伝播力の強いオミクロン株が出現して以降、感染拡大の波は第6波、第7波、第8波と大きくなっていった。第9波はどうなる?伝播力の強いオミクロン株が出現して以降、感染拡大の波は第6波、第7波、第8波と大きくなっていった。第9波はどうなる?

5類に移行したとしても、新型コロナウイルスが消えない限り、やはり「第9波」は来るのか......? ウイルス学者で東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤 佳教授が、現時点での見方と変異株の研究を続けることの意義について語る。【新型コロナ「5類」移行の今だから知りたい"4つの疑問"②

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■必ずしも次の「波」が来るとは限らない

「第8波」が収束した今も、ウイルスの変異は続いています。この半年余りで最も注目すべきなのは、「XBB」系統の変異株の出現と、その入れ替わりが世界各地で急速に進んでいることです。

オミクロン株のBA.2系統の2種類が組み合わさって生まれた「組み換え体」と呼ばれるXBBは、従来のオミクロン株よりも免疫をすり抜ける力が強いのが特徴です。すでに昨年末からアメリカなどではXBB.1.5が急拡大していました。その後も、さらに変異したXBB.1.9.1がヨーロッパを中心に、XBB.1.16がインドで拡大している状況です。

日本もここにきて、XBB系統への入れ替わりが急速に進んでいると考えられます。東京都が4月末に公表したゲノム解析結果を見ると、この数週間でXBB系統の割合がどんどん上昇し、感染者の実に7割以上を占めます。

ではこの先、「第9波」は来るのか? 確かに日本は今、感染者が増えつつあります。ただ、新たな変異株が出てきたからといって、必ずしも次の「波」が来るとは限りません。

大規模な感染の波が来るかは、その国や社会の免疫の状態に左右されます。また、これだけウイルスの変異が多様化した中で、感染を経験した人の数や回数、感染拡大を引き起こした変異株の種類、ワクチンの接種状況、それらによる免疫が持続している期間などがバラバラだと、変異株が社会に与える影響も大きく変わってしまうからです。

ハムスターの実験結果を見る限り、XBB系統のウイルスの病原性は従来のオミクロン株と大きく変わりませんが、日本社会の中にコロナの免疫を持つ人が増えた今、ウイルスの相対的な病原性は下がっているといえます。

■5類移行後も変異株の研究を継続すべき理由

このままコロナは収束していくのが誰もが待ち望んでいるシナリオだと思いますが、どうなるかはまだわかりません。

ただ、確実にいえるのは、コロナの変異はこれからもずっと続くということです。そしてこの先、ウイルスがどんな進化を遂げるのかは、誰にも予想できません。

その意味では、今後もウイルスにどんな変異が起きているのか、それに対してワクチンや治療薬の効果はどうなのかといったことを把握しておく必要がありますし、近い将来、新たな変異株に対応した新しいワクチンや治療薬の開発が必要になる可能性もあると思います。

だからこそ、このウイルスの変異やその特性の変化を追い続ける基礎研究が絶対に欠かせません。コロナが5類移行で普通の感染症になった後も、そうした研究体制の継続が大切だと思います。

★「免疫」はコロナを乗り越えた? 新型コロナ「5類」移行の今だから知りたい"4つの疑問"【第3回】

●佐藤 佳(さとう・けい) 
東京大学医科学研究所 システムウイルス学分野教授。研究コンソーシアム「G2P-Japan」を主宰し、新型コロナに関する研究成果が世界トップの学術誌に次々と掲載。変異株の解明に力を注ぐ