連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第13回

ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!

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ウーバーイーツは、エリア内であればどこへでも配達します。

注文される方の自宅や勤務先はもちろん、お花見シーズンには桜の名所・上野公園へ配達に行くこともありますし、先日、「ウーバーイーツ配達員が体験した真夏の夜の怖い話」で書いたように、誰もいない公園のベンチに置き配をすることもあります。

今回は、5年半、5000回以上配達した中で経験した、インパクトのあった場所への配達の話です。

ある日、秋葉原から1kmほど離れた場所にある、すき家から運んだのはチーズ牛丼3個。雑居ビルのエレベーターに乗って指定された店に到着。受付で「ウーバーイーツです」と声をかけると出てきたのが、アニメ『ベルサイユのばら』に登場していそうないでたちのスタッフの方。商品を受け取ると「こちら、お客さまが注文されたものなので」と言って、チーズ牛丼の入った袋を持って店内へと行ってしまいました。

秋葉原には、たくさんのメイドカフェが営業しているほか、教会のシスター姿のコが接客する店や猫耳のコがいる店、キャストが全員吸血鬼という店など、さまざまなコンセプトでお客さんを接客するコンセプトカフェもたくさんあります。おそらくこの店は近世ヨーロッパがテーマのカフェ。お客さんがチーズ牛丼を頼んだということは、店ではきっと「チーズのおいしい食べ方」についてキャストの方とお客さんが会話をしていて、チーズ牛丼の話が出たのでしょう。

近世ヨーロッパのキャラクターでチーズ牛丼を食べたらどんなリアクションをするのか気になるところでしたが、店の前で聞き耳を立てるわけにもいかないので、この時はすぐにエレベーターに乗り、その場を去りました。

また、ある日の深夜1時。マクドナルドから運んだのは「ポテナゲ」の特大サイズ×4。ポテトのLサイズふたつとナゲット15ピースがセットになったポテナゲの特大サイズ、それが4個ということは、ポテトLサイズ8個とナゲット60ピース。夜中に誰が食べるのだろう。深夜にパーティーでもやってるのかと思いながら、配達員用のアプリにある商品受け取り完了ボタンを押すと、表示された注文者の住所には相撲部屋の名前が。

「裏口に来てください。住宅地なので静かにお願いします」という注意書きが表示されていたので、裏通りに面した道にソロリと入ると、街灯のない通りは真っ暗。自転車のライトを頼りに進むと、前方に懐中電灯をグルグルと回して合図を送る人。マゲを結っていたその人に渡すと、「ありがとうございます」と笑顔で受け取り、建物の中へと消えていきました。相撲部屋の中は真っ暗だったので、彼がひとりであれだけの量をコッソリ食べたのでしょう。

そして、さらに別の日の深夜2時に新橋の居酒屋から運んだものはマヨネーズたっぷりの鶏からマヨ丼。商品を受け取り、ボタンを押すと、表示されたのはなんとアメリカ大使館。

たまにバグで配達先の住所がキチンと表示されないことがあるので、今回もバグかなと思い注文者の情報を見ると、外国の方の名前で、どうやら間違いなさそう。

六本木にあるアメリカ大使館は、日本の警察官が周囲をガードしている建物。深夜2時に自転車に乗った中年男性がフラリと近づいて大丈夫なものなのか。不安に思いながら向かうと、建物の100mほど手前にいた警察官に声をかけられました。

事情を説明して、注文者の名前が入った画面を見せると「ああ、ウーバーさんね」と慣れた様子で周辺の警察官に連絡。大使館前にいる警察官に声をかけると、前室のような建物に案内されました。中に入ると空港の保安検査場のようなX線で所持品をチェックする設備が。

空港と同じようにポケットに入れているものを取り出し、ウーバーのリュックと金属探知機に反応してしまう腰に巻いたベルトを渡してゲートを通過。通過後にベルトと鶏からマヨ丼の入ったレジ袋だけを渡され「これだけ持って建物へ行ってください」との指示。

本来なら、スマホの画面を見ながら注文番号や商品の内容が間違えていないか確認をしなければならないのですが、ここはアメリカ大使館。異議を唱えると面倒なことになりそうだし、警備の人も眉ひとつ動かさず真剣な眼差しでこちらを見るので、指示通りに商品だけ持って大使館の本館へ。

入ると待っていたのは軍服姿のガッチリした外国人男性。さらにしばらくすると、猛烈に仕事ができそうな雰囲気のスタイルの良い女性が出てきました。その方が注文者のようだったので商品の入った袋を渡し、大使館の本館を出て、リュックやスマホを預けている前室へ戻りました。

戻って預けていたものを渡し、スマホを操作して配達員用アプリの配達完了ボタンを押そうとしたら、眉ひとつ動かさなかった警備の人が「何を注文したの?」と聞いてきました。「鶏からマヨ丼です」と答えると、表情をまったく崩さなかった方の口角が少しだけ上がりました。

●渡辺雅史(わたなべ・まさし) 
フリーライターとして雑誌や書籍への執筆をするほか、ラジオ番組やテレビの番組の構成作家としても活躍。趣味は鉄道に乗ること。国内の全鉄道路線に乗車したほか、世界20の国・地域の鉄道に乗車。

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