六代目山口組による神戸山口組への攻撃が止まらない。7月9日には神戸側の直系組長が率いる組事務所にトラックが突っ込む事件が発生した。まるで昭和の任侠映画のカチコミシーンのようだが、実際のヤクザの世界においても、現実に至るまで後を経たない手口なのだという。
■現場は"初期メン"本部
今回の事件は、7月9日午後5時40分ごろ、神戸市西区の神戸側の直系団体である二代目西脇組の本部事務所で発生した。特定抗争指定によって使用禁止となり無人だった事務所に、何者かが運転するトラックがバックで突入した。在阪全国紙社会部デスクが解説する。
「衝突したトラックは山梨ナンバーで、本部の玄関近くの門柱を擦る程度の被害でした。運転した男は、突入後にトラックを乗り捨てて逃げたようです。西脇組の本部事務所は、特定抗争指定以前に神戸側の定例会が開かれたこともあるほどの要衝なので、兵庫県警は、六代目側による抗争事件とみて調べています」(社会部デスク)
西脇組の組長は、神戸山口組の宮下和美舎弟頭補佐。六代目山口組の直系組長13人が離脱して立ち上がった神戸山口組の発足当初からのメンバーだ。その後の相次ぐ離反で"初期メン"は4人にまで減ってしまったが、宮下組長は神戸側ののれんの下で渡世を続けているとみられていた。ただ、最近は情勢が変わっていたようだ。関西の暴力団事情に詳しいA氏が語る。
「宮下組長は引退を申し出ているんだが、神戸側の井上邦雄組長に強く引き止められて保留の状態が続いているそうだ。この話は当然、六代目側もつかんでいて、今年の4月以降の直系組長の会議でも話題に上がっている。だから、今回の事件は『早く身を引け。だらだらしていると、今度はトラック特攻では済まさんぞ』という警告だろうね。
ちなみに、発足メンバーで今も神戸側にいる他のふたりも引退を申し出ているそうで、今回の事件は彼らに向けたメッセージでもあるわな。そもそも、西脇組は今回の抗争ではこれといった仕事をしていない。あそこが大ごとを起こしたのって、20年近く前に大学院生をさらって、通報を受けたのに警察が放置したせいでリンチ殺人になり、裁判で警察が『職務怠慢』と大目玉を食らった事件ぐらい。
つまり、六代目側としては脅威ではないわけで、宮下組長ら3人を手荒な真似をせずに引退させて、発足メンバーを井上組長だけにしたいんだよ。なかなか引退を決意しない井上組長を孤立無援にするため、外堀を着実に埋めているということだな」(A氏)
■インパクト大で"激安"判決
A氏は、犯行手段からも警告のメッセージが見て取れるという。
「車両特攻は、捕まっても道交法違反や建造物損壊とかで済むからね。昨年、当時はまだ神戸側だった幹部の自宅に車が突っ込んだけど、判決はたったの懲役1年だった。
これが、井上組長の自宅への銃撃事件では10年にはねあがった。刑が"安い"うえに、見た目のインパクトは大きいから仕掛けやすい。西脇組に対して本腰で構えるなら銃撃を食らわすだろうけど、警告だから車両特攻が都合いいのよ」(A氏)
A氏によれば、トラック特攻の起源は1977年に愛媛県松山市で起きた、三代目山口組と地元組織による「第二次松山抗争」。この際、山口組が地元の兵藤会の本部にトラックで突っ込み、建物の正面を粉砕する"戦果"を挙げて注目されたという。
「殺しは無論、カチコミすらも行けないヤクザはいる。そうした場合、トラック特攻でお茶を濁す。ダンプカーだったら、荷台に積んだ土砂をぶちまければ後片付けも大変だよ。もちろん、殺しの方が称賛されるけれど、抗争事件であれば、組織は仕事として評価せざるを得ないからね。
ただ、突っ込んだらさっさと逃げないと返り討ちに遭う。今回の抗争の序盤に、茨城の神戸側の事務所に突っ込んだ組員は、ガラを抑えられて顔面修復手術が必要なほどに痛めつけられたらしい」(A氏)
最小のリスクで最大の成果を上げようとコストパフォーマンスを追求する昨今の風潮は、刹那的な生き方を尊ぶヤクザ界でも流れている。山口組分裂抗争は来たる8月で9年目を迎えるが、"コスパ厨"によるほどほどの暴走が戦いを長期化させている側面もありそうだ。
●大木健一
全国紙記者、ネットメディア編集者を経て独立。「事件は1課より2課」が口癖で、経済事件や金融ネタに強い