マッチングアプリ体験本の著者・速水由紀子氏と高橋勅徳氏が対談で導き出した結論は――!?マッチングアプリ体験本の著者・速水由紀子氏と高橋勅徳氏が対談で導き出した結論は――!?

5人にひとりがマッチングアプリを使って結婚している現代で、実際にアプリで婚活してきた経験を本にした著者ふたりの対談が実現した! マッチングアプリに"沼る"危険性からそれがもたらした新たな恋愛観まで。行き着いた結論は「全員登録すべき」!?

■女性と男性、それぞれの視点から書いた真逆の本

ジャーナリスト・速水(はやみ)由紀子氏の新著『マッチング・アプリ症候群 婚活沼に棲む人々』(朝日新書)は、自らマッチングアプリで多くの男性と会って話を聞き、婚活沼にハマった人々の実態に迫ったルポ。

同じく、自らマッチングアプリで婚活した経験を基に『大学教授がマッチングアプリに挑戦してみたら、経営学から経済学、マーケティングまで学べた件について。』(クロスメディア・パブリッシング)を上梓(じょうし)した東京都立大学准教授・高橋勅徳(みさのり)氏の対談が実現した!

マッチングアプリ体験本の著者ふたりが語るマッチングアプリの魔力とは?

*  * *

高橋 僕の本が男性視点の本なのに対して、速水先生の本は女性視点から見た「男性の珍妙な行動が書き連ねられた本」で大変興味深かったです。

例えば、体の関係を持った女性をジムに入会させて歩合制の収入を得る男性など、「こんな男いるんだ!」って、まるで百科事典を眺めているような感覚でした。

速水 私は、恋愛を"変数"だととらえていて、相手との関係値はさまざまな要因で変化するものだと思っているんです。

一方で、高橋先生の本はとてもロジカルに書かれていますよね。論文を基に婚活やマッチングアプリについて本を書かれている方はあまりいなかったと思っていて。先生はご自身を"恋愛弱者"と言っていますが、そうした方々のための論理で完全武装した婚活本!という感じでした。

高橋 よく女性から「婚活している間、相手男性の気持ちがまったくわからなかったけど、この本を読んで理解できました」って言われます。

速水 同じマッチングアプリをテーマにした本なのに、真逆なのが面白いですよね。

高橋 真逆ですが、お互いにたどり着いた結論はほとんど一緒ですよね。それは、われわれはマッチングアプリという仕組みと、どう付き合っていくかを考えないといけないということ。じゃないと、ズブズブと沼にハマっていくだけですから。

速水 マッチングアプリを沼化させている大きな特徴は、ネガティブな要素がないことだと思います。会社や学校で恋愛をすると面倒なことがありがちですが、アプリ上ならほとんどないですから。二股したって、セフレをたくさんつくったってとがめられないし、良心の呵責(かしゃく)も起きない。

『マッチング・アプリ症候群』ジャーナリスト・速水由紀子『マッチング・アプリ症候群』ジャーナリスト・速水由紀子

高橋 アプリを使えば、リアルでは出会えないような人とも簡単にマッチできることも要素としてあると思います。例えば、ニッチな趣味を持っている人でも、アプリで検索すれば、その趣味を持った人が一覧でたくさん出てくる。それが強みである一方で、ちょっとした差が気になっちゃうという弊害もある。

速水 ちょっとした差?

高橋 オタク界隈(かいわい)でよく言われる"解釈違い"のように、ささいな好みの差が許せなくなってくるんですよ。リアルでたまたま出会った人であれば許せたはずなのに、アプリだと、またその趣味を持っている別の人とマッチすればいいって思考になるので。

■男女で異なるプロフィール戦略

高橋 あと、マッチングアプリで婚活を経験して気づいたことのひとつに、検索機能によって、結局は数値化できない部分の勝負になってしまうというものがあるんです。

例えば、30代で年収1000万円の人がいたとしましょう。世間的にはハイスペックですが、アプリだと「30代」「年収1000万円」の人たちと並べられるので、その優位性はなくなる。そうなると結局、見た目などの数値化できない部分で比較されてしまうんです。

そうやっていくと、プロフィール文なんかは「いかに減点されないようにするか」になってくるんですよね。就活生が皆同じような髪型と服装をするのと同じ。

それまではジムで筋トレしてますとか、大型バイクに乗ってラーメン食べに行ってますとか、釣りが大好きですって書いていたんですけど、マーケティング的視点からプロフィールを書き直して「カフェ巡り」とか入れてみたんです。

そしたら、それまでほとんどマッチングしなかったのが、10人くらいとマッチングできました。

速水 マッチングアプリにおいてプロフィールはやっぱり重要ですよね。私も、この本を書くために、なるべく多くの男性とマッチングしたい背景があったんですが、ライターであることや顔バレを避けたくて。だから、別の人格をつくり出したんです。万人受けするような、最大公約数の女性像を(笑)。

高橋 例えば、どんなプロフィールですか?

