じ襲撃を防ぐためだったとされています」

■フィリピンからベトナム、カンボジアへ...

今回の広域強盗事件を足掛かりに、フィリピンでの半グレの実態解明が期待されるが、前出の捜査関係者の見通しは暗い。

「フィリピンにいた半グレたちは、今度の事件で取り締まりが厳しくなるのを恐れて、周辺のベトナムやカンボジアに流れたようだ。こういった国だと、日本の警察とのパイプはより希薄になるので捕捉がより難しくなる」

組織を持たず、転々と居所を変えて犯罪を繰り返す半グレ集団。その生態は、自由気ままな南国の風土とあいまって、より凶悪度を高める可能性があるのだ。

●大木健一 
全国紙記者、ネットメディア編集者を経て独立。「事件は1課より2課」が口癖で、経済事件や金融ネタに強い