「感染+ワクチン接種」で得られるハイブリッド免疫は、感染予防にも重症化予防にも高い効果がある 「感染+ワクチン接種」で得られるハイブリッド免疫は、感染予防にも重症化予防にも高い効果がある

約7割の国民がワクチンの3回目接種を行ない、新型コロナの感染を経験した人が約4割に上っている日本。ワクチン接種や実際の感染で、新型コロナに対するわれわれの「免疫」はどのような状態にあるのか?

新型コロナに関する正しい理解のために、ファクトに基づいた最新情報を発信してきた免疫学者、大阪大学の宮坂昌之名誉教授に聞いた。【新型コロナ「5類」移行の今だから知りたい"4つの疑問"③

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■高い予防効果がある「感染+ワクチン接種」

日本の感染状況は落ち着いているように見えますが、4月末から感染者数が増加に転じ始めています。ただ、増え方は急激ではありませんし、入院患者・重症者の増加で医療体制が逼迫するような事態には至っていません。

これはウイルスの変異と、ワクチン接種やコロナ感染がもたらした免疫によって、コロナの病原性が下がってきたからだと考えられます。

それを示すデータがあります。沖縄県立中部病院の高山義浩先生の調査でコロナ感染者の年代別の致死率を見ると、2020年には80代で13.7%、90代では25.3%と非常に高かったのが、21年にはそれぞれ9.3%と16.6%に下がり、22年にはさらに1%と2.4%へと大きく下がっています。この傾向は40代から70代でも共通で、いずれも年を追うごとに致死率が大きく低下しています。

それにはワクチンの接種が大きく関係しています。同じ調査で接種回数別の致死率を見ると一目瞭然です。60歳以上の年齢層では、未接種者および1回接種の人の致死率が最も高く、接種回数が2回、3回と増えるに従って致死率が大きく下がっています。

もうひとつ、興味深いデータがあります。カナダの研究グループが「ワクチン接種」「感染のみ」「感染+ワクチン接種」の3つに分けて、オミクロン株に対する感染予防効果と、入院・重症化予防効果を比較したものです。

それによると、どちらの予防効果も「感染+ワクチン」のハイブリッド免疫が高い効果を示していますが、「感染のみ」でも入院・重症化予防効果ではワクチン2回接種とほぼ同等の効果が得られ、感染予防効果では「ワクチン接種」を上回る効果と持続性が示されているのです。

■社会全体へのメリットを考えるなら、年に1回程度のワクチン接種を

では、ワクチン接種と感染による獲得免疫によって、われわれの免疫はコロナを乗り越えたのでしょうか? 残念ながら答えはノーです。

現時点で日本人の約4割がコロナ感染を経験していると推計されていて、その大半はハイブリッド免疫を獲得していますから、今のところ一定の感染予防効果もあり、重症化予防効果に関しては1年以上続くと思われます。

ただし、残りの約6割は未感染ですし、ワクチン接種のみによる感染予防効果が数ヵ月で下がることを考えると、「免疫がウイルスを乗り越えた」とは言い難いでしょう。

今後はワクチン接種の判断も、これまで以上に個人の判断に委ねられるようになると思いますが、社会全体へのメリットを考えるなら、当面は年に1回程度は接種をしたほうがいいというのが、今の私の結論ですね。

★コロナの3年から学ぶべきことは? 新型コロナ「5類」移行の今だから知りたい"4つの疑問"【第4回】

●宮坂昌之(みやさか・まさゆき) 
大阪大学名誉教授。大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授。スイス・バーゼル免疫学研究所、大阪大学大学院医学研究科教授などを歴任。著書やフェイスブックを通じて新型コロナの最新情報を発信