日本の電動キックボード業界でいったい何が起こっているのか?日本の電動キックボード業界でいったい何が起こっているのか?

最近、町で見かけることも多くなった電動キックボード。7月からはヘルメットや免許が必須ではなくなるなど、規制緩和が行なわれ、さらなる普及も想定されている。一方で、事故の増加を心配する声も? そんな日本の電動キックボード業界でいったい何が起こっているのかを、専門家に聞いてきました!

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■今回の改正法はキケンだらけ!?

町を走る姿を見ることも増えた電動キックボード。7月1日に改正道路交通法が施行されることで、運用ルールも大きく変化するという!

改正道路交通法について、自動車ジャーナリストの桃田健史氏はこう解説する。

「現在、電動キックボードは、大きく2種類に分けられています。公道で走れるものと、走れないもの。公道で走れないものは私有地専用であり、実用性が低いという意味で言ってしまえば〝ホビー用品キックボード〟(以下、ホビー用品)ですよね。

そこから、ナンバープレートをつけるなど、公道を走る条件を満たした場合は〝原動機付自転車〟(以下、原付)として、交通ルールが適用されているのが現状です。

それらに加えて、7月からは〝特定小型原動機付自転車〟(以下、特定原付)という新たな車両区分が生まれます。これは、原付の中でも最高速度が時速20キロ以下の機体が該当します。

車両のサイズなど、その他の規定もありますが、現在、公道を走っている電動キックボードをベースに、保安基準等の条件に沿った調整をすれば、特定原付に該当すると思われます」

この〝特定原付〟には、どのようなルールが適用されるのか、桃田氏は続ける。

「特定原付は16歳以上であれば免許不要、ヘルメットは努力義務で乗れるようになります。要するに、自転車と同じぐらいの扱いになるんです。一部を除き、電動キックボードで公道を走るには、免許・ヘルメットが必須だったことを考えると大きな変化です。

それから、機体の最高速度を時速6キロに制限できる機能がある場合、一部の歩道を走行できるようになります」

しかし、このような改正道路交通法について、事故増加のリスクを指摘する声もある。電動キックボードの開発などを行なう、フヂイエンヂニアリング株式会社の藤井充社長はこう語る。

「7月の改正法施行はかなり性急な印象を受けました。もちろん、電動キックボードは素晴らしい乗り物です。今、移動手段というと、自転車やスクーター、オートバイがあって、その上に自動車があります。

徒歩とオートバイの間に、自転車よりも小さくて可搬性が高いのに、電動で時速20キロぐらいは軽く出せる、新しい選択肢が生まれるっていうのは魅力的ですよね。

一方で日本の道路では、この新しい乗り物に、まだ対応できないという問題もあります。ただでさえ狭い日本の道路に、乗り物が増えるんです。

しかも、車道と歩道のどちらにも速度が合っていない。みんなが同じスピードで走っていたら事故は起こらないけど、速度差があるとぶつかる可能性は高まりますよね。交通安全上、速度が違う=リスクなんです。

そのため海外では、車道と歩道以外に電動キックボードが走るレーンが存在する場所も多いです。例えば、台湾は車道と原付レーン、歩道が分かれています。日本でも、7月から電動キックボードを自転車に似た扱いにして、数を増やすのであれば、現在の道路状況では、事故が起きてしまう危険性があります。

電動キックボードは、使い方次第ではとても便利で楽しい乗り物ですが、現状だと、使うことはできてもリスクの高い乗り物、という位置づけになってしまっている」

交通安全コンサルタントの上西一美氏も、改正法にはネガティブな意見を述べる。

「今回の改正法は、交通事故のリスクが高まることばかりです。免許を不要にするなんてありえない。無免許の人が原付と同じように車道を走れてしまう。しかも、ヘルメットなしで。

運転免許のない方は、交通ルールをよく知らないことも多く、車の立場からものを考えることができない。無理な進路変更や脇道からの急な飛び出しなどは、平気で起こると思います」

■それでもルールを緩めたワケ

このように、専門家らが危険性を指摘しているが、それでも交通事故のリスクを高めるような法改正がなされる背景を桃田氏はこう説明する。

「大きくふたつあります。ひとつは、産業競争力強化法に基づいて、ベンチャー支援をする狙い。基本的にシェアリングのことですね。電動キックボードの流行は、アメリカのシェアリングビジネスから始まっているので、日本もそれに倣う形です。

すでにLUUPなど、シェアリングの電動キックボードは、ヘルメット着用が任意になっています。これも、国がベンチャー支援のために特例で、シェアリングの電動キックボードを〝小型特殊自動車〟の扱いにしているからです。7月に改正法を施行する前の実証実験です。

もうひとつの背景は、インバウンド対応。海外と同じように使ってもらうためです。海外のルールに対して、日本もある程度、同調しなければいけないんですよ」

こうした事情から、今後、電動キックボードは増えていくことが予想される。そこで、トラブルに遭わないためには、既存の交通ルールに加え、電動キックボードの特性の理解も必要だと藤井氏は提言する。

「まず、タイヤが小さいので段差には弱いです。また、立ち乗りなので、重心高が自転車より20㎝ほど高く、車体との接点もハンドルと足裏だけで、乗っている人はつんのめりやすい。

ほかにも、シェアリングは商業的な成功のために、なるべく車体にコストをかけないようにしているからか、ネジが緩んでいるとか、ハンドルがグラつくとかは往々にしてあります。乗車する前に、ブレーキを握った状態で車体を前後させ、整備状態の確認をしておくのがいいでしょう」

続けて、上西氏も7月以降の注意点を教えてくれた。

「乗る側は、進路変更の際など、後方確認を徹底していただきたいです。車道では多くの車に追い抜かされることが想定されるので。

それと、最も注意が必要なのは歩道の走行。時速6キロに制限されるといっても、過去には自転車や、自動車のクリープ現象で人を殺めてしまった事例もあります。特に高齢者は、転倒するときに頭をかばえないことが多いので気をつけなければなりません。

一方、周りの人はとにかくキックボードに乗る人に近寄らないことに尽きます。タクシーやバスの運転手さんに話を聞くと、近寄りたくないとか、もう増えないでくれと嘆いていますよ」

こうした問題は日本だけにとどまらないと桃田氏は語る。

「電動キックボードについては、世界中で議論が重ねられていますが課題は多い。フランスでは、これまでモビリティの各種法律を作り、電動キックボードを普及させてきたけど、今年の8月末でパリ市内のシェアリングは全面禁止に。事故やふたり乗り、違法駐車など、トラブルが多発してしまったんです......」

日本の電動キックボードを取り巻く環境はいったいどうなっていくのか? 注意深く見守っていきたい。

※詳細なルールについては警察庁ホームページなどを参照してください。