全国の警察では、特殊詐欺についての周知啓発を盛んに行なっているが、被害は根絶とは程遠い状況だ全国の警察では、特殊詐欺についての周知啓発を盛んに行なっているが、被害は根絶とは程遠い状況だ
警視庁は4月11日、カンボジアを拠点に行なわれていた特殊詐欺に関わったとみられる日本人の男ら19人を日本へ移送し、詐欺の疑いで逮捕した。男らは今年1月下旬、都内の60代の女性にメッセージを送り、「有料サイトの未払い料金がある」などと騙し、電子マネー「ビットキャッシュ」およそ25万円分を詐取した疑いがもたれている。

昨年末からの広域強盗事件の犯行グループも、もともとは特殊詐欺を行なっていたとされている。われわれは電話やメールで忍び寄る詐欺や強盗の魔の手からどう身を守るべきなのか。

警察庁が発表した、2022年の特殊詐欺の状況は、警察が把握したものだけでも、被害額は前年比約80億円増の約361億円ととんでもない数字になっており、しかも増加したのは8年ぶりだという。

認知件数も、1万7千件超と前年比で20%増えている。またTwitterなどで犯罪の実行役を募集する"闇バイト"も後をたたず、政府は3月17日に緊急対策プランを策定した。

警察庁によると、いわゆる「オレオレ型特殊詐欺」の犯行で最初に使われるツールは99%が電話だという。誰もが持つようになったスマホ。「まさか自分が」と気を抜かず、あらためて電話にまつわる安全について考える必要がありそうだ。

迷惑電話や迷惑SMSを防止するサービスを展開するトビラシステムズの広報・岩渕るみ氏はこう語る。

「特殊詐欺は年々巧妙になっていて、最近では"アポ電"が激増しています。"アポ電"とは、架空の話や偽りの情報を用いて電話をかけてきて、個人情報や家族構成、資産情報を聞き出す、いわば詐欺の下準備のようなものです。

相手はあの手この手で質問してきますが、うっかり資産の保管場所や、家にいる時間帯を答えてしまうと、"今なら強盗に入れます"と言っているようなもの。不用意に情報を漏らしてしまうと非常に危険なんです」

実際に国民生活センターには、テレビの制作会社を名乗る人から電話が入り、アンケートかのように「所得は500万より上ですか」などの質問があったという話や、消防署の職員と名乗る人から「災害時にすぐに救助できるように、一人暮らしか確認をしている」と電話が入り、咄嗟に「はい」と答えてしまったという声が寄せられている。

家族を装ういわゆる「オレオレ詐欺」には、さすがに引っかかるわけがないと思っている人も、このような巧妙な電話には思わず答えてしまうこともあるのではないだろうか。

■かたちを変える特殊詐欺の手口

実際に起こった、最近の特殊詐欺についても聞いてみた。

「ここ数年で多発しているひとつの手法が、パソコンの"サポート詐欺"ですね。インターネットであるリンクを開いてしまうと、急に画面に"PCに異常が現れたので、以下のサポートセンターに電話してください"という警告が表示されるんです。

もちろん実際に異常はなく、そのページを閉じれば何も問題はありません。ですが、大音量で警告音が鳴るなど細工が施されていることもあり、開いた人はパニックになってしまうことも......。

ページにはサポート先として電話番号が記載してあり、電話を掛けてしまう人が多発しています。コールセンターに繋がると、たいていはニセの"遠隔サポート"を施されます。本来異常はないので、"したふり"ですね。そしてサポート費用を請求されてしまうのです」(岩渕氏)

警視庁が公開している、サポート詐欺の罠として仕掛けられたニセの警告画面警視庁が公開している、サポート詐欺の罠として仕掛けられたニセの警告画面
冷静に対処すれば、なんてことはない話なのだが、警告が表示されると「下手にパソコンを触ってはいけない」という気持ちにもなり得るだろう。もしかすると騙されたことには気付かず、サポートしてもらったと満足している被害者もいるかもしれない。

「他には"有料老人ホーム当選詐欺"も増えています。有料老人ホーム入居権当選の電話がかかってきて、"すぐに入居予定がないなら権利を他の人に譲るから、名義を貸して"と言われるのです。

親切心でうっかり承諾してしまうと、弁護士や金融庁を名乗る別の人物から「名義貸しは犯罪だ」「解決金を払わないと逮捕される」と脅され、何千万円もの金を騙し取られるケースもありました」(岩渕氏)

老人ホームの入居は争奪戦だ。自分は入居の予定が無くても、入居できずに困っている人がいると思うと、親切心からつい「いいですよ」と答えてしまうかもしれない。

そう、この手口はまさに「人助けになるなら」「必要な人に譲ってあげたい」という被害者の良心を悪用した詐欺手口である。

ちなみに警察庁のアンケートでは、特殊詐欺被害にあった人の95%が"自分は被害に合わないと思っていた"と回答している。誰もが「自分だけは大丈夫」と考えているのだ。また、詐欺被害に合うのは高齢者だから自分は大丈夫という考えも危険だと岩渕さんは指摘する。

「確かに被害者の多くは高齢者です。ですが実は、融資保証金詐欺の被害者の44%が20~30代であったりと、若い世代も想像以上に被害にあっているんです。

当社で実際に特殊詐欺電話を調査したことがあるのですが、相手(犯人)は、物腰柔らかで、親切ないい人に感じられるような話しぶりでした。人によっては思わず答えてしまう気持ちもわかります」(岩渕氏)

■「知らない番号に出ない」が大原則

詐欺師たちは、あの手この手で私たちを狙っている。ではこれらの"アポ電"や、特殊詐欺にあわないようにするにはどうすればいいのだろうか。対策も聞いた。

「まず大原則として、知らない番号や非通知の電話にいきなり出ないこと。発信者番号を表示するサービスや留守番電話機能を活用し、そもそも応答しないことが第一歩です。知らない番号は、ネットで検索してみるのもいいでしょう。不審番号として情報が出てくる場合がありますし、予約したお店や通っている病院など、心当たりがあった場合は折り返すことができます。

より安心なのは、各キャリアが提供している迷惑電話対策サービスを利用することです。犯罪や迷惑電話のデータベースに基づき危険な電話が自動的にブロックされます。主要な携帯キャリアには、迷惑電話をブロックするアプリもあります。固定電話に取り付ける機器もあるので、離れて暮らす親や家族のために設置を検討してもいいですね」(岩渕氏)

確かに自分だけでなく、スマホの扱いに慣れない親や祖父母の対策も万全にしておきたい。一人暮らしの場合は特に要注意だ。「話し相手がいなかった」「親切にしてくれた」などの理由でうっかり詐欺師に気を許してしまう可能性だってある。気付けば実家の資産がなくなっていたなんて洒落にならない状況は、なんとしても避けたい。

「いくら知識や意識を持っていても、詐欺師たちも日々手口を変えていきます。また、ブロックしても新しい電話番号もどんどん出てくるでしょう。完全に防止はできないと心がけ、危険を感じた時は一人で判断せず家族や公共機関に相談してください。警察相談専用窓口(#9110)や消費者ホットライン(188)など、相談窓口はたくさんあります」(岩渕氏)

4月から新たな環境で新生活を始める人も多いだろう。犯罪は思ったよりも身近に存在している。慣れない暮らしの中で、自分や家族が犯罪に合わないように、しっかりと防止していきたいものだ。