5月8日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが、「2類相当」から季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行された。もちろん、分類が変わったからといって、ウイルスの病原性が変化するわけではないし、コロナが消えてなくなるわけでもない。
では、なぜ5類移行なのか? マスクの着用をはじめ、さまざまな感染対策が個人の判断に委ねられることになる今、押さえておくべきポイントは? 気になるコロナの「4つの疑問」に4人の専門家が答える第1回は、公衆衛生学者の小坂 健(おさか・けん)東北大学大学院教授にお話を伺った。
* * *
■社会の分断が解消されてほしい
「5類」への移行は、コロナに対する人々の「恐怖心」が下がったことに合わせた、感染対策と社会の仕組みの見直しだと考えていいでしょう。
コロナは約3年前の感染拡大当初からしばらくは、怖い病気でした。検査で陽性になれば自宅やホテルでの療養を余儀なくされ、緊急事態宣言による行動制限では大型施設や飲食店への休業要請も行なわれた。それがさまざまな形で社会の分断を招きました。
その後、有効なワクチンと治療薬が開発され、後遺症の問題はありますが、多くの人にとって、コロナはそれほど「怖い病気」ではなくなりました。
そして5類に移行すると、これまで取られてきた感染対策は廃止もしくは大幅に緩和され、個人の判断に委ねられることになります。
例えばコロナに感染した場合は、ほかの人に感染させる可能性が高い「発症の翌日から5日間は外出を控えましょう」という目安が示され、「濃厚接触者」の外出自粛は求められなくなります。職場や学校での具体的な対応は、それぞれが判断することになります。
それに海外渡航の際の陰性証明書も不要になりますし、コロナは日常生活において同じ5類の季節性インフルエンザと変わらなくなります。
繰り返しになりますが、今後は要請や義務ではなく、個々の判断が尊重されることになるので、それによってコロナ禍で広がった社会の分断が解消されてほしいですし、基本的な感染対策に気をつけながら、日常生活を楽しむという雰囲気が取り戻せるのはいいことだと思います。
■高リスクの人をどう守るかが課題
それから、コロナがインフルエンザと同じ5類になるということは、医療体制や医療費についても、インフルエンザと同じ「普通の感染症」として扱う体制へと移行していくことを意味します。
そのため、将来的にはどこの医療機関でも診てもらえるようにする方向ですが、当面、政府は外来に対応する医療機関を、現在の4万2000ヵ所から最大で6万4000ヵ所に拡大するとしています。
また治療薬や入院などにかかる医療費は自己負担となりますが、急激な負担増を避けるために一定期間は公費の支援が継続されることになっています。インフルエンザと同じ程度の負担だと思ってください。
その一方で、5類移行に伴い感染者の全数把握をやめて「定点把握」に代わることで感染の実態がわかりづらくなるのは少し心配な点です。
今後は全国約5000の指定医療機関で定点把握を行ない、そのデータから感染状況を推測することになりますが、従来のように今何万人が感染していてどのくらいの人が亡くなったのか、というのがリアルタイムにはわからなくなる。
そうした状況で、今後、新たに感染が拡大した場合に高齢者や基礎疾患のある高リスクの人たちをどう守っていくのかというのは、重要な課題になると思います。
★新たな変異株による「第9波」は来る? 新型コロナ「5類」移行の今だから知りたい"4つの疑問"【第2回】
●小坂 健(おさか・けん)
東北大学大学院教授。厚生労働省のクラスター対策班、東京iCDCアドバイザリーボードのメンバーを務めるなど、感染拡大当初から新型コロナ対策に従事する