ガソリン補助金の延長に向けて動き出した岸田首相だが、いつまでもこの政策を続けておくことはできないだろう。終了すればガソリンの高騰は避けられそうにない。リッター200円となった世界はどうなるのか? 経済の専門家が解説する!
* * *
■ガソリン高騰に打つ手はない!?
ガソリンが高騰している! 8月14日時点のレギュラーガソリンの全国平均価格は、1リットル181.9円だ(経済産業省発表)。都内では190円を超えている地域もある。
なぜ、これほど高くなっているのか。経済評論家の加谷珪一(かや・けいいち)氏が解説する。
「最大の原因は、政府がガソリン価格を抑えるために石油の元売り会社などに支給している補助金(燃料油価格激変緩和補助金)が縮小されたからです。
これは2022年の1月から導入された政策で、簡単に言うと1リットル当たり170円を目安に、それを超えた金額を補助するというもの。ですから、過去1年半ほどガソリン価格は170円くらいから大きく上昇していませんでした。
ところが、今年の6月から補助金が段階的に減額されたので、その分、値段が上がっているんです」
そして、この補助金は9月末で終了する予定だったが、岸田文雄首相は支給期限を延長する考えを示した。もし、延長されなければ、10月のレギュラーガソリンの全国平均価格は、1リットル190円台になっていただろう。
これまで、レギュラーガソリンの全国平均の最高価格は185.1円だった(2008年8月)。それを一気に超えたかもしれないのだ。
■アベノミクスをやめられるか?
では、今後のガソリン価格はどうなるのだろうか。
「ガソリン価格は、原油価格と為替の影響で決まります。今、ウクライナ情勢は、戦争が激しくなっている状況ではないので、原油価格はそれほど大きく動いていません。
一方で、円安は進んでいます。この円安の影響はすぐに出るのではなく、3ヵ月後くらいに顕在化してきます。ということは、原油価格が落ち着いていても、早ければ11月くらいからガソリン価格が上がる可能性があります。
そして、最悪のパターンは円安が進み原油価格も上がってしまうことです。ウクライナ情勢は戦争が激しくなっていなかったとしても、主要原産国のひとつであるサウジアラビアが今の価格水準を高くしようとして、減産の方針を表明しているんです。ですから、このままだと原油価格が上がる可能性が非常に高いと思います」
せっかく補助金を延長しても原油高と円安のダブルパンチで、結局、11月以降にガソリン価格は190円台になるかもしれない。原油高や円安を積極的に止める方法はないのだろうか。
「サウジアラビアが値上げをしたいと思っているので、日本が『下げてくれ』と言っても下げてくれないでしょう。原油相場は各国の需給バランスで決まるものなので、日本がどうこうできるものではありません。
では、円安はどうか。為替を操作することは基本的に禁じられています。でも、日本銀行がアベノミクスである大規模緩和政策をやめれば、ほぼ確実に円高になります。そうするとガソリンは安くなるのではないでしょうか。
実は、日銀は7月の金融政策決定会合で、大規模緩和政策の微修正をしました。微修正だったので市場に影響はなかったのですが、これを聞いた自民党の世耕弘成参院幹事長が、アベノミクスをやめるつもりなのかという意味合いで『驚いている』『植田和男日銀総裁に目を光らせておかなければいけない』と警告しました。
こうなると、日銀はそう簡単に大規模緩和政策をやめることができません。円安がこのまま進む可能性が高いと思います」
原油高で円安も進むとなったら、もう打つ手はないのだろうか。
「ガソリン税には本則税率と特例税率がありますが、連続する3ヵ月の平均小売価格が160円を超えたとき、特例税率の25.1円が免除されるという『トリガー条項』があります。このトリガー条項は今、凍結されていますが、凍結を解除すれば25円ほど安くなります。
ところが、トリガー条項は旧民主党政権時代に導入されたもので、当時、自民党は猛反対しました。ですから、自分たちが猛反対した政策をやるとは考えにくいです」
補助金の延長はいつか終わる。そうなると、ガソリン価格は一気に高騰し、1リットル200円時代に突入する!?
■クリスマスケーキのイチゴにも影響が!
では、そうなったとき、生活はどうなるのか? 経済ジャーナリストの荻原博子(おぎわら・ひろこ)氏に聞いた。
「ガソリン代が上がると、車を通勤や買い物など生活の足として使っている地方の人はダイレクトに影響を受けます。それから、当然、運送コストが上がります。
すると宅配便の料金などは値上げするでしょうし、送料無料のネットショップも有料にするでしょう。ほかにも、信州のレタスなどの野菜を他県にトラックで運んでいますが、その運送費が高くなるので野菜の価格に転嫁されるでしょう。
野菜に限らず、魚も港や市場から小売店に運ぶわけですし、そもそも漁船もガソリンなどの燃料油を使っています。しかも、最近は魚のいる場所が変わってしまって、遠くまで漁に行かなくてはいけない場合もあるようです。そうなると、よけい、ガソリン代がかかります。
農家もトラクターや草刈り機などの農機具にガソリンを使っています。ビニールハウスを温める燃料は灯油ですが、原油が上がれば灯油も上がります。すると、クリスマスケーキのイチゴはいつも8個のっているのに、今年は6個しかのっていないということが起こります。
フードトラックなどは、ガソリンと食品の値上がりで大打撃です。お弁当の価格が高くなるか、価格は同じでもおかずが少なくなっている可能性も出てきます。
食品だけではありません。例えば訪問介護。民間の業者はガソリン代が高騰すれば、その分、介護料金を値上げするかもしれません。高齢者にもしわ寄せがきます」
そして、追い打ちをかけるように値上がりが続く。
「実は10月から電気代やガス代も上がります。政府が今年2月から実施していた電気、ガス料金の補助金が半減するからです。9月検針分まで電気料金は1kWh7円、ガス料金は1m3当たり30円補助されてきましたが、10月検針分はその補助額が半額になります。
さらに10月からは3500品目以上の食料品が値上げします。今後の生活はかなり苦しくなっていくでしょう」
では、どうしたらいいのか?
「もう『徹底してお金を使わない』という選択肢しかありません。外食はしない。旅行には行かない。無駄な服は買わない。食品も今でもかなり切り詰めているとは思いますが、さらにできるだけ安く売っている店を選びましょう。
野菜などは、地方だと形が悪かったり、流通している品よりサイズが小さめだったりするものが直売所で売っています。『直売所ドットコム』など全国の直売所がどこにあるかわかるサイトもあります。そうしたものを徹底的に利用するしかありません」
補助金の延長はいつか終わる。するとやって来そうなガソリン1リットル200円時代。岸田政権がアベノミクスをやめて、トリガー条項の凍結を解除しなければ、国民は爪に火をともすような生活を続けることになるのかもしれない。