いま一度知っておきたい、インフルエンザワクチンの疑問や治療薬 いま一度知っておきたい、インフルエンザワクチンの疑問や治療薬

コロナが落ち着き、次なる脅威はインフルエンザの流行。もう今年度の接種が始まっているインフルワクチンの素朴な疑問や治療薬に関して医師に聞いてみた!

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■秋なのに流行拡大中!

コロナに気を取られた3年半だったけど、こちらも流行すると恐ろしいインフルエンザに要注意。今年はすでに流行が始まっているらしい。そこで、予防のためにもいま一度、インフルワクチンや治療薬に関する基礎知識をナビタスクリニック立川(東京)内科の久住英二医師に聞いてみた。

今年はインフルがすでに流行しているというのは本当でしょうか?

「コロナの影響で、ほかのウイルスの世界的な循環が止まっていましたが、以前のように広がり出しました。また、国内でも人と人の接触が減っていましたが、それが正常化したため患者さんの数は増えています」

もはや、コロナなのか、ただの季節風邪なのか、インフルなのか判別できないのですが、インフルの症状の特徴は?

「インフルの症状は喉の痛みや鼻水、鼻づまり、たんのからみよりも、全身のだるさや関節の痛みなどから発症するケースが多いです。感染様式は主に飛沫感染とされていますが、空気感染も起こりえるとされています。飛沫感染を予防するにはマスクや手洗いが有効です。ワクチンも感染を防ぐ上で有効です」

インフルエンザウイルスはA型、B型に分かれており、その両方のウイルスを不活化したものをワクチンとして接種する(写真はA型ウイルス) インフルエンザウイルスはA型、B型に分かれており、その両方のウイルスを不活化したものをワクチンとして接種する(写真はA型ウイルス)

インフルには型があると聞いたことがあるのですが?

「インフルのウイルスはA型として、香港型とソ連型の2種類があります。そのほか、B型もある。これらの3つのウイルスが、順繰りに主な流行ウイルスとなって流行を繰り返してきました。今年は香港型が流行しているようです。香港型は重症化しやすく、またワクチンの効果が出にくい厄介なタイプです」

ちなみに、インフルの感染力はどの程度なんでしょう?

「コロナの流行で『基本再生産数』という数値がおなじみになりました。1人の感染者が何人にうつすかという数値です。

インフルの場合、この基本再生産数は多くて2程度と考えられています。ちなみに、コロナは3くらいでした。これは免疫を持ってない人がどれくらいいて、どれくらいうつりやすいかを示す数値でもあります。

コロナは空気感染をするので比較的うつりやすく、インフルはごく近くにいれば空気感染もありえますが、飛沫感染が主。また、免疫を持っている人がどれくらいいるかによってもうつりやすさが違います。

コロナは当初、誰も免疫を持ってなかったわけですから、誰にでもうつりえました。でも、インフルは過去に何度も感染している人が多いわけですから。この数字を多いとみるか、少ないとみるかは難しいところです」

■インフルワクチンの疑問を解決!

では、ワクチンの話をお願いします。インフルワクチンの特徴は?

「インフルワクチンは人為的に増殖させたウイルスを殺して作った『不活化ワクチン』。不活化したウイルスのタンパク質をワクチンとして接種することで、ヒトの体内に抗体を作り、感染を防御するんです。

日本で使われるワクチンはAソ連型、A香港型、B型2種類(ビクトリア系統、山形系統)の4種に対する成分が入っています」

コロナワクチンは○○社製と、メーカーによって有効性などが違いましたが、インフルワクチンは?

「日本で接種されるインフルワクチンは、第一三共製、KMB製、阪大微研製など数社のメーカーが製造したものが使用されています。メーカーごとに有効性が違うかは比較試験が行なわれていないのでわかりませんが、いずれも厚労省が推奨している製法で作られているので、品質に差はないと思います」

ちなみにインフルワクチンの有効性は?

