私が執行委員長になってからは、ゆるい感じで定例会を進めています 私が執行委員長になってからは、ゆるい感じで定例会を進めています

連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第21回

ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!

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今回はウーバーイーツ配達員で結成した組合の話をしようと思います。

私が配達員を始めたのは2018年1月。運動不足の解消、新しい店の情報や流行の食べ物を探る雑誌企画のネタ探しが配達をするきっかけでした。

当時は、ウーバーイーツ配達員の存在はもちろん、好きな時に働けるスタイルや仕事の依頼を自由に断ることができるシステムが珍しかったので、配達員の働き方紹介というシンプルなものでも企画として記事が成立し、ライターとして稼がせていただきました。

そんな配達員兼ライターの生活を始めてから1年後。2019年になると配達エリアも配達員も増えていきました。そして2019年6月、配達員が組合を作るという話題がネットニュースになりました。

その際、『週刊プレイボーイ』の編集者から「ウーバーイーツの組合ができるそうですよ」と連絡をいただき、「何か企画ができるのでは?」という理由で組合の結成準備会に参加。2019年10月、組合結成とともにメンバーになりました。

おそらく、メンバーの中で一番不純な動機で加入したと思うのですが、組合といっても20人ほどの小世帯。何か雑誌の企画にならないかと思い、月に一度の定例会でいろんな意見を投げたり、毎年10月に行なわれる定期大会でいたずらに執行委員長(組合の代表)に立候補したら、2022年から本当に執行委員長をやることになりました。

組合に入って何をやりたいか、というのは加入メンバーによってそれぞれだと思います。ただ、これだけは求めていこうという根底にあるのは「運営側との話し合いがしたい」「安心して働けるために保障を充実させてほしい」です。

組合を結成する少し前から、配達員が1回の配達でもらえる配達料は右肩下がり。当初は配達料を改定する際、運営側が説明会を開いたこともありましたが(といっても、バイトと思われる人が渡された紙を読み上げ、こちらから質問しても「よくわかりません」と答えるだけでした)、今では配達員に「配達料が改定されます」と一斉メールが送られてくるだけ。

先日もブーストと呼ばれるボーナスシステムの廃止が一斉メールで送信されてきました。また、東京エリアでは10月23日よりクエストの金額がなんの告知もなく減額されていました。運営側への問い合わせもメールかチャットでしかできず、問い合わせても返事がこない場合が多々あります。

普通に話し合いができれば問題ないのですが、それができない。ならば、話し合いの場を作るために法律の力を借りるしかない。労働組合を作れば話し合いができるのではないか。という感じです。

保障に関しては、自転車やバイクを運転する事故のリスクが高い仕事なので、事故にあった場合のサポートを充実したものにしていただけたらという思いです。

組合結成直後、運営側に「団体交渉がしたい」と連絡をしたのですが拒否されました。それがきっかけで2019年11月に東京都労働委員会に申し立てをしたのち、2022年11月に東京都労働委員会から「組合として認める。運営側は団体交渉に応じなさい」という命令が出ましたが、労働系の揉め事は都道府県の労働委員会→厚生労働省の中央労働委員会→地方裁判所→高等裁判所→最高裁判所と、最大で4回、不服を申し立てることができるので、最終決定まで少なく見積もっても10年ほどかかる見込みです。

普段の組合活動は、月に一度の定例会です。以前は東京都労働委員会に組合として認める命令を出してもらうために事故の実態を調査したり、弁護団の皆さんとの打ち合わせなど、いろいろやっていましたが、東京都労働委員会の場で行なった証拠提出や証人尋問の記録、そこで出された命令が審議のベースとなるようなので、活動のメインは定例会となりました。

といっても、定例会では「労働法とは」みたいな小難しい話をするのではなく、配達の愚痴を言い合ったり、配達の際にこんな工夫をしているなどの情報交換をしています(夏場は「いかにしてガリガリ君を溶かさずに運ぶか」みたいな話をしました)。

運営側と直接話ができるまでには10年以上かかると思うので、定例会で毎回激しい議論を戦わせても疲れてしまいます。それに熱い思いをぶつければぶつけるほど、現実が何も動かないと失望してしまいます。

失望して組合を辞め、メンバーがいなくなってしまうと望んでいる団体交渉もできなくなってしまうので、ゆるく長く続けられる組織にしよう。私が執行委員長になってからは、そう思いを込めながら、ゆるい感じで定例会を進めています。

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渡辺雅史

渡辺雅史わたなべ・まさし

フリーライターとして雑誌や書籍への執筆をするほか、ラジオ番組やテレビの番組の構成作家としても活躍。趣味は鉄道に乗ること。国内の全鉄道路線に乗車したほか、世界20の国・地域の鉄道に乗車。

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