ビッグモーター創業者の兼重宏行氏(左)は社長を引責辞任し、専務を長年務めていた和泉伸二氏(右)が新社長に就任した ビッグモーター創業者の兼重宏行氏(左)は社長を引責辞任し、専務を長年務めていた和泉伸二氏(右)が新社長に就任した
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「企業の不正防止」について。

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中古車販売大手のビッグモーターが世間の話題だ。預かった車をわざと傷つけ、保険金を不正に請求していたことなどが内部告発で明らかになり、社内調査に発展。それまでメディアにはほぼ対応してこなかった同社だが、創業社長(会見翌日に辞任)、新社長、管理・営業トップをまじえて急遽(きゅうきょ)、行なわれた記者会見の様子は大々的に報じられた。

その後も退職者がパワハラを告白したり、店舗前の街路樹が不自然に枯れていることが判明したりと、話題に事欠かない。当原稿執筆時点では、まだ疑いの全容が明らかになっておらず、さらに告発が相次ぐ可能性がある。

記者会見は、前半部分は練られたものだったが、後半の質疑応答は失敗だった、というのが大方の評価だろう。

経営陣の関与を否定した発言に「そんなはずはない」との声が相次いだ。各事業部が独立採算であるため他事業部には実態が見えない、と開き直りのようにガバナンスの欠如を認める発言に至っては、「逃げるのか」と怒る人もいた。

私は国土交通省の『ネガティブ情報等検索サイト』を愛用している。行政から処分された履歴を確認できる同サイトは、メディアの記者も活用すると面白いだろうが、ほとんど知られていない。

「株式会社ビッグモーター」で検索すると、「故意により検査の一部を実施せず適合証を交付した」「検査員が検査していないにもかかわらず適合証に証明した」など過去の処分履歴が出る。

また関連会社の「株式会社ビーエムハナテン」(ビーエムはビッグモーターの頭文字)で検索しても、「事業者は、不正改造を実施した」「事業者は、立入検査時の質問に対し虚偽の陳述を行った」などの情報が出る。

おそらく行政処分を受けたことは経営陣も知っていたはずで、普通に考えれば、それをきっかけに他の類似例を探しただろう。そうでなければ、意図的に無視したか。だから経営陣が現場のことをまったく知らなかったとは、さすがに無理があると私は思うのだ。

ただ、私の関心は別の点にある。どんな世の中にも不正を働く人はいる。会社は性悪説を前提に不正を防がねばならない。不正を見逃してしまう仕組みであってはいけない。

ビッグモーターに限らず、不正防止には三つの目が必要といわれる。たとえば支出をごまかして懐(ふところ)に入れる営業部員がいたとする。まず営業部内での監視、経理部門の確認、監査部門の抜き打ち検査。これで防ぐ。二つの目だと、二部門が結託してしまうかもしれない。確実に見抜くには三つの目が必要だ。

保険の不正請求であれば、車のオーナー、修理会社、保険会社がそれぞれ監視する仕組みが必要になる。これまでは性善説で、ゴルフボールで車体をぶっ叩く行為は想定しなかったかもしれないし、保険請求時にも細部まで確認しなかったかもしれない。相互監視と透明性が必要だ。

そしてトップには上下左右が重要だ。上の立場として叱ってくれる先輩。指摘してくれる部下。論理的にサポートしてくれる左脳的役割。剛腕で進めてくれる右腕。どれが欠けてもトップの暴走を許す。これはビッグモーターの話ではなく一般論だ。しかし、それらが不在だと古びたモーターのように、組織はきしみながら故障の煙を出していく。

●坂口孝則(Takanori SAKAGUCHI) 
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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