フィリピンの入国管理局収容所に収監されていた日本人の男らが、実行犯にスマホで指示を出すなどして2022年5月から今年1月にかけて繰り広げられた一連の広域強盗事件に、新たな容疑事案が追加された。
11月28日、警視庁は事件の主犯格とされる今村磨人被告が、関係者への口止めを図るのを手助けしたとして、広島弁護士会に所属する40代の男性弁護士Kの自宅と法律事務所を証拠隠滅容疑で捜索したのだ。
Kは今年2月下旬、原宿署に容疑者として勾留中だった今村被告と接見室で面会した際に、持ち込んだスマートフォンを使い、フィリピンにいた人物とビデオ通話させたとみられている。当時、今村被告は第三者との接見が禁止されていた。
■弁護士の接見は立会人なし
しかし、警察署の接見室でビデオ通話など、可能なのだろうか。
「弁護士であれば物理的には簡単です」
そう話すのは、加藤・浅川法律事務所の加藤博太郎弁護士だ。
「家族と友人などが勾留中の容疑者や被告人に接見する場合、留置所なら警察官、拘置所なら刑務官立ち会いのもとで15分から20分と時間制限が設けられます。そのうえ、スマホをはじめとする電子機器の持ち込みも禁止される。
ところが弁護士であれば、憲法で保障された接見交通権により、立会人なしで24時間365日、時間も無制限に接見ができ、持ち込み品の制限もない。これは、容疑者や被告人に接見禁止が付いている場合も変わりません。
今の時代、ほとんどの接見室では5Gの電波が届くので、弁護士が協力すればビデオチャットも可能です。ただ、通信機器を使って外部と連絡を取らせる行為は、接見禁止か否かにかかわらず、認められていません」(加藤弁護士)
しかし、弁護士が接見相手に外部と連絡させる事案は密かに横行しているようだ。
「こうした行為に加担する弁護士は伝書鳩役という意味で『ハト』と呼ばれ、公判を担当する弁護人とは別に雇われることが多い。犯罪組織などは、ハトを引き受けている弁護士にあらかじめツテがありますし、なければ過去に懲戒歴のある弁護士に片っ端から声をかけるなどしてハトを飛ばします。
家族や友人と雑談させるだけだったり、今村被告のように証拠隠滅の指示だったり、その目的は様々です。報酬もケース・バイ・ケースですが、安ければ一回5万円でも引き受ける弁護士はいるようです」(同)
ただ、「ハト行為」が発覚した場合、加担した弁護士は「軽くて懲戒処分、証拠隠滅に加担して懲役刑以上の有罪が確定すれば、弁護士資格を剥奪される」(加藤弁護士)という。にもかかわらず、ハトの依頼を受ける弁護士が後をたたないのはなぜなのか。
■弁護士急増がモラル低下の一因?
「国の司法制度改革を背景に、弁護士人口はここ20年以上急増傾向にあり、2000年3月末に1万7126人だったのが2023年3月末には4万4783人と約2.6倍になっている。こうしたなかで量産されているのが『食えない弁護士』です。そうしたなか、あくまで一部ですが、弁護士としての特権を悪用してカネに変えようという者も出てきてしまっているのでは」(同)
ちなみに前出のKには前科があった。
「Kは国の新型コロナウイルス対策の持続化給付金など、約1900万円をだまし取ったとして広島県警に詐欺容疑で逮捕されており、第一審の保釈中の身で今村被告のハトとなっていた。ちなみにKはその後、一審では有罪が確定し、控訴しましたが棄却されています。
公判中は弁護士としてのまともな仕事は入ってきませんし、有罪が確定することも覚悟して、資格を剥奪される前に、ひと稼ぎしておこうと思ったのかもしれません」(同)
法律家が法を破る行為は決して許されるものではないが、司法試験という難関を潜り抜けた彼らが、その専門性を持て余さざるを得ない現状も改善されるべきだろう。