警察庁によると、2022年に全国で発生した特殊詐欺の被害額は前年比28.2%増の361.4億円(暫定値)にのぼり、8年ぶりの増加となった。特殊詐欺事件の増加は日本だけでなく世界的な問題だが、海外では新たな兆候が見られるという。
「お使いのパソコンはウイルスに感染しています」
パソコン画面に突然現れたポップアップと、けたたましく鳴り響くビープ音。同時に「データの破損と流出を防ぐには今すぐ下記の番号にご連絡ください」と畳み掛けてくるが、これに応じてはいけない。これらはすべて偽警告であり、その番号に電話して繋がる相手は、手数料として金銭を騙し取るいわゆる「サポート詐欺」を行う犯罪組織だからだ。
さらに大胆な手口では、詐欺側が被害者を口車に乗せて遠隔操作を許可させ、ネットバンキングから数十万円~数百万円を送金させるという事件も起きている。
国民生活センターによると、全国の消費者相談センターに寄せられたサポート詐欺に関する相談は、2018年から2022年まで毎年5000件を超えている。さら手数料として支払ってしまった金額(契約購入金額)の平均も年々高額化している。手数料の支払い方法としては、アマゾンやアップルなどのギフトカード類を含む「プリペイド型電子マネー」を指定されている。
■サポート詐欺の逮捕事例は稀
2022年1月18日には、外国籍の親子と日本国籍の親族の3人が逮捕され、新聞各紙はこの件について「サポート詐欺として初の逮捕」などと報じているが、今のところこれが唯一の逮捕例のようだ。増加傾向にあるにもかかわらず逮捕事例がほとんどないのは、犯行グループの拠点が国外にあるためだ。
サポート詐欺は、日本だけではなく全世界で猛威を振るっている手口で、もともと国際的には英語話者が多いインドなどを犯行の拠点に、アメリカやイギリスなど、同じ英語圏の富裕国を狙ったものが多かった。
3月22日付けのロイターの報道によれば、インド西部のアーメダバードで、国内ほかアメリカやイギリスなどで毎日何百万人もの人々にサポート詐欺を働いていたコールセンターが摘発された。
従業員は税務職員、銀行や保険会社の職員、技術サポートなどを装っていたという。インド警察は近年、同様のコールセンター数百件を家宅捜索し、数千人を詐欺罪で検挙している。
また、FBIによると昨年、インド拠点のコールセンターが騙し取った金額は、アメリカ人の被害だけで100億ドル以上にのぼるという。
発展途上国にいながら先進国の人々を騙すことで、現地の平均月収の何倍もの報酬を得ることができるため、サポート詐欺に加担する者は後を経たない。前出の記事によれば、サポート詐欺に関わって逮捕された者たちのほぼ全員が18~25歳の高卒者か大卒者だったという。また、インドの失業率の高さも背景として指摘されている。
一方で、富裕国に住む被害者にとっては、数百ドル~数千ドル程度という被害額は、致命的な規模とはいえず、被害届を出さない人も多いとされている。ただ、サポート詐欺が大きな問題となって数年が経つ欧米各国では、警戒心も高まってきていて、犯人らかすれば騙しにくくなってきているようだ。
近年、彼ら国際サポート詐欺組織のターゲットに日本人が加えられるようになったのにも、そんな事情があるのかもしれない。事実、SNSなどを見ると、サポート詐欺のコールセンターに電話してしまった人たちからは、オペーレーターの日本語は外国人なまりだったという報告が多数上がっている。
■他人の音声をAI生成したオレオレ詐欺
そしてもうひとつ、世界の特殊詐欺の最近の傾向として挙げられるのがハイテク化だ。3月5日付の米ワシントンポスト電子版は、人工知能の進歩が、いわゆる「オレオレ詐欺」のような電話によるなりすまし詐欺を容易にしていると伝えている。
ネット上には「AI音声生成サービス」がいくつも存在し、これらを悪用することで詐欺集団は他人の音声で任意の内容を話させることが可能だという。料金は無料のものから月額330ドル程度まで幅広く、高額になればなるほどより長い音声を再現することができるようだ。
詐欺集団はこうして再現した他人の音声を使って、クローン元の人物の肉親などに電話をかけ、オレオレ詐欺の要領で金銭を騙し取るのだ。
2020年には米国内で、電話によるなりすまし詐欺が5100件も発生しており、1,100万ドル以上の被害があったという。このうち何割でボイスクローニングが悪用されていたかは明らかにされていないが、被害を助長させる一因となっていることは想像に難くない。
また同記事では、動画投稿サイトやSNSの普及もAI音声生成を使った特殊詐欺と深い関連があるとも指摘している。TikTokやYouTube、Facebookなどに投稿された動画が、詐欺集団らによる音声データ取得に利用されているというのだ。
この記事では「1、2年前までは、人の音声を再現するには膨大な音声データが必要だったが、今は30秒ほどの音声データがあれば、音声をクローン化できる」という専門家のコメントも紹介している。ボイスクローニングを用いた特殊詐欺はまだ日本では大きな問題となってはいないが、上陸は時間の問題と思われる。
特殊詐欺の国際組織化と手口のハイテク化に、警察などによる早急な対策と国民の心構えが求められる。