死傷者数は過去最悪! 都市部に出現する 「アーバンベア」も急増中! 重傷者が語る恐怖体験も! 死傷者数は過去最悪! 都市部に出現する 「アーバンベア」も急増中! 重傷者が語る恐怖体験も!

クマだ! 全国各地で相次ぐクマの目撃情報やクマによる傷害事件。その勢いはかつてないほどで、人身被害の件数は現時点で過去最悪となっている。果たして、クマ被害は今後さらに広がるのか。思いもよらぬ所で、クマ出没......そのリスクは、ますます高まっている!

■市街地に突如現れたクマ

10月19日午前、北秋田市鷹巣(たかのす・秋田県)の市街地で、10代の女子高生ら5人が重軽傷を負った、ツキノワグマによる"連続襲撃事件"。

現場は、JR鷹ノ巣駅に程近い市の中心部で、近隣には小学校や病院、商店街、そして民家の集積地がある。11月中旬に現場へ行くと、クマに襲われたこの街には今もなお、深い爪痕が残されていた。

北秋田署によると、10月19日の朝6時40分頃、まず散歩中の80代女性がクマに襲われ、その20分後の7時頃には別の80代女性がおそらく同一のクマに引っかかれ、左腕や胸部を骨折。

2件の現場はいずれも住宅地に隣接する鷹巣小学校の至近距離にある。この日、同校は臨時休校となるが、クマの出没が20分遅ければ集団登校中の児童が襲われていた恐れもあった。「間一髪でした......」と同校の関係者はゾッとした表情で振り返る。

だが、同日朝7時20分頃、小学校から駅方面へ約800m離れたバス停で、バスを待っていた登校中の女子高生がクマに左腕を噛まれ、その直後にはバス停から30mほど離れた病院前の歩道で80代の女性が背後から襲われた。

突如クマが出没し、次々と人を襲った秋田県北秋田市鷹巣の市街地の様子突如クマが出没し、次々と人を襲った秋田県北秋田市鷹巣の市街地の様子

さらに同11時20分頃には、女子高生が被害に遭ったバス停の向かいにある民家の裏庭で、住人の60代男性が頭部や脇腹を噛まれるなどして重傷を負い、5人目の被害者となった。

この男性によると、加害グマは「目測で体長1.5m、体重100㎏はある」オオグマだった。このクマは男性を襲った後、北へ逃亡する姿が目撃されたのを最後に、現在(11月16日時点)も行方知れずとなっている。

被害現場のバス停近くに住む50代の女性がこう話す。

「クマが出てから1ヵ月ほどたちますが、今でも外を出歩くのが怖い。自宅の裏庭に出ることさえ、クマの通り道になっているんじゃないかと不安で、恐怖を感じます」

こうした"トラウマ"を抱えている人は多かった。

「10月19日以降、鷹巣の周辺地区で連日、クマが目撃されている中、わずか100~300mの近距離移動にタクシーを使う方が多くなっています」(地元タクシー会社)

クマは街中では夜行性であるため、夜に出歩く人が減少し、鷹巣の飲み屋街では「客入りが悪くなった」という店もある。鷹巣小学校では今も集団登校を控え、全児童が保護者の車かスクールバスで通学するため、朝夕の登下校時には学校周辺が送迎車両で混雑する状況が続いている。

■クマは河川敷を伝ってやって来る

環境省の発表(速報値)では、今年4~10月末までのクマによる人身被害は18道府県で発生。被害者は180人に上り、2006年の統計開始以降、最も多かった3年前(158人)を上回る被害が出ている。180人のうち、死者は5人。都道府県別では秋田が61人と最多で、岩手42人、福島13人、青森11人と続く。

人身被害が多いのは、山林にすむクマが人間の生活圏に入り込んでいるためだ。その理由について、『熊が人を襲うとき』(つり人社)などの著書があるクマ研究家の米田一彦氏がこう話す。

「まず、全国のクマの推定生息数は、1975年の約3000頭から90年代末に1万頭、12年1万5000頭となり、近年は5万頭まで急増しました。これに伴い、クマの生息域は奥山から里山へと広がり、人間の生活圏にどんどん近づいてきています」

米田氏がこう続ける。

「日本各地の里山では過疎化が進み、人家の庭などにあった柿の木は実がついたまま放置され、果樹園などの畑も担い手不足で耕作放棄が進んでいます。さらに、クマを狩るハンターが急減し、行政のクマ対策予算も減少の一途。つまり、繁殖を続けるクマの増加圧に人間が負け続けていることが、生息域の拡大につながっています」

クマ出没マップ

では、今年になって街中でのクマの出没や人身被害が急増しているのはなぜか。

「それはおそらく、クマの生態とエサの問題に起因します。クマはクマ同士で共食いをする動物だから、力の弱い雌グマや子グマは、普段は奥山にいる雄のオオグマから距離を置くように、里山に生息しています。

