竹聯幇の元幹部で中華統一促進党代表の張安楽竹聯幇の元幹部で中華統一促進党代表の張安楽
5月31日、沖縄の地元紙「琉球新報」が報じたとあるニュースが暴力団関係者や一部マスコミを大いにざわつかせた。

《沖縄の指定暴力団、海外に拠点 台湾「任侠団体」代表に就任》

記事の見出しにはこうある。沖縄唯一の指定暴力団「旭琉會」の幹部が2月、台湾系の在日"任侠団体"のトップの座を継承したと報じたものだ。団体は「華松山(かしょうざん)」を名乗っているというが、いったいどんな組織なのか。

「『華松山』とは数ある『山』のひとつ。たとえば日本の暴力団の場合は、『○○組』『○○会』と名乗る組織がよく見受けられますが、『山』もそうした集団のくくりと同じようなものです。この『山』を名乗る組織は世界各地に点在し、日本で唯一存在していたのが、件(くだん)の『華松山』だったというわけです」(暴力団事情に詳しいメディア関係者)

■「任侠団体」の背後で蠢(うごめ)く巨大組織

その「華松山」なる組織を前出の旭琉會幹部が継承した、というわけである。さらに、記事は、この組織の「上部組織」に位置づけられる「洪門(ほんめん)」とよばれる結社の存在も明かしている。

「洪門は、博愛主義的な教えが特長の墨子の思想を受け継ぐ結社で、中国では、清代に勃興した秘密結社の『青幇(ちんぱん)』と並ぶ世界規模の団体だと言います。

関東地方に住んでいたある人物が華松山の代表を務めていたそうですが、今回、その代表の座を旭琉會の傘下団体の幹部に譲ることになったそうです。2月には沖縄県内で継承式も行なわれ、洪門の関係者が列席したことも当局に確認されています」(同)

「任侠団体」を標榜するように、犯罪などの反社会的な活動からは一線を引いている様子がうかがえるが、事態を複雑にしているのは、記事にもあった「継承式」にも参加した、もうひとつの組織とのつながりである。

「組織の名前は『竹聯幇(ちくれんほう)』。台湾、さらには同じ中華圏の中国でも悪名をはせる台湾マフィアです。華松山とつながりのある洪門のメンバーには、この竹聯幇と活発に交流する者も複数いる。今回の件をきっかけに、旭琉會と竹聯幇がさらに関係を密にする可能性もあるだけに警察当局も今後の展開を注視している状況です」(前出のジャーナリスト)

件の竹聯幇については、警察庁が公開している年度ごとの治安状況をまとめた「警察白書」では、「台湾人犯罪組織」としてもうひとつの組織「四海幇」とともに、〈台湾内で公共工事の談合、用心棒料の徴収等、社会経済に影響力を行使して様々な資金獲得を図っている〉などと紹介されている。ある沖縄県警の関係者はこう明かす。

「日本でいう暴力団とほぼ同義の『幇』と呼ばれる組織のひとつだ。台湾では、ほかに『天道盟』という組織も知られており、竹聯幇、四海幇とともに『三大黒社会組織』と言われている」

■台湾学生運動を鎮圧した親中派

捜査当局が動向を把握するなど、日本国内でも裏社会ではよく知られた存在だったが、表社会でもその名が取り沙汰されたことがある。

2014年、当時の政権トップが中国との間で交わした市場開放を目指す協定に異を唱える学生らが起こした「ひまわり学生運動」で、学生と対立する「親中派」勢力として暗躍したのが「白狼」の異名で知られるある組織の元幹部だった。

「張安楽という人物で、中華統一促進党という政治団体を率いる立場だった。その名の通り、中国と台湾の統一を目指すことを目的とする政治団体を率いる一方で、竹聯幇の大幹部の顔も持っていた」(前出の県警関係者)

学生らが立法院(台湾の国会議事堂)を占拠するまでに拡大した抗議活動の鎮圧に一役買った張氏だが、「『竹聯幇』の幹部として犯した罪で台湾の治安当局に追われて大陸に渡った際に、中国当局との関係を築いた」(同)とされる。

2014年に台湾で巻き起こったひまわり学生運動の際には、学生から台湾立法院を奪還すると宣言した張。張が動員したとされる数百人のマフィア関係者を含む約1000人の群衆が、立法院を占拠する学生らと対峙した(ひまわり学生運動ホームページより)2014年に台湾で巻き起こったひまわり学生運動の際には、学生から台湾立法院を奪還すると宣言した張。張が動員したとされる数百人のマフィア関係者を含む約1000人の群衆が、立法院を占拠する学生らと対峙した(ひまわり学生運動ホームページより)
実は、地理的にも台湾に近い沖縄にも、かねてから「竹聯幇」の影響力は及んでいたという。

前出のメディア関係者は「旭琉會とは以前から定期的に会合を開くなど、組織同士の結びつきは強い。竹聯幇とパイプがある台湾系企業が沖縄県内に進出したケースもあるようで、経済面での連携も増えてきているようです」と内情を明かす。

「琉球新報」は昨年5月、「台湾と中国の関係悪化に伴い、警察庁警備当局が沖縄県内の指定暴力団・旭琉会と台湾マフィアの動向を注視している」とも報じている。同記事では、2015年10月に張氏が組織の元幹部として、当時の旭琉會会長と面談したことや18年1月にも、張氏の息子が沖縄に渡り旭琉會幹部と接触した、も伝えている。

■旭琉會トップの後継人事に影響も?

両組織は、長年にわたって密な関係を築いてきたというわけだが、捜査当局がその動向を注視するのには、地元組織が抱える問題への波及を懸念している側面もあるようだ。

「旭琉會は2019年に当時の会長が亡くなってからトップ不在の状況が続いている。これまで、傘下団体と竹聯幇との関係の濃淡が執行部の人事に影響することもあっただけに、両組織が接触すれば組織再編など大きな動きにつながる可能性が高い。そうしたこともあって、警察当局も両組織が接触する機会には特に目を光らせている」(前出の県警関係者)

米中対立の最前線に立たされる沖縄で「台湾有事」への懸念が強まるなか、沖縄と台湾を巡る、もうひとつの「有事」への警戒感も高まりつつある。

●安藤海南男(あんどう・かなお) 
ジャーナリスト。大手新聞社に入社後、地方支局での勤務を経て、在京社会部記者として活躍。退社後は警察組織の裏側を精力的に取材している。沖縄復帰前後の「コザ」の売春地帯で生きた5人の女性の生き様を描いた電子書籍「パラダイス」(ミリオン出版/大洋図書)も発売中