更生支援活動はフェイクだったのか――。強盗事件を指示したとして、半グレ集団「怒羅権(ドラゴン)」の元メンバー・汪楠(ワン・ナン)容疑者が、警視庁に強盗傷害容疑で逮捕された。自身の犯罪や服役経験をもとに、刑務所の収容者に本を差し入れする活動に取り組んできた汪容疑者。メディアにも登場して更生を誓ってきたが、元の木阿弥となってしまった。
■実行犯は現場で死亡
警視庁担当記者が事件を振り返る。
「今年3月に東京都豊島区内のマンションの一室に、ガスの点検業者を装った日本人とモンゴル人の男5人が押し入り、中国籍の会社社長ら男女2人を結束バンドで縛って現金109万円やノートパソコンなどを強奪。汪容疑者はこの事件を計画・指示したとして警視庁に逮捕されました。
被害者は軽傷で済みましたが、実行犯のモンゴル人の男が返り討ちで首を刺されて死亡するという惨い事件でした。警視庁は8月以降、実行犯や運転手役の40~50代の日本人の男5人を逮捕していて、このうちの数人は汪容疑者と同じ地元で面識があったようです。
彼らのスマートフォンの解析から、遂に"本丸"の汪容疑者に捜査の手が伸びたかたちです。逮捕の際は、汪容疑者の千葉県内の自宅の窓を突き破って侵入するほど大立ち回りでした。汪容疑者は『私にはまったく関係ないこと』と容疑を否認しています」
関係者によると、汪容疑者は父親の再婚相手が中国残留孤児で、中学2年の1986年に帰国した2世。東京・西葛西で暮らし、80年代後半に仲間らと怒羅権を結成したとされる。
「汪容疑者は怒羅権の創設メンバーと言われていますが、実際は彼と同じ中学の2~3歳年上の先輩が立ち上げ、下っ端としてごく短期間活動をしていました。そして、17歳で暴力団構成員となっているので、怒羅権メンバーの一部は彼を部外者扱いしています。ただ、2021年に怒羅権の大物メンバーが死去した際は葬儀を取り仕切っており、参列者には現役ヤクザも大勢いました。そういったわけで、怒羅権とは常にコンタクトを取っていて、かつ暴力団とのパイプ役であったと言えます」(東京の暴力団事情に詳しいA氏)
■13年間の服役後に再犯防止活動へ
汪容疑者は90年代にはピッキンググループを組織し事務所荒らしを行い、盗んだ銀行通帳から金を引き下ろしたなどの罪で2000年に逮捕。岐阜刑務所で懲役13年を務め、2014年に出所。そして、2015年に始めたのが受刑者に本を送る「ほんにかえるプロジェクト」だ。
「自身が服役した際に本を読んで人生を見つめなおしたという名目から始めた活動で、複数の雑誌やドキュメンタリー番組にも取り上げられました。ただ、捜査当局は、犯罪仲間を募る活動になりかねないと警戒していました。
2021年には恐喝の現場に同席していたということで、恐喝未遂で逮捕されました。起訴にはなっていませんし、実質的には嫌がらせめいた逮捕。それだけ、警察が汪容疑者の更生ぶりを疑問視し、マークしているということなのでしょう。
あと、元ヤクザや刑務所出所者が、更生支援をうたって活動していることがありますが、実際は活動で知り合った人物を現場仕事に出して、上前をはねるケースはよくあると聞きます」(前出記者)
今回の事件で注目されるのが、実行犯にモンゴル人が加わっていた点だ。捜査関係者が語る。
「怒羅権のようなグループが手荒な事件を起こす場合は、コネクションを用いて中国からの留学生や不法入国したヤツを使うことが多い。ただ、コロナで中国からの人材供給が滞っているので、最近はモンゴル人を使うことが多い。すでに犯行に関わったモンゴル人2人は首尾よく帰国しているし、日中の犯罪ネットワークにモンゴルも加勢しているかたちだです」
「ほんにかえる」と称して受刑者の更生支援に関わってきた汪容疑者が、自ら更生の難しさを証明した今回の事件。果たして、「刑務所にかえる」のだろうか。