ところが、今年はクマにとって秋の主食となるドングリの実りが悪く、特に東日本では、猛暑や少雨の影響もあって奥山にあるブナとミズナラが同時に凶作となりました。これによりエサを失った雄グマは奥山から里山へ下り、ここを占拠する形でコナラや栗を食べるようになります。

一方の母子グマは、雄グマの接近に押し出される形で里山から平野部に下りてくる。そして、エサ場が豊富な平野部にすみ着くようになり、食事中、あるいは移動中に出くわした人間を襲うようになった。これが街中でクマ被害が多発した要因でしょう」

人を恐れず、街にすみ着くようになったクマを「アーバンベア」と呼ぶ。今年は奥山でのエサ不足により、この"新種のクマ"が増加した。

クマが街へ下りてくるルートには一定のパターンがあると、富山県自然博物園「ねいの里」の野生鳥獣共生管理員、赤座(あかざ)久明氏は指摘する。

「クマが平野部に出没した地点を分析すると、多くの場合、出没地点の近くには河川があります。川沿いには背の高いやぶが生い茂った河川敷があり、草木がジャングルのように発達した河岸段丘(川沿いに形成される崖)がある。

クマにとっては身を隠しながら移動しやすいルートのひとつです。また、川の上流には、山域から平野部に向け、森林(緑地)が細長く突き出したポイントがそこら中にあります。クマは帯状に伸びた緑地を一気に下り、そこに接続する川に移って下流へとやって来る。これがよく見られる行動パターンです」

北秋田市鷹巣の近隣にある河川敷。クマが身を隠しながら移動しやすいルートは、こういった場所だとみられている北秋田市鷹巣の近隣にある河川敷。クマが身を隠しながら移動しやすいルートは、こういった場所だとみられている

■人に危害を与えるクマの繁殖、という災厄

では、川伝いに街中に下り立ったクマはその後、どのような行動に出るか?

赤座氏がこう説明する。

「クマは奥山では日中に活動しますが、市街地などの平野部では人を避ける習性があり、夜行性にシフトします。つまり、昼は人目のつかない場所で身を潜め、夜に動き出す」

日中の"潜伏場所"について、前出の米田氏がこう話す。

「草木が生い茂った寺の境内や民家の裏庭、納屋や車庫といった場所が多い。クマは視力が悪く、視界が白黒なので、こうした暗い所を森と間違えて入り込むんです」

赤座氏がこう続ける。

「例えば富山市で出没するクマの9割は柿を狙っています。自動撮影カメラで撮影した映像では、深夜2時頃に民家の裏庭の木によじ登って柿をムシャムシャと食べているようなシーンをよく見ます。

そして、夜明け近くになると食事を終え潜伏場所に帰っていくのですが、その道中で人と出くわすと攻撃に出る。なので、新聞配達員や早朝に散歩する高齢者らが被害に遭うケースが多いんです。

日中でも、潜伏場所の近くで工事が始まるとか、車や人が異常接近すれば外へ飛び出し、そこに人がいれば襲いかかります」

今月初め、秋田県鹿角市(かづのし)で、ソバ畑(写真)にクマが12頭(!)も同時出没したという(現地の証言では"20頭"説もあり)今月初め、秋田県鹿角市(かづのし)で、ソバ畑(写真)にクマが12頭(!)も同時出没したという(現地の証言では"20頭"説もあり)

山の中にいるクマと、街中に出てきたクマの違いについて、米田氏がこう語る。

「私自身、五十数年間のクマに関わる活動の中で3000回ほどクマと遭遇しました。山の中にいるクマは基本的にはおとなしく、登山客らを襲うケースは極めてまれです。しかし、平野部に出たクマは、その時点で極度な興奮状態にあります。

それは身を隠せる安息の場が少なく平常心を失っているためで、人に遭遇すると積極的に排除しようとしてくる。10m先から自分のほうへ走ってくるクマがいれば、攻撃を仕掛けてくるとみるべきです」

人間と対峙(たいじ)したクマはどんな攻撃を仕掛けてくるか。

「2017年に岩手医科大学がクマ外傷50例を対象に行なった調査では、受傷部位の90%が顔面でした。頭部や頸部(けいぶ)の受傷も多いです。こうした医療機関の調査結果やクマ被害に関する過去の新聞記事を精査すると、多くの場合、クマは初撃で前足や牙を使って首から上を狙ってくる傾向が見られます。

オオグマの場合、前足は幅14~16㎝程度と大きく、長い爪もある。これが顔を直撃すると広範囲に皮膚がめくれ上がり、目に当たれば眼球が破裂、失明に至る事例も少なくありません。初撃の後、被害者に覆いかぶさり、口やその周りを執拗(しつよう)に噛みついてくる。これは獲物を窒息させるためのクマの習性と思われます」

秋田県大館市のホームセンターで見かけた「クマ対策用品」コーナー。デカい音が鳴る爆竹などが置いてあった秋田県大館市のホームセンターで見かけた「クマ対策用品」コーナー。デカい音が鳴る爆竹などが置いてあった