速水 「私のチャームポイントは笑顔です! 手をつないで散歩をするのが大好きです! カフェで甘いもの食べ歩きが趣味です!」みたいな。

高橋 なるほど(笑)。ヨガやピラティスが趣味と書いている女性も多いですよね。

速水 あと、猫(笑)。少なくともこのプロフィールで見切られることはないだろう、と思えるプロフィールにしました。でも、その状態で出会った男性たちと、まったく話が合わなかったんですよ。

万人受けするような女性が好きな男性とマッチングしても、なんの意味もないと感じました。だから、ニッチな趣味もいくつか書いたほうが結果よかったんです。

高橋 その背景には、男性側はショットガンアプローチ的に「いいね」を送りまくらないと、そもそもマッチングしにくい背景がある気がします。速水先生は1年半で200人とマッチングした一方、僕は1年ほどで10人程度。ものすごい差ですよね。

速水 高橋先生はどんなタイプの人に、どれくらいの数の「いいね」を送りましたか?

高橋 毎日10~20人ほどです。最初はものすごく選んでいました。でも、最終的には「こっちから選んでもムダ」だと悟り、ざっと年齢と居住地で検索をかけて、よっぽど地雷だと思うプロフィールじゃなければ、機械的に「いいね」を送るように。

それが一番効率的でした。でも、そうやって半自動的に「いいね」をすることが、女性にとっては"衝撃的なモテ体験"につながってしまうんです。

『大学教授がマッチングアプリに挑戦してみたら、経営学から経済学、マーケティングまで学べた件について。』東京都立大大学院経営学研究科准教授・高橋勅徳『大学教授がマッチングアプリに挑戦してみたら、経営学から経済学、マーケティングまで学べた件について。』東京都立大大学院経営学研究科准教授・高橋勅徳

速水 衝撃的なモテ体験?

高橋 僕が婚活をしていた当時、友人からとある女性を紹介されたんです。その方もアプリなどで婚活中だったんですが、その女性に「あなたが大学教授をやっているなんてムカつく」と言われたんです。

速水 え!? ちょっとその方、人間性に難ありじゃないですか?

高橋 そうですよね(笑)。ただ、その女性の心理を分析してみると、おそらく僕みたいな男性を紹介されて「侮辱された」と感じたんでしょうね。

その友人はお似合いだと思って紹介したと思うのですが、彼女にとって僕はある意味、不釣り合いで。「おまえみたいなヤツにはこれくらいがちょうどいい」と言われた気分だったんでしょう。

それもマッチングアプリによる衝撃的なモテ体験が認識をゆがませてしまったのではないかな、と思うんです。まさに速水先生の言うマッチング・アプリ症候群、いわゆる"こじらせ沼"にハマっている状態なんだろうと。

速水 なるほど。衝撃的なモテ体験が、こじらせ沼につながってしまう、と。確かに、リアルの世界では経験しない、とんでもないモテ体験をすると、次から次へと男性をジャッジするようになっちゃいますね。片や男性は、そういう女性にある意味、"はじかれる"体験をすることで戦略を論理化するようになる、と。丸腰状態では戦場にも出ていけませんから。

■恋愛強者男性は意外と結婚できない

速水 相手をジャッジするのでいうと、多くの女性もそうですが、モテる男性、いわゆる恋愛強者男性も同様ですよね。そういう人は「こういうヤツはこういうふうにすれば遊べる、つまみ食いできる」と、戦略を身につけている。そんな少々問題アリな男性も、マッチングアプリにはけっこういる印象です。

高橋 いわゆる「モノ化」ですよね。出会った相手に対し、人間関係を構築する過程を省略して、「こう刺激したらこう反応が返ってくる」という前提から戦略を作ってしまう。

リアルの人間関係だったら絶対にしないことなのに、マッチングアプリなら画面上だけで出会って、面倒になったら関係を切って......と簡単にできるから、そもそも相手をモノ化しやすい構造になっている。

恋愛強者男性は、主にすこぶる容姿が良い男性たちなんですけど、不思議なことに、強者になればなるほど結婚は遠のいていくという。

速水 わかります。そもそも結婚が向いてないんですよ。「モデルの写真を借りてきたんですか?」って思っちゃうくらいにイケメンの人もいますよね。でもそういう人って、魅力が顔しかないんですよ!

