知らずに定期購入させられていたり、嘘のタイムセールで過剰にあおられたり、勝手に手数料が上乗せされていたり......。知らずに定期購入させられていたり、嘘のタイムセールで過剰にあおられたり、勝手に手数料が上乗せされていたり......。

今やECサイトは生活の一部になっている。しかし、そこにはユーザーをダマして商品を購入させたり、個人情報を抜き取ったりする悪意ある業者も存在するのだ。そんなヤツらの罠にハマらないための基礎知識を紹介!

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■7つのパターンを知ることが大事!

ネットで商品を買おうとするときに「残りわずか」「現在○人が閲覧中」などといった文字を目にすることがあるだろう。また、ひとつだけ注文したはずが、気づかないうちに定期購入になっていたという経験をした人もいるかもしれない。

ユーザーをダマして商品を購入させたり、個人情報を登録させたりする表示のことを「ダークパターン」という。

消費者庁の調査によると、ネットでの商品の予約や購入のときにダークパターンを目にしたり、経験したことのある人は89.2%にも上るという(2022年度「消費者意識基本調査」)。

また、東京工業大学の研究チームが日本の通販やゲームなどのアプリ200個について調べたところ、その93.5%でダークパターンが使われていて、平均して3.9個も設定されていたという。

われわれの知らないうちにダークパターンは数多くのサイトに広がっている。

ではダークパターンにはどんなものがあるのか? どうすれば気をつけられるのか? UXライターで『ザ・ダークパターン』(翔泳社)の著書がある仲野佑希(なかの・ゆうき)氏に教えてもらった。

――あらためて、ダークパターンとはなんですか?

仲野 ダークパターンは2010年にUXデザイナーのハリー・ブリグナル氏が使い始めた言葉で「ウェブサイトやアプリで使用され、ユーザーをダマして、何かを購入させたり登録させたりするなど、意図しないことを実行させるトリックのこと」と定義されています。

――ダークパターンにダマされる人は多いんですか?

仲野 多いと思います。実際、私も引っかかったことがあります。例えば、ECサイトでショッピングをしていて、目立つボタンが「次に進む」を意味するのだろうと思い、無意識にクリックすると、それが有料プレミアム会員の加入ボタンでした。そして、無料お試し期間を経た後に、その会員費が銀行口座から引き落とされていたことに気づきました。

後から冷静になって考えれば、自分が間違ったボタンを押していたとわかるのですが、そこにはある種、欺瞞的(ぎまんてき)とも受け取れる手法が使われています。

それにクレジットカードの利用明細を細かく見ている人なら、すぐに知らない会員費を支払っていることに気づくでしょうが、細かく見ていない人は、自分が使ってもいないサービスにお金を払い続けていることに気がつかないでしょう。

――じゃあ、明細をきちんと見たほうがいいですね。

仲野 そうですね。ただ、明細を見てわかる段階だと、すでにお金が引き落とされているので遅いかもしれません。それよりもダークパターンに引っかからないことが大切だと思います。そのためには、どんなダークパターンがあるか知っておくことです。

――では、どんなものがあるのか教えてください。

仲野 ダークパターンは主に7つに分類されています。ひとつ目は「こっそりパターン(スニーキング)」

これは何かをショッピングカートに入れると、関係ないものがこっそり追加されているという手法です。

例えば、花屋さんのオンラインショップでお花のブーケをカートに入れたら、花につける有料のメッセージカードがこっそり入っていた。

また、ライブのチケットを購入して支払いの画面になったら「決済手数料」や特別販売利用料などが上乗せされていて、最初に見たチケット価格よりすごく高くなっていたなどです。

――手数料といわれると「しょうがないかな」とも思いがちですが、いろいろな手数料が加わっていると「ちょっとやりすぎだろ」と思いますね。

仲野 ふたつ目は「緊急性パターン(アージェンシー)」です。

これは「セール終了まであと」といった文字と一緒にカウントダウンタイマーが表示されているものや「期間限定セール」などとうたっているもので、問題なのはそのセール期限が嘘の場合です。

実際にあった事例では、タイマーが「59分、58分......」とカウントダウンしているのですが、そのサイトにいつアクセスしても同じ時間からカウントダウンが始まります。また、セールのタイムリミットを迎えると、再び最初の時間からカウントダウンが始まるといったものもありました。

――もうすぐセールが終わると思うと「今のうちに買わなくちゃ」と思いますからね。

仲野 3つ目は「誘導パターン(ミスディレクション)」

これは企業に都合のいい訴求だけ文字のサイズを大きくしたり、色を派手にしたりしてユーザーの注意を引きつけ、特定のボタンや文章を選ぶように誘導する手法です。

例えば「この商品を購入する」ボタンをクリックしたときに1回だけの購入かと思ったら、定期購入のボタンだったなど。この販売ページの下のほうには小さく目立たない文字で「定期購入」や「返品時の送料は購入者負担」などの重要な情報が書かれていたりします。