前出の北秋田市鷹巣の5人目の被害者、湊屋(みなとや)啓二さんがクマに襲われた当時のことをこう振り返る。

「午前11時過ぎ、車で出かけようと裏庭の車庫のシャッターを開けた瞬間、目の前にクマがいて、目が合いました。クマとの距離は1.5mほど。第一印象で『デカっ!』と思い、すぐに反転して家のほうへダッシュで逃げましたが、そこから約10m先で追い抜かれ、真正面から攻撃を受けてそのまま横倒しになりました」

その後、時間にして1、2分、クマに覆いかぶさられながら攻撃を受けたというが、何をされているのかは「まったくわからなかった」という。

「そのとき、私は腕を上げて頭と顔を防御していました。クマの攻撃は猛烈に速く、噛みつかれているのか、引っかかれているのか、まったくわからないんです。ただただ、クマの『ぐー、ふー』という荒い息遣いだけが聞こえてきて、そのときは『俺はこのまま死ぬんだな』と思いました」

その後、「一瞬クマの動きが止まった」のを感じ、立ち上がって無我夢中で屋内に逃げ込んだ。そばにあったタオルで出血が多い頭を止血しながら鏡を見ると、前頭部が10㎝四方にめくれ上がり、「頭蓋骨が見えていた」という。

北秋田市鷹巣でクマに襲われた湊屋さん。傷は頭部を中心に体中に及び、被害から1ヵ月を経た今も、彼の顔には生々しい爪痕と噛み痕が残っている北秋田市鷹巣でクマに襲われた湊屋さん。傷は頭部を中心に体中に及び、被害から1ヵ月を経た今も、彼の顔には生々しい爪痕と噛み痕が残っている

前出の米田氏がこう話す。

「もしクマの襲撃に遭って気絶していたら危なかったかもしれません。クマは獲物の死を確かめる習性があり、獲物を倒すとしばらく、じっと見るんです。そこで気を失っていると、クマは傷口を舐め始め、血を舐めているうちに食べる本能が覚醒し、興奮しだして獲物をかじり始める。

こうして本来は草食性が強いクマが肉食化し、その習性は子グマ、孫グマに伝わっていく。そうして人をエサと見る家系のクマが、東日本の複数の地域に存在します。その生息域が広がることは人間社会にとっては"最悪の事態"です。人身被害を起こしたクマは、必ず捕獲しなければなりません」

■都市部での出没リスクは?

さて、気になるのは今後だ。今年はドングリ類が凶作となり、クマ"大出没の年"になった。来年以降はどうなるか。

赤座氏はこう見る。

「クマが大出没する年というのは、今年もそうですが奥山のブナとミズナラが同時に凶作になる年と重なります。過去、2年続けて同時凶作になった事例はなく、そうなるのは数年に一回のペース。来年の今頃はクマの出没など話題にもならないと思います」

だが、米田氏の見立ては異なるものだった。

「確かに、ブナとミズナラの凶作年が重なるのは数年に一度というサイクルがありますが、来年、今年のような酷暑となれば同時凶作が起き、クマの大出没につながるというリスクは否定できません。

また、東日本を中心に、各地の里山は現在、母グマと子グマで飽和状態にあります。ある生息地が飽和状態になると、若いクマが"開拓者"となり、新たなエサ場を探し歩くようになる。

大出没となった今年はそうしたクマが各地に現れ、その中には平野部の果樹園や、それこそ柿の木がある民家の裏庭や納屋などに根城を得たクマもいたはずです。12月以降、冬眠期に入れば、いったん山に帰ると思いますが、冬眠が明ける来春以降、また戻ってくる恐れもある。

そうなれば、ブナやミズナラの豊凶に関係なく、市街地でのクマの出没が恒常的に続く可能性もあります」

数を増やし人間の生活圏に近づくクマ。都市部に住むわれわれが思わぬ所で彼らと遭遇するのは、時間の問題かも......(写真はツキノワグマ)数を増やし人間の生活圏に近づくクマ。都市部に住むわれわれが思わぬ所で彼らと遭遇するのは、時間の問題かも......(写真はツキノワグマ)

そこで気になるのは、大都市圏でのクマ出没リスクだ。

今年は東京都でも奥多摩町や檜原(ひのはら)村など山間の地域で100件超のクマの目撃情報があるが、近年では珍しく、町田市でもクマ1頭が目撃され、都内での分布が拡大している可能性も指摘されている。

「町田市の目撃スポットは山域ではありますが、どんどん都市部へと近づいてきている印象を受けます。その地点から突き出す緑地や、付近の川辺をたどると住宅が密集する町田市中心部、その先には横浜市がある。

また、東京では奥多摩から多摩川を伝って人口が密集する下流域にクマが下りてくる可能性も否定はできません。今後、思いがけない所にクマが出現するリスクは、大都市部にもあります」