ゴールドカードは小金持ちのステータス、ブラックカードは大金持ちのシンボル......という時代はもう過ぎ去ったのか ゴールドカードは小金持ちのステータス、ブラックカードは大金持ちのシンボル......という時代はもう過ぎ去ったのか
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「クレジットカード」について。

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「そりゃ、すべてはモテるためですよ」。まさか九州の居酒屋で、名著のタイトルのような発言を聞くとは思わなかった。目の前にいたのは知人のコンサルタントで、ブラックカード保持者だった。なんでも買い物から銀行、証券......生活のすべてを楽天に集約すると、ブラックカードの招待が届くらしい。

「戦車も買えるわけでしょう?」と訊(き)くと、「そんな使い方しませんよ。ポイントの還元率がいいくらい」だと。「え、ポイントの還元なんて考える人がブラックカードを持つんですか(笑)」。「いや、会計のときに黒いカードを出すと、女性とセックスできる可能性が高まるかもしれないじゃないですか」

ちなみに、同氏は出会い系アプリで「年収2000万円以上」という承認マークがあるとモテるとの噂を聞き、運営会社に「俺は年収2000万円未満だが承認してほしい」と交渉した猛者だ(個人会社なので節税のため収入は抑えているが、経費が使えるため実質年収は2000万円以上だから、とのこと)。なるほど、ブラックカードは富豪が持っていると思っていたが、街場の居酒屋にもいるようだ。

先日、NTTドコモが発表した調査が話題になった。ゴールドクレジットカードの保有状況を調べたもので、保有者の62.8%が年収400万円未満だった。年収200万円未満も39.6%もいた。そして、ゴールドカードを持つ理由についても、ポイントやマイルの還元率が良いという点をあげるひとが最多だった。

私の記憶では、20代のころ見栄(みえ)でゴールドカードにした。知人らにも見せた。現在40代の私と同世代かそれ以上ならば、同様の経験があるひとも多いだろう。もはや昭和・平成は遠くになりにけり。

ところでこの発表資料で興味深いのは、カード所有者の年収分布のグラフだ。年収200万円未満、400万円未満、600万円未満は色分けされてハッキリ読めるのに、それ以上の区分は色が灰色で統一され、ひと目では判別できなくなっている。これはカード発行者側=NTTドコモが、もはやゴールドカードは年収がさほど高くない層のものだと事実上宣言しているようなものだろう。

年収400万円未満で、食費や公共料金などを統一し、仮に年間100万円をクレジットカード払いにしているとする。ポイント還元率といっても違いは微々たるものだから、それを考える時間があったら年収を上げる工夫をしろよ、と思うひともいるかもしれない。

ただ、実質年収が伸び悩む中、少しでも生活防衛をするのは当然ともいえる。さらに、ゴールドカードのハードルも下がっている。年間1万円程度の費用はかかるが、スマホの契約とセットでポイントが貯まったり、クーポンに交換できたりする。100万円使えば年会費以上のメリットがある。

ブラックカードが富裕層の代名詞ではなくなったように、ゴールドカードは民主化し大衆のステータスシンボルになった。もっともデジタル決済が一般化する中で、物理的なカードの"色"の意味が"漂白"されるのは当然というべきか。多くのひとにとってゴールドカードは金のステータス獲得の意味ではなく、たんに生活をハックする選択肢=カードにすぎない。ブラックカードすら「モテるためのもの」だからね。

坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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