今年4月に逝去されたムツゴロウさんこと、動物学者の畑正憲先生の著書『ムツゴロウさんの最後のどうぶつ回顧録』が9月5日に発売された。
2016年から『週刊プレイボーイ』で同名コラムの連載が始まり、今回の著書はそれをまとめたもの。断筆される直前の直筆原稿、直筆のイラストも多数収録している。
このコラムでは、畑先生がこれまで心血を注いで関わってきた動物たちとのエピソードはもちろん、テレビや映画などの映像作品、自著でも明かしていない衝撃の事実を綴ってくれた。
当時、先生はこう意気込みを話している。
「僕はね、今まで本当に危険なことは伏せていたんです。命がけなのは当然のことで、何でも平然とやっているように見せてきました。だからといいますか、テレビでは動物の糞や尿を調べているシーンが多くて、一時期はよく視聴者に『糞を食べたり、尿を飲んだりしている』なんて言われていたんですよ(笑)。
今回、"最後の"ということで、これまで『表に出さなくてもいいや』と考えていたことをすべて書こうと思っているんです」
その当時、バラエティ番組などに畑先生が出演するたび、動物に襲われるシーンがVTRで流され、クローズアップされることも少なくなかった。
「最近はそんなシーンばかりを切り取って放送されるから、僕はカッカきているんです。野生のゾウだと分かって近づいていったのだから、ぶん投げられるのも当然。でも、そこだけを放送されたら動物の本質なんて分からないじゃないですか。
そのときだって、僕は100日間、ゾウの群れと一緒に生活している。そうしたところも一緒に放送してくれないと、どうして僕がそういう行動を取ったのか伝わらないんですよ。コラムではそこを書きたいんです。
僕自身、『オレは何をしているんだろう』っていう心の葛藤もありましたが、ゾウが僕をひとつの生き物として認めてくれる瞬間を感じることができた。
最終的には、あるオスゾウが僕をメスゾウだと思って恋をしてね。そこから先のゾウとの恋物語は連載で読んでください」(畑先生)
ほかにもコラムで語りたい動物がいた。
「オオカミ犬の時も忘れられないなぁ。仰向けで寝ている僕に対して、オスのオオカミ犬が発情のプレゼンテーションをしてきたんです。
仰向けで寝ている僕に対して、上手いこと前脚を使って僕をうつぶせにさせるんですよ。ちょうど、メスのオオカミ犬が腹ばいになっているような状態ですね。そこに乗っかってきて......」(畑先生)
このコラムにおいて、「発情期」がキーワードのひとつでもあった。
「(発情期の動物に近づくのは危険か、と問われ)僕の考えでは、まったくの逆。発情期のほうが動物と仲良くなりやすいんですよ。
だって、発情するたびに相手を殺していたら、種の保存なんてできないでしょ? 心の中では親密になりたいと思っているはずなので、その感情を引っ張り出してあげると、手の平を返したようになついてくる。
それはどんな動物でも一緒です。そもそも動物に僕は恐怖を感じたりしない。動物同士、お互い仲間だと思って接していると、たとえ咬まれても、よし、よし、ようしっていけるんですよ。
今はゾウとオオカミ犬を例に出しましたが、これからコラムでは、ジャガーにチーター、リカオン、そしてライオンなど......たくさん描いていく予定です」(畑先生)
そしてインタビューの最後、畑先生はこう語っていた。
「人間として動物に深入りした場面をぜひ見てもらいたい。テレビだと動物の交接シーンを撮っても放送できませんでしたし、奇抜なことに焦点を当てられがちになる。
つまり、すべてを伝えきれていないんですよ。
僕が体験してきたこと、研究してきたことは人生の宝。それをちゃんと残さないといけないと思いましたし、週刊プレイボーイを通して最後に伝えたいと思ったんです」(畑先生)
その思いが1冊になった。
■『ムツゴロウさんの最後のどうぶつ回顧録』
集英社 四六判 192ページ 本体1600円+税