プロフィールも「職場に女性がいないので、出会いを求めて登録してみました」みたいな、いわゆるテンプレばかりで。「甘いものが好きなので、一緒にカフェ巡りしましょう」とか、「それだけかよおまえは!?」って言いたくなるくらい面白みがない。恋愛強者って、そういう人ばっかりです。

高橋 今はアプリ上にはイケメンもごまんといるわけですから、恋愛強者でも、別の恋愛強者と比較された末に関係を切られるってことが起こっているんですよね。

■政治家こそアプリに登録せよ!

速水 私ね、皆さんマッチングアプリに登録したほうがいいと思っているんですけど、特に政治家の方にやってみてほしい! 言っちゃ悪いですけど政治家って、プレゼン力もなければ自分を客観視できてない人が多い。

その点、マッチングアプリはまず己の客体化から始まりますから。自分でプロフィールを書いてみて、どう自己をプレゼンするのかやってみてほしい。「東大卒の政治家です」と書いたところで、アプリじゃ見向きもされませんから。

高橋 同感です。マッチングアプリに登録して、多くの人のように、いかに自分に価値がないかをまず思い知ってほしいですよね。

速水 そしてアプリを通じて、己のジェンダーバイアスに気づいてほしい。なぜ日本がジェンダーギャップ指数125位の国になってしまっているのかがきっとわかるはず。

飛び抜けて優秀な日本の女性は、ミソジニー(女性蔑視)が根強い日本にいるよりも、性別によって評価が変わったり、役割を押しつけられたりしない海外に続々と拠点を移しています。

日本の古くさいムラ社会の因習を破壊するのにマッチングアプリは有用かも。最近の若いコはパートナーがいる上でマッチングアプリを入れていますから、恋愛観もそもそも変化しているんですよ。

高橋 僕はそういうのが普通になっていくんだと思います。人間はこれまでもテクノロジーで面倒なことを回避してきました。

それがただ恋愛関係にも起きるだけ。愛の定義は時代と共に変わるもので、マッチングアプリがより普及すれば、恋愛感情と性愛をそれぞれ別の人に抱くことも当然になる。そうした恋愛観に引いてしまうのは、価値観がすでに古いからかもしれません。

僕はマッチングアプリを中学校の教育に取り入れるのもアリだと思います。誰だって小学校のときに横断歩道の渡り方を習いますよね。あれと一緒で、恋愛、つまりは正しい人間関係の築き方をアプリで教育すべきだと考えます。

速水 自己を客観視してアピール方法を考えるのは学生にも会社員にも意味がありますよね。結論、皆さんマッチングアプリを入れましょう!

●高橋勅徳(たかはし・みさのり)
東京都立大大学院経営学研究科准教授。専門はベンチャービジネスだが、自身の婚活体験を書いた『婚活戦略』(中央経済社)が話題となった。今作は、マッチングアプリを通して得られるさまざまな知識について、学問別に解説する。経営学、経済学、マーケティング術、マッチングアプリ活用の極意が学べる革新的なビジネス書
『大学教授がマッチングアプリに挑戦してみたら、経営学から経済学、マーケティングまで学べた件について。』『大学教授がマッチングアプリに挑戦してみたら、経営学から経済学、マーケティングまで学べた件について。』

●速水由紀子(はやみ・ゆきこ)
大学卒業後、新聞社記者を経てフリージャーナリストとなる。『AERA』ほか雑誌での取材・執筆活動などで活躍。今作は、自らアプリでのマッチング活動に励み、多くの男性と出会って交流し、そこから見えてきた日本が抱えるムラ社会的な結婚・夫婦観の認識のゆがみに切り込む。現代を生きるわれわれが本当に必要としている人間関係のヒントが得られる一冊
『マッチング・アプリ症候群』『マッチング・アプリ症候群』