また、ひっかけ質問などもあります。例えば「メルマガを希望しない」というチェックボックスに最初からチェックが入っていて、下に小さく「希望しない場合はチェックを外してください」と書いてあります。するとメルマガが不要なユーザーは「メルマガを希望しない」という言葉だけに注目して、チェックを入れたままにしてしまいます。

さらに「公開したくない情報の項目はチェックしないでください」という二重否定の紛らわしい同意文も実在します。こうなると消費者側は混乱してしまいます。

――確かに、二重に否定されるとチェックしていいのかわからなくなりますね。

■規制は強化されている。しかし、まずは自衛を!

仲野 4つ目は「社会的証明パターン(ソーシャルプルーフ)」です。

これは自分の判断よりも周りの判断のほうが正しいと感じてしまう人間の心理を利用した手法です。

例えば、「この商品は○○ランキングでナンバーワンに選ばれました」「すでに何万個売れています」「現在○人のお客さまがこの宿を閲覧しています」「多くのお客さまから喜びの声をいただいています」といった表示です。

これが事実に基づいた情報であれば問題ありません。しかし、最近は企業から依頼されて、その商品がナンバーワンになるように調査をする会社が出てきました。例えば、ごく限られた期間だけだったり、とても小さなカテゴリーだったり、競合他社の商品を外した調査結果だったりします。

また「お客さまの声」が載っている場合もそれがサクラだったり、捏造(ねつぞう)だったりすることもあります。ストックフォトの顔写真を使用して、実在する顧客であるかのように表示しているのです。

――「ナンバーワン」といわれると、いい商品なんだと思ってしまいます。

仲野 5つ目は「希少性パターン(スケアシティ)」です。

これは「在庫残りわずか!」などとうたっているものです。もちろん、それが事実であれば問題ないのですが、実際には在庫が100個も200個もあるものを残りわずかなどと表示していれば、消費者をダマす表示に該当する場合があります。

また、販売する側からすると、この「残りわずか」というのが一番導入しやすいダークパターンといえます。テキストを少し変えるだけでいいので、コストはほとんどかかりません。米プリンストン大学などの研究でも、この在庫僅少メッセージが最も多く使われているダークパターンであることがわかっています。これは誠実な売り方ではありません。

――在庫数が本当か嘘かは、なかなかわかりませんしね。

仲野 6つ目は「妨害パターン(オブストラクション)」

よくあるのは退会が非常に複雑な流れになっているものです。例えば、ある動画サービスは入会するときはすごく簡単なのに、退会するときは何ページも進まなければ退会ボタンまでたどりつけませんでした。

まず、退会するボタンがなかなか見つからない。見つけたと思ったら「今、退会するとこのアニメもこの映画も見られなくなりますよ」と引き留めが始まる。それが終わると、今度はアンケートに答えてくださいということになり、やっと退会できるようになります。

ほかには、契約はネットでできたのに解約はネットでできないというパターン。これは解約方法が電話だけに限定されていて、オペレーターが「なぜ解約するのか」「退会ではなく、休会ではどうか」などとしつこく引き留めたりします。

さらに退会手続きは平日の何時から何時までで、企業側から折り返し電話がかかってくるのを待っていなくてはいけない場合もあります。

――それだと、なかなか解約や退会ができないですよね。

仲野 最後が「強制パターン(フォースドアクション)」

「このブログを読むには会員登録をしてください」「このサイトを利用するにはメルマガ登録をしてください」などとユーザーの個人情報やプライバシー情報を入手するパターンです。

必要以上の個人情報を無理やり提供させるのは、ユーザーの不満につながるダークパターンだといわれています。

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実は、こうしたダークパターンの大半は法律的にはグレーゾーンで、きちんと規制されていない。しかし、トラブルは年々増えている。

消費者庁の「『定期購入』に関する相談件数」は、2015年が4141件だったのに対し、2020年は5万6302件と約14倍になった。

欧米ではすでにダークパターンの規制は強化されている。例えば、米カリフォルニア州では、2021年にサービスの解約手続きにおけるダークパターンの使用が禁止された。

一方、日本も2022年6月に改正特定商取引法が施行されて、最終画面に支払い総額や支払い回数、解約方法などを表示する義務を課した。今後はさらに規制が進むだろう。

しかし、まずはダークパターンにひっかからないように自衛することが先決だ。ECサイトなどを利用するときには、焦らず落ち着いて、きちんと表示を読んでから購入するように心がけたい。