ドラッグストア1店舗当たりのマスク売り上げ点数。直近の1年と、その前の1年を比較した折れ線グラフ。昨年末まではつかず離れずだが、今年の年明け以降は明らかにマスクの売り上げが下がっているドラッグストア1店舗当たりのマスク売り上げ点数。直近の1年と、その前の1年を比較した折れ線グラフ。昨年末まではつかず離れずだが、今年の年明け以降は明らかにマスクの売り上げが下がっている
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「脱マスク」について。

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「脱マスク解禁」だったはずの3月13日からの週も、私はいつも通り毎日、本業のコンサルティングで各企業をまわった。一社を除き、マスク着用は本社の総務部門からの指導で実質上強制だった。大半の意見は「ま、これが日本人というやつですね。わっはっは」とのことだった。

また、この一週間でテレビのロケが二回あった。スタッフの方と議論したが、"見え方"の問題とのことで結局はマスクをしたまま実施した。

無症状の感染者がどれだけいて、マスクを外したらどれだけ感染が広がるリスクがあり、それを許容できるのか、といった科学的な議論ではない。マスクをしても、感染するリスクも感染させるリスクも完全には消えないのだから、本来はリスクと"見え方"などメリットを天秤(てんびん)にかけて判断するべきだ。

ただ、批判はできない。メディアは常に視聴者の潜在的な欲求を表現するだけだからだ。「ロケ中の画面内で、近接する人同士はマスクをしてほしい」と思う視聴者が多ければ、制作者は演者にマスクをつけさせるように動く。

私は昨年12月に韓国へ出張に行ったが、日本以上にマスクを着用し、世間の目が厳しい様子は印象的だった。

地下鉄でマスクを外して会話していた若者を年長者が怒鳴りつけていた。年長者はマスクをしていたが、あれだけ大声で叫べば飛沫(ひまつ)は相当飛んでいると思う。いっぽうで飲み屋では客がマスクを外してどんちゃん騒ぎしていた。結局はすべてが世間体。儒教文化の根は深い。

とはいえまったく状況が変わらないわけではない。さすがにマスクに"飽きた"人たちがいる。POSデータを使って全国のドラッグストアの「1店舗当たりマスク売り上げ点数(月次)」を調べたのが上のグラフだ。

2021年3月~と22年3月~を比較すると、これまではほとんど変わらなかったが、やっと23年1月、2月で違いが出て、売り上げが減ってきた。前年比でおおよそ2~3割減。この比率は街行く人びとを見て、昨年と比べてマスクをしていない人の直感的な増加幅と同程度ではないだろうか。

この2~3割減という数字。ちょっとひねくれた感想かもしれないが、同調圧力が蔓延(まんえん)する日本人にしては上出来ではないだろうか。かなり減ったという評価もできる。しかもまだ表面上は、感染症法上の2類。つまり結核等と同じだ。5類に格下げされる5月にはもっと減るだろうし、暑くなればさらに減る。

マスクを社員に強制させていないある企業の執行役員は「各社員にマスクの必要性を自発的に考えてほしいので、あえて私はマスクを外して接している」と話していた。このように意識が変わった人もいる。

現在、マスクをつけている日本人を直感的に分類すれば(もちろん実際の意識は複数の要素が混ざり合っているとは思うが)、「花粉症だから:20%」「顔を見せたくないから:20%」「インフルエンザや新型コロナの予防:20%」「世間体:40%」という感じだろう。

メディアではコメンテーターが「それぞれの判断に任されるべきだ」と言っている。次は職場のルールがどう変化するかだろう。大企業や官公庁の会議なんてマスクを外していいと私は思うけどね。ほとんど何も話さず座っているだけの人ばかり。あ、あくびがバレないからマスクがいいのか。

●坂口孝則(Takanori SAKAGUCHI) 
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。『営業と詐欺のあいだ』など著書多数。最新刊『調達・購買の教科書 第2版』(日刊工業新聞社)が発売中!

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