「ワクチンの有効性の目安はそれぞれ、Aソ連型が60%、B型(2種類)が40~50%、A香港型の場合は40%と最も低く、年によっては10%程度まで落ちたという報告もあります」

なんか低い気がしますが。

「有効率とはそもそも何を防いでいるかによって変わります。感染しないこと、発症しないこと、重症化しないこと、死亡しないこと。どのフェーズで有効とするかによって変わる。

インフルの有効率は『発症を阻止する』ところで考えられています。子供は放っておくと3人に1人くらいがインフルエンザを発症するといわれていますので、それを考えるとワクチンを接種する意味はあると思います。また、高齢者なら重症化して死亡する確率を5分の1くらいにできるというデータもあります」

早く接種するに越したことはない?

「インフルワクチンの場合、接種後、免疫ができるまでに10日から2週間ほどかかります。その後、効果の持続期間は5ヵ月程度といわれています。みんなで早めに打てば、流行を未然に防ぐことにつながり、自分が感染する確率も減らせます」

13歳未満の子供は2回接種が推奨されているが、今年は流行が長引くことも考えられ、大人も数ヵ月の間隔を空け、2回接種をしてもよいかもしれない 13歳未満の子供は2回接種が推奨されているが、今年は流行が長引くことも考えられ、大人も数ヵ月の間隔を空け、2回接種をしてもよいかもしれない

なぜ、子供は2回接種が必要なのでしょう?

「日本では、13歳未満の子供は2回接種することが推奨されていますが、慶應義塾大学病院小児科の研究グループが2回接種と1回接種の有効率を比較し、1回接種でも同等の保護効果が得られたというデータを発表しましたので、これに関してはなんともいえないところです。

ただ、今年はすでに流行期に入ってしまっているわけですが、これで11月末くらいにピークが来て終わるのか、来年の1月末くらいまで続くのか。A香港型の1種類だけはやって終わるのか、Aソ連型がやって来るのか。など、先行きが見えません。

流行が続くようであれば、長く予防するために、免疫が落ちてきた3ヵ月後くらいに大人や高齢者も、もう一回打つのが有効かもしれません」

あと、やはり副反応が気になるのですが。

「軽症の副反応は、ほぼ全員に出ます。接種した箇所が赤くなって腫れたり痒(かゆ)くなったりすることです。通常は自然に改善するため治療の必要はありません。

まれにアナフィラキシー反応など重篤な副反応が起きることもありますが、通常は接種した直後ですので、そのまま医療機関で対応してもらえます」

■インフルの治療薬ってどうなの?

では、かかってしまった場合の治療薬はどのようなものがあるのでしょう?

「インフルの薬で一般的に処方されるのは、ノイラミニダーゼ阻害薬という、体内でのウイルスの増殖を防ぐ薬です。経口薬のタミフルのほか、吸入薬のリレンザとイナビル、点滴するラピアクタなどがあります。いずれも発症から48時間以内に投与しなければなりません。

効果としては、熱の下がりが1日早くなるという臨床データで有効性が認められました。高齢者がインフルから肺炎になるのを予防するというデータもあります。副作用は基本的にはほかの薬と同様、特別なものはありませんし、副作用が起きる頻度は低いです。

かつて、タミフルを服用すると異常行動を起こすと危惧されましたが、異常行動はインフルそのものによって起きることがわかり、タミフルの副作用ではないということがわかりました」

リレンザ(上)、イナビル(下)のような粉末吸入薬もある リレンザ(上)、イナビル(下)のような粉末吸入薬もある

新薬などはない?

「2018年に認可されたゾフルーザが最新のものですが、服用すると、インフルの薬が効かなくなってしまう耐性率が高くなってしまう可能性があることや薬価が高いことから、当院ではほとんど処方していません」

今年は薬不足なんて話も聞きますが、大丈夫なんでしょうか?

「確かに、子供用の熱冷ましや大人の咳止めなど風邪薬が全然足りていません。この夏もコロナがはやっていた影響で生産量が見合わなかった。

例年は夏場、風邪がそれほどはやらず、その間に在庫を増やして冬の風邪シーズンに備えるんですが、今年はずっとコロナがはやっていて、足りない状態でそのままインフルの流行期に入ってしまいました。

今年はインフルの流行がどういう流れになるかわかりませんが、もしかしたらインフルの治療薬も足りなくなるかもしれません。だから、今年は例年に増して風邪やインフルをもらってはいけない年。ワクチン接種も前向きに検討してください」