東証プライム上場の「三栄建築設計」の創業者が、住吉会系3次団体の組長に金銭を供与していたとされる一件では、元社長と暴力団員が20年以上にわたって交流していたことが、同社が設置した第三者委員会の調査で明らかにされた。さらに東京都公安委員会からは、都暴力団排除条例の勧告も受けていた同社は、現在TOB(株式公開買付)を実施しているオープンハウスによる完全子会社化と上場廃止が既定路線と見られている。
上場企業が「黒い交際」の発覚によって一気にその地位を失ったこの顛末は、司法や経済界の暴力団排除に対する強い意思を裏付けるものとなった。しかし一方では、裏社会においても「カタギとの密接交際禁止」が通達されているという。
先日、某アイドルグループの元メンバーと、現役暴力団員が一緒に撮った写真が週刊誌に掲載されたが、かつて週刊誌を頻繁に賑わせていたような「芸能人の黒い交際」と言ったような報道は、最近では稀になっている。
その理由について、ある組織の元組員の男性が耳打ちする。
「ヤクザ側が著名人との接触を控えているからですよ。理由は簡単で、著名人と絡むメリットがないから。むしろ、表に出たら騒ぎになる可能性がある分、リスクのほうが大きいともいえる」
■著名人との交際はリスク!?
男性はこう断言し、芸能人ら著名人と、いわゆる「反社」と呼ばれるアウトローたちとの「黒い交際」の実相について証言を続けた。
「連れ回して周辺に人脈自慢したりシノギの看板にするなど『場面』で使ったり、金づるにしたりというメリットはあった。虚栄心が強いヤクザは付き合いがあるだけで充足感も得られたが、暴排が徹底されたことで事件化したりトラブルに発展することが多くなりましたから。
仮に著名人が絡んで事件になった場合、使用者責任が厳しく問われるこのご時世では、組織の上層部にまで累が及ぶことも考えられる。公安委員会の指定団体のほとんどはリスク回避のために接触を避けるようになっているはずです」(元組員)
使用者責任を巡っては2021年6月、関東の有力団体である住吉会の当時の代表が、特殊詐欺の被害者らから集団訴訟を起こされ、被害者ら52人と計6億5200万円を支払うことで和解が成立している。同じく関東の稲川会や、分裂抗争でそれぞれ特定抗争指定暴力団に指定された山口組、神戸山口組も同様の訴訟を提起されている。
前出の元組員は「特殊詐欺の被害者のみならず、みかじめ料の徴収など、さまざまなシノギに使用者責任が認められ、ヤクザは身動きが取れなくなっている。アシがつかないよう半グレを使ったり、不良外国人と連携するなどして、表には出ないようにしないとまともにシノギができない状態です」と内情を明かす。
■煙たい存在だった「広域強盗事件」
殺人事件にまで発展してしまった例の広域強盗事件が世間を大きく騒がせたのも、"業界"では痛手となった。フィリピンやカンボジアなど、海外から詐欺を仕掛けるスキームも白日にさらされたことで、捜査当局の監視の目はさらに厳しくなっている。
そんななか、ある有力団体での「内部通達」でこんなお触れも回ったという。
「これまで組織の主要な収益源だった特殊詐欺や債権回収が容易にできない環境になったことで、上層部は、『原点に帰ろう』と号令を掛けた。つまり、『昔ながらのシノギに回帰しよう』ということです。
つまりそれは『博打、女、クスリ』の3つ。昔からあるシノギではありますが、うまく展開できれば、『OS(オレオレ詐欺)』なんかよりも摘発のリスクは格段に低く、安定的な収益が見込めるので、組織内では奨励される雰囲気があるようですね」(元組員)
「たとえば『博打』で言うと、インターネットカジノがかなり流行っていて、参入する組織も増えている。店舗を構えて運営する裏カジノよりも摘発リスクが低いのは言うまでもないでしょう。
『女』でいうと『パパ活』を隠れ蓑にした管理売春を手掛けるヤクザも出てきた。『クスリ』は、何もシャブ(覚醒剤)や草(大麻)といった非合法な薬物に限りません。大麻の成分から抽出してつくったCBD(カンナビジオール)やTHCH(テトラヒドロカンナビヘキソール)などの代用品の脱法ドラッグを売っても商売にはなる。
『博打、女、クスリ』で、危ない橋を渡らなくても稼げる余地は十分あるってことです」(元組員)
裏社会の主流は、「目立たず出しゃばらず」の堅実路線に移りつつあるということか。
●安藤海南男(あんどう・かなお)
ジャーナリスト。大手新聞社に入社後、地方支局での勤務を経て、在京社会部記者として活躍。退社後は警察組織の裏側を精力的に取材している。沖縄復帰前後の「コザ」の売春地帯で生きた5人の女性の生き様を描いた電子書籍「パラダイス」(ミリオン出版/大洋図書)も発売中