■性行為前後の会話や行動が重要!
「相手が同意していない性行為は犯罪になる」という「不同意性交罪」が7月13日から施行された。
この法律は、性行為の後で「あのときは性交の同意がなかった」と言われた場合にも罪に問われる可能性があるという。では"性交の同意"とはどんなものなのか? どう対処すればいいのか? レイ法律事務所の髙橋知典(たかはし・とものり)弁護士に聞いた。
「『強制性交罪』が改正されて、『不同意性交罪』となりました。これまでも同意のない強制的な性交は犯罪でしたが、今後は同意の有無がより慎重に判断されるでしょう。
では、どんな場面で『不同意』となるのか。次の8つの類型があります。
①暴力や脅迫を利用した場合
②心身の障害を利用した場合
③アルコールや薬物を利用した場合
④睡眠や意識不明瞭な場合
⑤同意しない意思を表明するいとま(時間)がない場合
⑥予想と異なる事態に直面させて(多数の人に囲まれたなどで)恐怖させた場合
⑦虐待に起因する心理的反応を利用した場合(親からの虐待などで性行為を行なうなど)
⑧経済的・社会的関係上の地位を利用した場合(上司と部下など)
こうした状況で性行為を行なうと不同意性交罪に問われる可能性が高いでしょう」
この中で、一般の人が当てはまりやすいのは、アルコールを飲んでいて、その勢いでセックスをしてしまった場合だろう。
「アルコールを飲ませて意識不明になり、相手が不同意の気持ちを表明できないような状況で性行為をしたらアウトでしょう。しかし、お酒の影響でテンションが高くなっている状態での性行為がすべて犯罪になるわけではありません。
もし、お酒を飲んでセックスした翌日に『私、あのときの記憶がなかったし、セックスに同意をしていなかったから』と言われても、そこで重要になってくるのは、性行為の前後の会話や行動などです。
例えば、同意の場合は男性側から『今日はありがとう』『楽しかったよ』というような連絡を女性にしているはずですし、女性もそれに返事をしているかもしれません。
逆に不同意の場合は事後に女性が緊急避妊薬を求めて産婦人科に行っていたり、親友に『今日、こういうことがあった』と相談をしているかもしれません。そうした会話や行動などを総合的に判断して罪の成否を考えます」
──では、別れた後に女性から『今日はありがとう』というメールがあれば大丈夫?
「同意があったという証拠のひとつにはなりえます」
――じゃあ、ふたりでラブホテルに入った場合は?
「過去に問題になったのは、酩酊(めいてい)していてそこがラブホテルだとわからない状況で連れ込んだというものです。ですから、ラブホテルに入るときに女性が男性と手をつないで楽しそうに入っていったとか、女性が先に入っていったとか、そういう状況が防犯カメラで確認できれば不同意にはなりづらいと思います」
――では、相手の家に入った場合は?
「泥酔していなければ、ラブホテルや家に入ることは、性行為を含む親密な関係になることが予想できるので同意の証拠にもなるでしょう。
ただし、上司が部下に『一緒に資料を作成しよう』などと誘った場合は、セーフとはいえません」
――路上などの屋外は?
「路上で強制的に性行為をされた場合『大声を出して助けを呼ぶはずだ』と考えそうですが、実際にそういう被害に遭った場合、意外と声は出せません。もし、声が出せるならば痴漢被害はこれほど増えていないはずです。
ですから『声を出せば助かる場所だから同意した』という主張は、厳しいと思います。普通の性行為をしない場所で性行為をするのは、リスクが高いと思ったほうがいいでしょう」
――マッチングアプリで出会って、性行為をした後に相手から「同意はしていなかった。警察に被害届を出されたくなかったら10万円払いなさい」と言われたら?
「多くの人が性行為目的で使っていると証言するような出会い系アプリで出会い、飲食店でお酒を飲んで、しっかりした足取りでラブホテルに入って性行為をしたという状況なら、いろんなところに物証が残っているはずです。
アプリの利用履歴、メッセージのやりとり、飲食店では飲んだお酒の量もわかるでしょうし、ラブホテルに移動していく姿が防犯カメラなどに映っているはずなので、反論することは可能でしょう。その場合は、すぐ弁護士に相談すべきです」
――ただ、自分もヤリ目(もく)だと後ろめたさもあったりするので、そのときに「性交同意書」みたいなものがあると安心できますが......。
「性交同意書を書いてもらったとしても、相手がベロンベロンに酔っていては意思の確認にはなりません。また、逆に同意書を準備したということで強い計画性さえ感じさせるので、不同意性交を隠そうとしていたんじゃないかという違和感が残ります。
ですから、同意書ではなくやはり会話の流れの中で『セックスしてもいいよ』という性交同意を確認するほうが、安心できると思います。
その点、同意書より会話の録音のほうが証拠になるかもしれません。ただ、そのときも同意の部分やラブホテルに行くまでの経緯だけを録音すること。性交中のすべての声や会話を録音すると、別の目的のために録音したと思われます」
――今回の改正では、これまでの「膣や肛門、口腔への陰茎挿入」に加え、「膣や肛門への指や性玩具などの異物挿入」も性交等として処罰されることとなりました。最初は普通にセックスをしていて、その後、性玩具を使い出されて嫌になり、「性玩具を使うことには同意していなかった」と不同意性交になる場合もある?
「その可能性は十分にあります。だからこそ、相手の意思をきちんと確認することが重要になってきます。相手が嫌だという行為は絶対にやめたほうがいいということです」
食事中に手を触っても嫌がらなかった。歩いているときに腰に手を回しても普通にしていた。ラブホテルにも自分の意思でついてきた。そういう流れの中でのセックスならば、不同意性交となるリスクは低くなる。臆せず恋愛を楽しもう!
●弁護士 髙橋知典(たかはし・とものり)
離婚や不倫などの男女間トラブル、リベンジポルノなどにも詳しい。レイ法律事務所所属弁護士