生活に必要な各種公共サービスさえも「反社条項」に阻まれて利用できない暴力団関係者。社会からの徹底的な爪弾きが犯罪抑止にもたらすのは正の効果だけなのだろうか?生活に必要な各種公共サービスさえも「反社条項」に阻まれて利用できない暴力団関係者。社会からの徹底的な爪弾きが犯罪抑止にもたらすのは正の効果だけなのだろうか?
ホテル宿泊、携帯電話の契約、レンタカーの利用。一般人にとって日常的な行為でも、ヤクザとなると契約書などの約款に記載された「反社条項」を盾に検挙されてしまう。さらに今月に入り、業界関係者を「これもアウト?」と騒然とさせる事態が起きた。

ペナントレース開幕から間もないプロ野球の観戦を巡って事件が発生したのだ。全国紙大阪社会部のデスクが解説する。

「甲子園球場で開催された阪神戦を、大阪を拠点とする暴力団組織の最高幹部が観戦したとして建造物侵入の容疑で逮捕されたのです。

甲子園球場では他のスタジアムと同様に入場ゲートに『暴力団関係者の入場お断り』という注意書きが記載されており、これに反して入場したというのが逮捕の理由です。プライベートでの来場だったようですが、ヤクザだったら野球を観戦してもパクられるのかと驚きました」

反社であることを隠したことで、暴力団員やその関係者が逮捕される事例は枚挙にいとまがない。

4月には、反社条項を掲げる都内の自動車販売店で、指定暴力団の幹部の男が娘の名義で売買契約を結んだため、警視庁が男と娘を詐欺罪で逮捕している。

また昨年11月には、やはり反社条項を掲げる浜松市内のアパートの大家に対し、暴力団関係者であることを隠して賃貸借契約を締結し、不正に賃借権を取得した詐欺罪の疑いで、静岡県警が暴力団組員とその関係者を逮捕している。

■「暴力団お断り」の絶対的効力

「野球とヤクザ」に話を戻そう。

阪神を巡っては、過去に存在していた中虎(ちゅうとら)連合会という私設応援団の主要メンバーが山口組系組員で、スタンド内で幅を利かせていた。しかし2000年代に入り、球場関係者への恐喝や脅迫事件を起こして、甲子園球場への立ち入り禁止処分を球団側から言い渡され、最終的に解散した。

こうした経緯から暴力団の入場には敏感になっているとみられるが、長年の阪神ファンだという男性は憮然と打ち明ける。

「暴力団関係者とみられる人たちが、今でも普通に威圧的なムードを漂わせながら観戦しています。今回の事件は氷山の一角。間違った応援コールをしたヤツを、応援団が裏に引きずり込んでボコボコにするなんて話は最近も聞きます。

そもそも、中虎連合会は80年代に山口組と一和会が分裂抗争を起こした際に、山口組が個別の応援団を一まとめにして牛耳るかたちで発足したと聞きます。球団としても、甲子園で抗争事件が起きては困るので、山口組の肩を持つ形で黙認したそうです。だから、なかなか関係を断ちにくいんですよ」

阪神と暴力団との因縁はさておき、ヤクザが野球を観戦したら逮捕されるという前例となった今回の事件。暴力団関係者は一様に肩を落とす。

「レンタカーやスマホのように契約書を交わして、反社条項に引っかかったから逮捕というのは、納得はできないけれどまだ多少は言い分を理解できるよ。でも、今回は入り口の注意書きでしょ。その程度の張り紙は、パチンコ屋や銭湯、飲み屋なんかにも貼ってあるよ。

そういうところからも締め出されるか、入ったら逮捕の口実にされるってことだからね。ヤクザはどこで遊べというのか」(関東地方の指定暴力団幹部)

■身分を明かしての契約もアウト

反社条項がなくても逮捕された事件もある。大阪府警は3月、親族名義のETCカードを使って高速道路を走行して不当に割引を受けたとして、電子計算機使用詐欺の容疑で山口組の直系組長3人を逮捕した。また、愛知県警も同月、スーパーでポイントカードを作ったとして、山口組2次団体の幹部を詐欺容疑で逮捕している。

「ETCカードの事件は、クレジット機能のないデポジット型のカードで申し込みした際には反社条項はなかった。しかも、直系組長はETCカードを作る際に、カード会社に身分を明かして契約が可能かどうかを事前に尋ねているらしいんだよ。

それでも、暴力団関係者であることを隠してETCカードを作ったということで警察は逮捕するんだから、嫌キチ(嫌がらせの逮捕)だよ。おれたちの携帯電話の通信履歴などを調べたいから、テキトーな口実で逮捕するんだよ」(前出暴力団幹部)

現金での支払いができないETC専用の出入り口も増えている高速道路。暴力団関係者にとっては自動車での長距離移動も難しくなりつつある現金での支払いができないETC専用の出入り口も増えている高速道路。暴力団関係者にとっては自動車での長距離移動も難しくなりつつある
高速道路は今後、ETC払い専用となるとも言われており、道にはぐれたヤクザたちは高速道路も走れなくなることにもなりかねない。ちなみに反社条項においては、暴力団をやめて5年間未満の元組員は現役組員と同等と見なされるケースも多く、組を抜けたからと言ってすぐに日向を歩けるようになるわけではないのだ。

自業自得と言えばそれまでだが、社会から徹底的に爪弾きにされる彼らが、さらに凶悪な犯罪に手をそめる可能性も否定できない。

●大木健一 
全国紙記者、ネットメディア編集者を経て独立。「事件は1課より2課」が口癖で、経済事件や金融ネタに強い