旧ジャニーズ事務所は被害者への補償に専念することになり、東京・赤坂の本社ビルの看板も10月上旬には外された旧ジャニーズ事務所は被害者への補償に専念することになり、東京・赤坂の本社ビルの看板も10月上旬には外された
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「企業再生」について。

*  *  *

ジャニーズ事務所は"SMILE-UP.(スマイルアップ)"に名称を変更。既存の事務所は性加害の補償を担い、新会社では所属タレントのエージェント業務を担うとの方向性が定まった。これまで旧事務所での「マネジメント業務」は所属タレントの育成から管理全般までを担っていた。いっぽうで、「エージェント業務」の新会社はむしろタレントから営業や契約法務など一部の業務を委託してもらう立場だ。タレントにしてみれば、自らの意思を反映できるが、旧事務所が丸抱えしてくれていた雑務を担う必要がある。

たとえば水俣病を引き起こした企業であるチッソも現在、被害者への補償に専任している。問題の当事者たる企業から事業を切り離し、これからのビジネスを担う新企業を独立させるのはおかしな方法ではない。ジャニーズ事務所のままで再建を志すのは難しいとの妥当な判断が下されたのだろう。

ところで、「誰もが30年前からジャニーズ事務所の性加害を知っていたじゃないか」との批判がある。これについては、日本の各企業の外国人持ち株比率を調べてみてほしい。近年は総じて驚くほど高く、過半数にいたる有名企業も多い。外国に本社を持つ企業を俗に外資系企業というが、外国人や海外機関投資家が株を持っているという意味では、多くの日本企業は「外資系」だ。そして、事実として会社は株主のものだ。

その外国人株主が今回、性被害の実態を知るにいたった。諸外国では小児性加害は最悪のご法度であり、ビジネスシーンから撤退を求められる。英国のジミー・サヴィル事件、米国のジェフリー・エプスタイン事件などが記憶に新しい。企業の宣伝広報として、ジャニーズ事務所のタレント起用を躊躇(ちゅうちょ)・停止するのは当然といえる。

さて、どうすれば新会社は「性加害と無縁でクリーン」だと証明できるだろうか。これはジャニーズに限った話ではなく、不祥事を起こした企業が再生するとき、「カネ・人・ビジネスモデル」の非連続証明が必要になると私は考えている。

まずカネは株主が異なることだ。非上場企業の場合、株主が同じであれば密室で特定人物の意図が働き、同様の不祥事を誘発しかねない。次に人は、不祥事(今回でいえば性加害)の当事者、あるいは知りながら見過ごしていた取締役等がいないことだ。少なくとも有効な内部通報制度がなければならない。

そしてビジネスモデル。ジャニーズでいえば、幼い頃にスカウトし、合宿所に寝泊まりさせながら(ところでこれは労働基準法的に問題がなかったのだろうか)育成してタレントのすべてを包み、売り込む。これは素晴らしい側面もありつつ、権力の偏重が生じ、性被害から逃げられない状況を生んだ。10代のタレントと旧事務所が、どれだけ詳細な契約書を締結していたか私は知らない。今後はタレントと新会社が対等な立場でいることが、再出発の前提となるだろう。

被害者が声を上げられない状態でもいつかは明らかになる、というのが当事件の教訓だろう。これから"成功するためなら仕方ない"と各業界で言われている特殊儀礼は次々に暴露されていくだろう。もしかすると現在は、企業が自らの膿(うみ)を出すチャンスかもしれない。

『経済ニュースのバックヤード』は毎週月曜日更新!

坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

坂口孝則の記事一覧